第一章 六話b
百年ほど昔、そこは魔術に長けた王が支配する国であったという。
王は自ら戦場に立ち、その魔術によって大陸中を巻き込んだ戦争を起こした。
王の魔術は強大であり、多くの国々が瞬く間に制圧され、王は大陸の覇権を握った。
しかし、王の欲望はそこで満たされたりはしなかった。
海の向こうを、空の果てまでも支配することを望み、そこへ手を伸ばそうとした。
だが、いかに王の魔術が優れようと、人間の力には限界がある。
その限界を打ち破るべく王は、とある強大で高度な魔術を行う決意する。
それは『魔王召喚』と呼ばれる禁忌の術であった。
王は天に届くほどの塔を建て魔術を実行する。
だが、その術が発動すると、王国は一夜にしてその姿を変貌させた。
国土はそれまで見たこともない灰色の木々で覆われ、国からは人間が姿を消し、魔物だけが住まう土地となったのだ。
そこでなにが行ったのか知る者はいない。
されど、それまで大陸中から見ることができた塔が失われたことで、王が魔術に失敗したのだと人々は漠然と知ることとなる。
それ以来、人々は王を『強欲王』と呼び、その愚かな野望を歌にし、いまもなお語り続けている。
呪われた『灰色の森』には足を踏み入ることは王の災いに触れることになると……。




