第二章 二話a
「ふぃー、助かったぜい」
レーヴェストにつけられた呪いの傷に苦しんだトールであったが、翌日になるとその呪いから解放される。彼らにその理由はわからなかったが、トールの生命力が呪いの力を上回ったのだろうと解釈した。
傷のふさがったトールは失った体力と血を取り戻すべく、ひたすら食料を口に入れては咀嚼し飲み込んでいる。
「まさか切り離された足がつながるとはな。本当にむちゃくちゃな身体だな。ここまでくると、絶対に死なないんじゃないかと思えてくるな」
スミがトールの回復力にあきれ返る。
「あたりまえだ、オデ様が無敵に素敵なのは華麗なる常識だろ」
「軽口も回復したようだな。それでこれからどうするつもりだ」
「決まってんだろ。あのスカした野郎を追って、俺のおっぱいをとりかえす」
「…………」
スミはいろいろと言いたいことがあったが、トールの判断を待つことにした。
トールは用意した食料を食べ尽くすと立ち上がり宣言する。
「今日のオデ様はちょー本気だす。今までとはひと味ちがうぜ」
そう言うと、『俊足の靴』を履き、森の外を目がけ走りだす。スミもそれにわずかに遅れて後を追う。だが、トールをみる冷めた瞳にはたいした意気込みがない。
外界をめざすトールの足がしだいに遅くなる。それは森の外へ近づくほど顕著になっていった。岩の肌に水滴が浮かんでは流れて落ちる。いままで散々無謀をこなしてきたトールがまるで臆病者のようにその巨体を震わせていた。
「やはり無理か」
トールの不調に、隅は諦めの言葉を吐く。
「無理じゃねー」
強がりで反論するトールであるが、失われた勢いは回復しない。
『王よどこへゆく』
灰色の木の陰から何者かがトールへと問いかける。
『我々を残していくのか』
『逃がさぬぞ、逃がさぬぞ』
声と同調し、地面から手が伸びるとトールの足に絡みつく。
スミは「大丈夫か」と声をかけようとして止める。彼に絡みついた手は見えていない。それでもトールが大丈夫でないのはあきらかだが、この状態のトールに声をかけても無駄であることを経験上知っている。
「オデはこの森から出るんだ」
声を絞りだすトールだが、その意思とは反して膝は崩れ、大地に身体が押しつけられる。それでも巨体を這わせ外を目指すトールであったが、その意志もだんだんと薄れていくのであった。




