叶わないって知ってるけれど
一日一筆複数連題です!
お題「捨てられない缶」「夜空に架かる虹への梯子」「死体愛好の王子」
あの人を想って捨てられないものがある。
あの人のものはもちろん、あの人が触れたものまで。
それでも多くの決別をした。いろいろと心を鎮めて捨て始めた。
それでも捨てられない「どうでもいいもの」。
缶。あの人が飲んだ、今は乾ききってしまった空き缶。
あの人の唇が、歯が、舌が、粘膜が触れた大量の「唯一つ」。
僕の傍らで永遠に眠るあの人に唇を合わせるだけでは叶わない、生きたあの人の残骸。
亡き者となったその時のままで横たわるあの人を見つめるだけじゃ、だめなようだ。
あの人を塵でもいいから感じたくて全部捨てられなかった。あの人そのものを感じるために少しずつ捨て始めた。
最後に捨てたのは、あの人の愛してやまなかった虹色のイヤリング。
わざわざ外して、最後は手に跡が残るぐらい握り締めて泣きながら捨てた。それなのにどうして空き缶程度のものが捨てられないんだ。
思えば、あの日から僕はあの人のものを一つも捨てられない。むしろ日々、愛が深まってゆく。
もう、いいのだ。僕がどんな存在であろうと、あの人さえ傍に居てくれれば。
だから、捨てるべきだ。空き缶は全て捨てるべきなんだ。
そこにあの人の残骸は無いはずだ。
今更、虹色のイヤリングに後悔を見る。
もし、あの時虹色のイヤリングを捨ててなければ、僕は空き缶を捨てられたのか。
だとしたら今僕が空き缶を捨てられないのは、何故。
いつしか捨ててしまった虹色のイヤリング、出来ることなら戻ってきてくれ。
それが出来ないなら、もういっそ僕からそこへ向かうから。
道でも風でも梯子でも、何でも良いから僕を虹色に繋いでくれよ。
そうでないと幾千回もみたこの夜空に、あの人の空き缶を捨てることなど到底叶わないのだから。
今日も僕は傍らに眠るあの人の唇に触れる。無いものねだりで有るものを捨てられないまま。
如何でしたか?
いつもとは違う雰囲気を書いてみました。とはいえ言葉回しまで違えるのは至難の業ですが...それができれば言葉のスイッチも効くようになるので非常に喜ばしい成長ですよね。言葉の使い分けって難しいですよね。日々人間は言葉を使い分けて人と接している筈なのに...
位の違う人に対する言葉は変えるのが簡単ですが、位が同じ人に対して言葉を変えるというのは難しいのだと思います。小説ならば作者から見て読者は皆平等です。演劇で見れば演者から観客は皆平等。まぁでも、言葉は変えても片鱗で共通点があるから作者さんの「らしさ」があると思えば、頭ごなしに一人の言葉の共通性は否定できませんね。
長々とありがとうございました。