第三章 一話a
「まったく、上も下も辛気くさい場所だぜ」
暗い地下道を見渡し、人間に化けたトールがぼやく。
「治安は守られているようだが、活気のない街だったな。どこも老人や子どもばかりだ」
たいまつで暗闇を照らしながら、スミがさきほどまでいた街の様子を口にした。
「その治安だって、兵士を配置した力尽くのもんだ。いまに不満が爆発するぜ」
「ぴっぴぴぴ~。若者はみんな戦争にとられちゃったんだってさ~」
ふたりの会話を聞いてピキがそんな情報をながす。
トールとスミはアヴェニール奪還のため、レーヴェストを追いハズーの城下町に潜入した。ピキもその後をしつこくついてきている。最初は追っ払おうとしたトールであるが、根負けしいまは放置している。
「国民の大半を戦争に全部つぎ込むなんて馬鹿だよ。そこまでしちまったら、もうジリ貧であとがねーじゃねーか。それも民の不満を押し込めるために兵隊を配置するとか、その場しのぎでしかねーって」
ハズーの統治状況にトールは悪い評価をつける。
「にしても、便利な魔法だな。チビっこ」
「まさか、城へと通じる秘密の抜け道まで知ることができようとはな」
「ふふ~ん」
トールとスミに褒められたピキが曖昧に笑う。
「おや、あれはなんだ」
たいまつで照らされた先に、まるで光を遮る影のような球体がふわふわと漂っている。ゆっくりと近づいてくるこぶし大の球体にトールが手を伸ばす。触れた瞬間に影は大きく膨れ上がり、なんとその内側にトールを吸い込んでしまう。
「トール!」
あわててトールのズボンを掴むスミだが、逆に一緒にその中へと引きずり込まれてしまう。
球体は二人を呑み込むと、役目をはたしたとばかりにその姿を消した。




