可能不可能
「くっ」
獣との間に現れたのは、電車のドアだった。
無論、勢いよく飛び出した獣は弾き飛ばされキャンというその姿からは似つかわしくない声を出した。
「えっ電車の・・・ドア!?」
すこし離れたところにいたリンコは目を丸くしている。
あの時、突如消えイッキが落ちるハメになった馴染みのある電車のドア。
イッキの紋章の輝きに共鳴したかのように現れた。
「うお!なんでだよ!」
獣は、弾き飛ばされたものの地の底から聞こえるようなうめき声を出しながら、ゆっくりと体勢を立て直し、怪しげにキバを見せ付ける。
「イッキ!はやくっ逃げるよっ!」
頭が困惑し、足がもつれながらも本能的に走り出す。
しかし、人間という動物が知恵と理性を手に入れた代わりに失ったものは大きく。
こんなにも単体では弱い生き物なのかを痛感する。
風を切るような速さで後ろから迫る恐怖。
みるみるうちに差は、縮まっていく。
二人は、後ろを振り返ることなく無我夢中で走っていたが、迫る存在がすぐそこまで迫っているのを残された本能で感じていた。
頭の中に諦めと死の覚悟が過ぎった、その時。
キーーーーーーーーーー・・・・・ン
刀と刀が激しくぶつかり合った時の酔うな金属音がそこら一帯の音を飲み込んだ。
思わず耳を塞ぎ、足を止めてしまった。
それほどの音だった。
二人が激しく息を切らしながら振り返ると、砂埃にまみれた着物を着て、白髪を後ろで一束にまとめた老人の姿。
その老人は、自分の身の丈ほどあるだろう細身の刀剣、日本刀に近い。
それを使いこなし獣と対峙していた。
「なんじゃ・・・お主達クラウ等に慌ておってからに! なんてことはないだろうに。おや、プロテクトも着けておらぬとは」
老人は、半身だけこちらを振り向き問い正す。
二人は、わけも分からず互いに顔を見合わせる。
「ほう・・・なるほど、そういう事じゃな」
クラウと呼ばれるその獣は再び襲いかかる。
「じいさん!まっ!まえまえ!」
「わかっとるわい!」
そのまま半回転しながら、リンコに向かって微笑みを見せながら、余裕たっぷりにクラウを一閃した。
悲鳴を上げる隙さえ与えることなく、血飛沫の音だけが聞こえた。
返り血を慣れた手つきで手ぬぐいで拭く老人。
その間、巨大な刀剣は宙に浮いて、しばらくして見間違えたのかと思うほど鮮やかに消えてしまった。
「あれ?」
「え?」
二人は顔を見合わせ瞬きを繰り返す。
老人は、こちらに歩き出しながら、右手を突き出しピースサインをした。
なぜか応えなければならないという衝動にかられ、イッキは満面の笑みでピースサインを返した。
あきれた様子で笑うリンコだった。
「さ、お嬢ちゃん砂まみれになってしまう。この先にわしの家があるんじゃ。」
「おっおい!無視かよ!」
イッキのことはお構い無しに老人はリンコの腰にすっと手を回し歩き出した。




