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嘘斬り姫と不死の怪物  作者: Hiro
プロローグ
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プロローグ

 森には背の高い灰色の木々が広がり、太陽の光を遮っている。

 重なり合った葉が雲のように光を遮断し『灰色の森(グレイ・フォレスト)』から季節を忘れさせていた。


 ト・ロル、ト・ロール♪

  ト・ロル、ト・ロール♪

   森の中でぇ~人間食ってる~♪


 人の踏み入らぬ魔物の森に、すっとんきょうな歌が響く。それは岩鬼人トロールと呼ばれる魔物の声だった。

「さて、今日はなにを食うかな」

 醜い顔に配置された口が動くと、中から形の悪い牙が覗ける。やや緑がかった灰色の肌は岩のようで、その上を豪奢な衣装で着飾っているが身体が大きすぎるため腹がまるだしになり、滑稽な恰好となっていた。さらに左の二の腕には髑髏を模した黄金の腕輪が巻かれ、岩鬼人の趣味の悪さをうかがわせていた。

「あー、たまには女でも食いてーなぁ。若くてピチピチした女。やわーらかくて、おっぱいがプリンプリンしたやつ」

 灰色の森には『入ったものは呪われる』という噂がある。なので、よほどのことがないかぎりだれも森には近寄ろうともしない。また森には岩鬼人の他にも小鬼人ゴブリン豚鬼人オークなどの魔物が生息し、たいへん危険な場所でもある。ゆえに岩鬼人の望みが叶うことはなかった。


「トール、何をくだらぬことを言っている」

 灰色の木々の間から人語を話す白馬が現れる。

 豪奢なたてがみの猛々しい馬体は見る者を圧倒し、岩鬼人の巨体と並んでも遜色がないほど大きい。岩鬼人の腹のでた歪つな体つきとは対照的に、白い馬体は荘厳でありながら美しさも兼ね備えていた。

 それがただの白馬ではないことは、その額から伸びる螺旋の角が物語っている。それこそ魔物でありながら、幻獣と称えられる一角獣ユニコーンの証しである。

 一方の目は大きな傷で塞がれているが、残ったもう一つの目はあきれながらにトールと呼んだ岩鬼人を蔑んでいた。

「なんだスミかよ。草食のフリしたヘニャチンのテメーとちがって、オデ様は肉に飢えてんだよ」

 トールが一角獣をスミと呼び、軽口を投げつける。

「あまりみっともないことを言うな」

「けっ、お高くとまりやがって、もう何年女くってねーと思ってるんだ」

「別にくわなくて死ぬわけでもあるまい」

「死ぬよ死ぬ、絶対死ぬ! 男って生き物はおっぱいもまなきゃ、チンコもげて死ぬ呪いにかかってるんだよ!」

 トールは唾を飛ばし大げさに反論する。

「ならば、その呪いが早く成就することを祈ってやろう。そうすれば私の頭痛の種も減るだろうからな」

「あー、ちくしょう、おっぱいもみてー!」

 スミの皮肉に耳を貸さずトールは叫び続ける。

「おっぱいもみてー!」

「何度も言うな、誰がいるわけでもないが、一緒にいて恥ずかしい。いい加減にしろ」

 本当に頭痛がしているような顔で止めるが、トールは聞きはしない。

「おっぱいもみてー、超もみてー!」

「…………」

「もみほぐしてー! 重要なことだから何度でも言うぜ、もみてー!!」

「…………」

「ん、どうした? おまえも叫びたくなったか。なら一緒に叫ばせてやるぞ、さん・はい・おっぱいもみてー!」

「いや、そうではない」

 スミはトールの言動にホトホトあきれる。両者のつきあいは古いが、いまだにスミはトールの言動に馴れずにいた。

「けっ、これだから処女厨のロリコンは。もめないほどの貧乳ツルペタが好きか。なら、こんどからおまえのことはロリコーンって呼んでやるぜ」

「誰がロリコーンだ。一角獣だ! それよりもトール、股間が動いているぞ?」

 見ると、たしかにトールの股間が小刻みに震動していた。

「おっ、オデ様の魔具が反応してやがる。これは侵入者だな」

 トールが腹回りからズボンに手を入れまさぐると、ぼんやりと光る金色の玉を取り出した。

「てけてけってってってーん。『侵入者発見魔具』~」

 魔具とは魔術で作られた道具であり、魔術が使えない者でも条件を満たせばその恩恵を得ることができる。トールは岩鬼人でありながら魔具を無数に所持し、ズボンの中に収納している。

「どんな魔具かは名前でわかったが、いつもいつもなんて場所から取り出すんだ」

 そんなスミの言葉に耳をかたむけることなくトールは魔具の様子を確認する。

「どれどれ、どうやら侵入者はっ……と。むむっ近いな」

 球体の内側には矢印が浮かび上がり、侵入者のいる方角を示していた。

「あっちだな、いくぜスミ。侵入者をとっつかまえるぞ!」

 トールは巨体をひるがえし、スミの背中にまたがろうとする。しかし、スミはそれをよしとせず、ヒラリと避けた。

「貴様のような男を乗せる背はない」

「ちっ、このうんこロリコーンめ」

 地面に打った尻をさすりながら、トールが毒づくと、スミが怒鳴る。

「一角獣だといっているだろう!」

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