第三章 二話c
「轟雷神罰砲!」
巨大な雷が放たれ、トールの巨体を撃つ。トールは盾へと変形させた愚者の黄金で受け止めるが、発生した電撃の余波が盾の周囲を伝いトールの身体を焦がす。
「くっ」
ドロスは魔物として魔法を使いながら、魔術も扱える。さらには無尽蔵ともいええる魔力を補給されては、いかにトールであっても劣勢を強いられる。
「炎魔神の抱擁!」
女型の炎の巨人が空気を焼きながら現れると、トール身体を抱擁する。
「氷狼牙舞陣!」
無数の氷片が現れると、それぞれが意志を持った弾丸のごとく不規則に飛翔し、トールの身体へと突き刺さる。
「げぼはぁー!」
続けざまに放たれるドロスの魔法に、トールの身体が傷ついていく。だがその度にトールの身体は再生を繰り返すが、反撃の隙すら見いだすことはできない。
「しぶといな、魔物に堕ちてもさすがは魔術王といったところか」
得たばかりの魔力を試すようにしながら、トールをなぶるドロス。
「(ちくしょう、月さえでてれば『血まみれの騎士団』でぶっとばしてやるのに)」
空にはまだ太陽がサンサンと輝いている。いかにトールでも常に最大攻撃を発することはできない。
「なるほど身体に秘めた大魔力を再生の魔法のみに向けているのか。恐ろしいほどの回復力だな。しかし、それは無駄に苦しみを長引かせるだけのものにしかすぎんな。そろそろその滑稽な顔にも見飽きた。幕を下ろさせて貰うぞ」
勝ち誇ったドロスが見下した笑みを浮かべる。
そして、より強大な魔法を放とうと、その頭上に大量の魔力をあつめる。足を氷の槍で貫かれたままのトールはまだ動けない。スミもレーヴェストに圧倒されたまま、助けにいく余裕はない。
「地獄の七神よ、その罪悪の名をもって神の領域を汚せ……」
それまで以上に強力な魔力がドロスの周囲にあつまる。
「これで仕舞いだ」
だが、悠然と魔法を放とうとするドロスの背後に、小さな影が現れた。
「そうだね、そろそろお仕舞いにしよっか。ピキもいい加減、見学に飽きちゃったし」
「なんだと!?」
不意に背後から発せられた声にドロスが慌てて振り返る。
「ちょっきんきーん」
そうピキが手にしたステッキを振るうと、アヴェニールから供給されていた魔力がドロスに届かなくなる。そして集めた魔力は、その手から放つ間もなく拡散していく。
「馬鹿な!?」
我が身に起きたことが信じられずドロスが目を見開く。
驚愕するドロスに構わず、ピキは己の目的を遂行する。
「じゃ、バイバイのバイ♪」
水平に振られたステッキがドロスの頭を首から落とした。




