第二章 五話a
「死ねよ」
「死になさい」
「死・ん・で♪」
見事、街に侵入したトールだったが、情報収集の結果は散々だった。
スミと別れ、女性相手にナンパまがいの情報収集を行ったのだが、痛烈な言葉はトールの強靱な生命力すらも尽きさせようとしていた。
「女こえー、女こえー」
情報収集を早々に切り上げると、トールは待ち合わせの酒場で酒をあおっていた。
「やっぱり人間顔だな」
今は借り物の姿とはいえ、岩巨人に戻ったところで醜悪な姿なのは変わりない。むしろ、普通の人間にとっては今の姿の方がマシであろう。目の不自由なアヴェニールや屈強な戦士であるスミと一緒だったために、その事を完全に失念していた。
「ブ男が生きる場所は、やっぱり灰色の森しかない」
そんな風に考えるほどトールの精神は追い詰められていた。
「そうだな、あの男女は捕まえたら、目潰して飼うのがいいな、うん、そうしよう。そんでもって、逃げられないようにしっかり鎖でつないでおけば万全だ」
泥酔しながら呟く。そこへやってきたスミが声をかける。
「何を危険な発言をしてるんだ、貴様は」
「おうスミ、戻ったか……って、この裏切りもの!」
トールは腕輪を星形槌に変形させ殴りかかる。スミがトールの攻撃を回避したために、近くの机が砕け散った。
「いきなり何をする」
トールがスミの襟首を掴み締め付ける。
「このロリコーン、裏切りやがって、なんだそのロリロリした幼女は! そんなにツルペタが好きか、通報されたらどうするつもりだ!」
酒場にやってきたスミの横には、ピンクの衣装を着た十歳前後の子どもが立っていた。スカートは細い太ももが丸見えになるほど短く、淡い色の長い髪を高い位置で二つに結わいている。
「おちつけ、錯乱して言ってることが意味不明だぞ」
「その角であれか、紙上で言えない場所を貫くつもりだな。そんでもって、泣き叫ぶ子どもの傷を癒やして何度も何度も貫くとは、まさに鬼畜だなおまえは!」
「誰がそんなことをするか! そもそもだなぁ……」
スミは餌にありつけない狼のような目をしたトールを、なんとか落ち着かせようとする。
しかし、それはその子の口から出た言葉であらぬ方向へそれた。
「まあまあ、一角獣のお兄さんも岩鬼人のおっちゃんも落ち着いてよ」
その言葉に驚く。スミは自らの正体を明らかにしてない。なのにふたりは正体を言い当てられたのだ。
驚くふたりを余所に子どもは自らの話を続ける。
「おじちゃんの心配は無用だよ。だってピキ、女の子じゃなくて男の娘だもん」
その言葉の意味を解するまでの間、ふたりの時が止まった。
しばしの沈黙を経て、言葉の意味を理解したトールが確認する。
「えっ、なにおまえ。男のクセにスカート履いてるの?」
ピンクのひらひらした衣装を指して尋ねる。
「そうだよ。だって、ピキは魔女だから♪」
どこからともなく取り出したステッキを手に、ポーズを決めるとウィンクをする。
「(オデ様が森に籠もってる間に、世界は変わったんだなぁ)」
経過した時の長さをシミジミと感じるトールであった。




