助ける死神
変わった死神?
隆は受験勉強も手につかず、部屋で雑誌を手にしていた。その特集「怪談」を読んでいたときだ。突然、背中に寒気を感じた。
椅子を回し、ベットの方に顔を向けたときだ。
「うわぁ」
そこには黒の袈裟をまとった美男子がいる。肩には鎌をかけて、なんとも冷たい微笑を浮かべている。
隆は咄嗟にそれが死神であることを悟った。死神は美男子らしいと誰かに聞いたときがある。
「こんにちは」
隆は何を挨拶しているのだろうと自分を呪った。
「夜分お邪魔する」
隆は意外な言葉に感じた。声音は暖かい。
「何しに来た。おまえは死神だろ」
「いかにも、おれは死神。別に来ようと思って来たのではないが」
「だったら帰ってください」
「そういわれても帰るわけにはいかない」
「いやだっつーの」
「まあ、仕事だし、仕方なし来た」
「たまには仕事サボりなよ」
「いいのか?おれが帰ったらおまえは死ぬ。おれはおまえを迎えに来たわけではない」
「へっ?」
隆は不思議に思った。
「いいか、おれも忙しい。おまえはおれの言うとおりにこれからしろ。そうすれば助かる」
「死神に言われても信じられない」と、心で隆は思った。
「じゃっ、死ぬか」
「嫌だ」
「それでは。まず椅子から降りて、壁に寄れ。早くしろ!」
「……死神に言われても」と隆は呟きつつ、とりあえず椅子から離れ、壁に立った。
「そこはだめだ。もう少し本棚から離れろ。よし、そこでいい」
自分がそこに立つ意味がわからず、隆は死神に聞いてみた。
「呪文か何かで助けてくれる?」
それを死神は聞かず、
「あと十秒、9、8、7、6、5、4、3、2、1」
すると突然部屋の中が激しく揺れた。そして、一瞬のうちに本棚が倒れ、先ほど座っていた椅子に思い切り押しつぶす。
隆は思わず、
「助かった!」
震度5くらいの大きな揺れだ。
「そうだ、おまえはその重い本棚の下敷きになって、打ちどころが悪くて死ぬはずだった。それでは邪魔したな」
そうすると部屋のドアを開け、出て行こうとする。
「そんな帰り方なの?」
来るときは突然部屋に入ってきて、なんで普通に出て行く。
「玄関から出て行くのが当たり前じゃないか。玄関は家の出入り口だ。きれいにしていればいいものも入ってくる。おまえんちは少々汚くて入りやすかった」
「やっぱり」
隆は何を納得しているんだと思った。
死神は思い出したように言った。
「わすれとった。おまえは三年後の五月二三日に死を迎える」
「えーっっ!」
「それじゃ、三年後また来るから」
「まって!もっと生きたい」
咄嗟に隆は言った。
「大丈夫。おれの言うとおりにしたら助かるから」
事も無げに言う死神の言葉に隆は姿を見送りながら呟いた。
「あんた死神なんだろう」
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