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嘘斬り姫と不死の怪物  作者: Hiro
偽りの救世主
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第二章 五話b

「ぴっぴぴぴ~。電波呪信~」

 ピキと名乗った少女のような少年が酒場のテーブルの上でステッキを振り回す。

 しばらく「ふんふん」と、ひとり頷いたあとにしゃべりはじめる。

「レーヴェストっていうのはハズーって小国の王子様だって。獅子レーヴェって名前負けしてる軟弱な王子様らしいよ」

 ピキは自らが得た情報を人伝いに聞いたことのように話す。

「色黒で細っこくて、背はやや低めだって」

「姿はともかく、我らが会ったレーヴェストとは印象が違うな」

「つうか、あいつ女なんだろ? 王子ってのは人違いじゃね?」

「それはピキ知らな~い。あっ、でもレーヴェストにはユングフィラっていう双子の妹がいたらしいよ」

「過去形か?」

「うん、病死したんだって」

 あっけらかんと言うピキの情報をふたりは精査する。

「ということは、替え玉か?」

「本物の王子に何かあって、替え玉として双子の妹を立てたとはありえぬ話ではないな。ピキ、そのハズーという国について教えてくれ」

「オッケー。電波再呪信~♪ ぴっぴぴぴ~」

 再びピキがテーブルの上で踊り出す。トールたちは周りから奇異の目で見られたが、あえて気にしないことにした。

「ハズーの国は魔術に長けた国王が治める小国で、現在三つの国から攻め込まれてるんだって。最初は押せ押せで自分から攻め込んでたんだけど、いまは国力の低さが祟って劣勢らしいよ」

「なるほど、我々の知るレーヴェストは、兵の士気を落とさぬために立てられて影武者というわけか」

「だけどよお、ただの替え玉にしちゃ魔術の腕も剣の腕もたいしたもんだったぜ。魔術で空を飛ぶってのは並の術者じゃできないことだからな。まぁ、オデ様はできたけどな」

 トールが自慢するように言う。

「レーヴェストってヘタレって話だよ。剣もたいして使えないって」

「替え玉で確定っぽいな。王が魔術師で国の危機ってことは、なにか一発逆転の秘策でも練ってるんだろうが、いったいそれはなんだ?」

 実のところ、レーヴェストの残した言葉から推測はついていたが、それを人前で口にするのは避けた。

「ぴっぴぴぴ~。ん~、一個人が考えてることはわかんないって。提供できる情報は、あくまでも知識限定なの」

「まるで情報の貯蔵庫があり、それに尋ねているようだな」

「うん、そんな感じ。この世界には『二次元世界』っていう目には見えない、手でも触れない情報のたまり場があって、ピキは魔法でそこにアクセスして情報を得ているの」

「魔法を使う人間ねぇ」

 胡散臭そうにピキをみるトールであるが、その使用している力が魔術でないことは間違いなかった。

「ちがうってば~、ピキは魔女なんだよ。だからどんな理不尽なことでも、イメージさえつかめれば実現出来ちゃうの」

 実際のところ魔法とはそこまで便利なものではなく、本人の適正が合致しなければ効果が発揮できないことも多い。ピキの魔法のアバウトさは本人の資質によるものである。

 一角獣時のスミとて、ピキのように『二次元世界』へアクセスする魔法は使えない。

「んじゃ、次はアヴェニールについてだ。ショウの国のアヴェニールについて教えてくれ」

 半信半疑ながらも、トールが質問のかえる。さらわれた彼女についての情報が増えれば、相手の狙いも読めるのではないかと考えたのだ。

「了解、ぴっぴぴぴ~。ぴっぴぴぴ~。ぴっぴぴぴ~」

「長いな」

 いつまでも、情報を口にしないピキにトールが呟く。

「個人としては知られていないのだろう。特定の人間以外と出会う機会は、盲目の少女には少なかったろうからな。それでは、ピキ。嘘を見抜く少女というのではどうだ?」

「ん~ん~ん~。『嘘斬り姫』でいいのかな? どんな嘘も見抜いて斬り捨てる女の子がショウの街にいるんだって。大商人たちの間でちょっとした話題になってて、その話が酒場にも流れて歌にもなってるみたいだよ」

「それだな」

「で、続きは?」

「それだけ。あっ、『真実の口』ってのが関わってるんじゃないかって」

「真実の口?」

「小さなコイン状の魔具で、それを握って嘘を耳にすると、コインに描かれた顔が手に噛みつくんだって」

 ピキは提示される質問を応えられる範囲で、どんどんと応えていく。

「そんな魔具は知らねーなぁ」

「おまえとて全ての魔具を知っているわけではあるまい」

「まぁ、そうだがよ」

 それでもトールは腑に落ちないといった感じだった。

「制作者不明の古い魔具で、現在は所在不明。まぁ、古い魔具のほとんどは、昔、強欲王がその宝物庫に集めてそれっきりだから、珍しい話じゃないね。

「ん、所在不明なのにどうして嘘斬り姫に関わってるってわかんだ?」

「あれ、そういえばそうだね。断片的な情報とか新旧入り混じった情報も多いから、たぶんそのせいだよ」

「んじゃ、話の全てを鵜呑みにはできないってことか。まぁ、それでも信用できそうな話が多いけどな」

 トールがそう結論づける。

「だが、その真実の口という魔具は、たしかにアヴェニールと関係ありそうだな。我々が気がつかなかっただけで、彼女がそれを所持してたのかもしれん」

「でもよぉ、そうだとしても、それがハズーって国と、どう関係するかわからねーな」

「それは知りませ~ん」

 ピキが両手をあげて降参のポーズをする。

「魔術師が国の窮地に考えることか」

 ふたりは口にこそ出さないが、レーヴェストの目的が『魔王召喚ロスト・パラダイス』にあるのではないかと推測している。だが、かつて灰色の森で行われた『魔王召喚』に特別な生贄は必要ではなった。とすれば、別の理由でアヴェニールをさらったのか、あるいはトールたちとは違う方法で魔術を行うのか判断がつかない。

「仮に生贄にすんなら、他のヤツで間に合わせてもいい気がすんだが、なんかあいつじゃいけない理由があんのか?」

「彼女の特筆すべき点は、盲目であること、嘘を見抜くこと……それともう一つか」

 触れた者が不幸になることは言葉にしない。

「まぁ、どれが理由かはわからねーが、とにかく目的地は決まったわけだ。ハズーを目指すぞ。ことがレーヴェストの独断なのか、国をあげてのことなのか知らねーが、あいつをボコれば一件落着だろ」

 トールが目的地を決定し地図を広げる。

「ついでにチビっこ。さっきチラッとでたが強欲王についてはどんな話がある?」

「やめておけトール。聞けばなんでも応える相手に、質問を続けていたらいくら時間があっても足りんぞ」

「それもそうだな、ありがとな。なんでも好きなもん注文していいぞ。スミのおごりだ」

 少々気になることを残しながらも、トールは質問を諦めた。

「やたー♪ ギャラクティカ・おっぱい・プリンをダブルで♪」

 生クリームやフルーツで装飾された巨大プリンが届くと、嬉しそうにつつき始める。ピキの手にした小さなスプーンでは、いったいどれほどすくえばそのプリンがなくなるのだろうか疑問に思うほどだ。

「お兄さんたちの質問は終わり?」

「とりあえずはな」

 頬に生クリームをつけたピキにトールがそう答える。

「じゃ、今度はお兄さんたちが質問に答えてくれるかな? ピキは色んなことを知ることができるけど、厳重に隠された情報とか、みんなが曖昧にしか知らないことは知ることができないの。『二次元世界』の情報も絶対じゃないし」

 自らの能力の制限をあっけらかんと教える。

「男による、男の幸せならスミに教えてもらえ」

「そんなんじゃないよ」

 トールの軽口を否定し、ピキはキラキラと輝くステッキを振りかざし質問を口にする。

「『魔王召喚』についてだよ♪」

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