第三章 五話
「万が一、いや、もっと低い可能性に賭ける」
魔石を握り閉めたトールが決意を固める。
「少しくらい魔力の出力が不足していても、オデ様が魔術を取り戻せれば呪いを破れるハズだ」
「だが、おまえは魔術を失っている。魔具では呪いに対応できるとは思えん」
トールの提案にスミが懸念を示す。
「オデ様は回帰魔術を使う」
「回帰魔術? それはいったいなんだ」
それはスミも初めて聞く魔術だった。
「昔、隣国を相手に戦争をしてた頃、保険として身体にかけておいた魔術があるんだ。その魔術はオデ様の身体が生命活動を停止したときに発動するようになっているその条件を満たすと、この魔石に封じた情報通りに肉体が復活する。
これは死を引き金とした、時間退行の一種だ。死者を生者として甦らすことはできないが、死んだ肉体を魔石に記憶させた形に戻すことは理論上可能だ。
魔術王だったころの姿を取り戻せれば、オデ様は魔術は使える。そのとき魔力がどうなるかは出たとこ勝負だが、その時はおまえの力を貸せ」
「……それは成功するのか」
懐疑的にスミが問う。いかに魔術王と呼ばれたころのトールが施した術とはいえ、死からの復活が成功するとは思えなかった。
「正直、わかんねぇ。こればっかりは実験したこともねぇ。過去の文献からオデ様流のアレンジを加えているが、それでも確証はねぇ。だが、この身体がもってる魔力が良い方へ影響すれば、確率は跳ね上がる」
「だが失敗すれば……」
「言うな、このままじゃアヴェニールを助けられねー」
スミが口にしたネガティブな意見をトールが打ち消す。
「だが、仮に成功したところで、おまえの魔術でも彼女を救えるとはかぎらん。あまりに分が悪すぎる」
「安心しろ、オデ様は分の悪い賭にほど強いんだ」
止めるスミの言葉を振り払い、トールは笑って答えた。




