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嘘斬り姫と不死の怪物  作者: Hiro
強欲の王
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第三章 二話a

「ふい~、ようやく抜け出せたな」

 トールたちが異空間から脱出すると、そこは城の中であった。しかし、人の気配はなく、城内は静寂につつまれている。

「さて、余計な時間をくったし、急いでいくぜ」

 ふたりはここまでくればどんな姿でも問題ないと、魔物の姿のまま城の奥を目指し走りだした。

「太陽はまだ高い位置にある。時間はあまり経過していないようだ」

 窓から外を確認したスミが言う。

「しかし、誰もいねー城だな。正面突破してもよかったんじゃねーか?」

「たしかに不自然なほど誰もいないな。あるいはこれも罠なのか。とにかく我々があそこを脱出したことは気付かれているハズだ。先を急ぐぞ」

「ああ、罠があってもぶち壊すだけだ」

 廊下を突き当たりには巨大な扉があった。トールがその怪力をもって扉を押し開けると、そこには広い空間だった

 その最奥の玉座にはフードで顔を隠すハズー王の姿があった。

「魔物風情に、ここまでの侵入を許すとはな」

 ローブ姿のハズー王が、肘をついたままつまらなそうな声をあげる。

「もっとも、魔物が人間の城に踏みいる理由はないか。貴様らもレーヴェストと同じ魔力を宿した人間あたりか」

 魔術師でもあるハズー王はトールとスミの姿を見ても動じはしない。

「城の中すっからかんにしといて、何寝ぼけたことぬかしやがる」

「はて、空ということはないのだがな。配置した連中は役にたたなかったか。まぁ、これから始まる大事に、余計な邪魔が入るよりはマシではあるな」

「それでオデ様たちを通してちゃ本末転倒だ」

 彼らの通ってきた道を振り返れば、街の巡回のほうが城の警備よりも厳重なほどに思えた。

「どのみちただの兵では大した足止めにもならんかったろう。ならば無能な味方は敵よりもタチが悪い」

「それについては同感だが、だからってオメーが有能って保証にはなんねーな」

 トールがハズー王を挑発する。

「魔法も魔術も使えん岩鬼人風情がよくほざく」

「魔術なら使えんぜ!」

 舌戦を切り上げたトールが杖状の魔具を振るうと、竜の吐息の如き炎が溢れ王の身体を襲う。しかし、炎は王のローブをなびかせただけで、焦げ目ひとつ作ることはなかった。

「ふん、魔具にこめられた力など所詮はその程度よ」

 トールの扱う魔具は強力なものであった。にもかかわらず、それはハズー王はそれを造作もなく防いでみせたのだ。普通の人間にできる芸当ではなかった。

「まさか魔法か!?」

「その通りだよ」

 驚くスミの言葉をハズー王は肯定する。

「異空間に繋いだレーヴェストは殺したようだが、この程度のこと自前の魔力で十分だ」

 ならばと、スミが額の角より光線を放ち攻撃する。しかし、その間に割り込むように影が現れ、それを防いでみせた。

 それは布を巻き付けたような衣服を着たレーヴェストだった。

 顔から仮面は外されているが、晒された額には以前はなかった複雑な紋様で埋められている。感情の籠もらない緑色の目で侵入者をとらえている。

「遅いぞ、レーヴェスト」

「申し訳ありません、しかし準備は整いました」

「そうか、大義である」

 フードの内側に邪悪な笑みが浮かぶ。

「おう、偽物レーヴェスト。本物にあってきたぜ、妹のおっぱいを俺様のテクでしっかり育ててくれってよ」

「私が本物のレーヴェストだ」

 抑揚のない声で言うレーヴェストにトールが不満を漏らす。

「どこが優しげでかわいげがあるんだか。身内びいきにもほどがあるんじゃねーか?」

「額の紋様の影響だろう。使命に余分な感情を抑制しているんだ。以前は仮面に仕込んでおいたものを、今度は直に額に書き込んだのだろう」

「ふっ、幻獣風情がよく見破る。だが、おまえらはここに辿り着くのが遅かった。みよ!」

 ハズー王が手を掲げると、その先には宙に浮かぶアヴェニールの姿があった。白い衣装に身を包み、両腕を光る輪に繋がれぶら下げられている。

「ちっ、拘束好きなじいさんだ!」

 トールがアヴェニールの元へ走ろうとするが、不可視の障壁が立ちふさがる。

「言ったであろう、すでに遅いと!」

『ふんばるぐ、ふんばるば、ふんばるるん!』

 王が両手を広げ呪文を唱える、その両手を叩くように合わせると城の天井が開く。

 それにあわせて床に描かれた広大な魔術陣が光り出す。

「させるか!」

 再び魔具を振るい、炎がハズー王の身体を襲う。

 儀式に集中している今なら、防御魔術は使えないと踏んだのだ。だが、炎にさらされたハズー王はそのローブを燃やしながらも無傷であった。

 フードが焼け落ち、その下から現れた顔はレーヴェストと似た褐色の肌を持つ若い男のものであった。その耳の先が人間とことなり尖っていた。

「王が魔物、それも闇森精人ダークエルフだと!?」

 ハズーの王が人に酷似した魔物であることに驚くふたりであったが、ハズー王は構わず儀式を続ける。

『ふんばるぐ、ふんばるば、ふんばるるん! いでよ魔王の剣!!』

 すると、空の色に溶けるような半透明な塔があらわれる。それは天に届くほど高く伸びていた。

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