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シミュレーションRPG狂騒曲サラリーマンが剣士で王子様?  作者: 独身奇族
東奔西走編

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48/51

⑭『初めての騎馬は、匹夫之勇?⑭』

【前回までのあらすじ】

 新宿歌舞伎町のネットカフェからシミュレーションゲームの世界へと転生されてしまった藤堂、酒田、竜馬の三人。OK牧場の地下に眠る「銀の鉱脈」を巡り、藤堂が率いる遊撃隊とパラケスが指揮を執る疫病調査団の戦闘も終局を迎える。

 牧場の一人娘ミディアとカウボーイ達の参戦により、ついに二倍以上あった戦力差をひっくり返した遊撃隊。過激なコスチュームに身を包んだ聖女タニアの一撃によりフィールドを分割していた土魔法の壁も崩れた。

 【藤堂王子+女戦士の酒田】VS【騎馬兵パラケス+リーダー格の戦士】

 二対二の死闘が再び始まる。

※勝手ながら戦闘フィールド表記の都合上PC横読み推奨とさせて頂きます。

 【ゲンさん】【公用馬車】

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■■■■■■   【パラケス】【リーダー】    ■■■■■■

■■■■■■   『藤  堂』『酒  田』    ■■■■■■

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「団長、お前が帝都で寄せ集めたゴロツキどもは、ほとんど倒されちまったみたいだぜ?」


「ふっ。あのような者共は所詮クズに過ぎませんよ、藤堂王子。それよりもこれで勝ったと思われるのは、少々心外ですね。いきますよ。ソリャ、ソリャ、ソリャーーー」


 パラケスが騎馬兵の面目躍如とばかりに馬上から攻撃を仕掛ける。頭上で回転する槍のスピードが増した。


 ビュンビュンと風を斬る音にまぎれて駿馬がスッと藤堂の懐に飛び込んだ瞬間! 上段、中段、下段の三方向から陽光きらめく鋭い槍の矛先が伸びてきた。


「ちっ、足が重い。まだこの世界のアバターに馴染んでないのか? それともレベル差の補正ってやつか? 一つ、二つ……クソ、避けられねえ」


 学生時代は剣道のインターハイチャンプであり、藤堂家に代々伝わる古武術【中丞流】の免許皆伝。華麗な足捌きで敵の攻撃を受け流し、すかさず反撃するのが信条だ。


 ここが現代世界なら、パラケスが繰り出す槍の三段突きも難なくかわして見せた筈。


 だが、上段と中段からの突きにはボクシングのディフェンスで言うところのダッキングとスウェーバックで何とか凌いだものの、蛇のように下から這い上がる三つ目の矛先にバックステップが間に合わない。


「ウグッ。……クソッタレ!」


 またHPを白く削られ、苦痛に顔を歪めながらも反撃に移る。駿馬の鼻先を掠めるようにステップイン! お返しとばかりに地面からショートソードを擦り上げるような一撃で馬に跨る団長の足を狙う。


――キンッ!――


 だが、無情にも長い槍の柄の部分で簡単に弾き返された。不敵に笑うパラケスが壁のように立ちはだかる。


「クククッ」

「チッ、駄目か」


「先輩!」


 隣で苦戦するサラリーマンの上司の思わず酒田が声を掛けた。


「オラオラオラ。他人の心配なんかしてんじゃねえよ、女戦士!」


 疲れを知らない巨人のようにリーダー格が斬撃を浴びせ掛けてくる。ゴツゴツした手で握る武器は何の変哲もない鉄の斧。


 だが、野獣のパワーを乗せた重量級の一撃が、憎い女戦士の頭を叩き潰すとばかりに振り下ろされる。


――ガキッ!――


「ふんぬっ!」


 気合を込めたいつもの口癖。女戦士のアバターに身を宿した酒田は、相手の攻撃を戦斧で受け止めると同時にすかさず反撃に出る。


 だが、敵もさる者引っ掻く者。酒田の放った水平斬りに苦も無く反応してくる。


――ガキッ!――


 斧対斧の鍔迫り合いが再び始まった。


「ククク、嬉しいねえ」

「ふんぬ、ふんぬ」


 一方、タニアの一撃で崩れ落ちた壁の向こうでは、OK牧場のカウボーイ達の投げ縄で動きを封じられた白装束最後の二人が、ガチガチと歯を鳴らしながら悪態をついている。


「クソッたれ。てめえら、ロープを解きやがれ!」

「馬ごとぶった斬ってやるから覚悟しろよ!」


 疫病調査団の残党は、カウボーイ達が跨る馬に取り囲まれながらも抵抗を止めない。


「ケッ、こんなロープだけじゃ俺達を倒せねえぜ?」

「そうだそうだ! 攻撃も出来ないカウボーイ風情が粋がるんじゃねえぞ、オラ!」


 だが、二人を取り囲むカウボーイ達を指揮する牧童頭のマックスは、ならず者の恫喝に臆することもない。武器を持った白装束の腕に絡みつかせたロープをグイグイと引き絞る。


「ああ、そうだな。確かに俺達カウボーイは投げ縄で相手を縛り上げるくらしかできねえよ。だからココは、『餅は餅屋』だ。攻撃ができる人にやってもらうぜ」


「何だと?」


 白装束どもが後ろを振り返る。そこへドドドッと蹄の音も荒々しく砂塵を巻き上げた黒い旋風が突っ込んできた。


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■■■■■■           『牧童』『牧童』■■■■■■

■■■■■■      『牧童』『牧童』【調査団】■■■■■■

■■■■■■   『マックス』【調査団】↑↑↑↑ ■■■■■■

■■■■■■    ↑↑↑↑ ↑↑↑↑『ミディア』■■■■■■

■■■■■■    『ロビン』『竜 馬』     ■■■■■■

■■■■■■    『タニア』          ■■■■■■

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「ハイヨー、ポニーちゃん! 愚か者どもを蹴散らしておやり!」


 黒い巨馬に跨ったミディアが、すれ違いざまに細身の槍を一閃する。投げ縄で動きを封じられた白装束達に反撃の手段はない。


「そこです!」

「オイラだって!」


 騎馬兵ミディアの後に駆け付けたロビンと竜馬が、疫病調査団の残党に畳み掛けるような連続攻撃をお見舞いする。


「ウギャア!」

「だ、団長ォォ」


 最後に残った白装束が二人仲良く闇へと消えていく。


 そんな戦況を背後にチラリと確認した藤堂が、すかさずパラケスに揺さ振りをかける。


「どうした団長? 顔色が悪いぜ。まあ仕方がないか。お前がでっち上げた疫病調査団も残るはお前達二人だけだからな」


「顔色の悪さは生まれつきでして。それよりも藤堂王子、そんなハッタリは私には通じませんよ。貴方の攻撃は私に届かないではありませんか?」


【戦闘情報】

 ┏━━━━━━━━━━━

 ❙ 氏名:パラケス

 ❙ 役職:団長

 ❙ 職業:騎馬兵

 ❙ LV:7

 ❙ HP:25/25

 ❙ ■■■■■■■■■■

 ❙ ■■■■■■■■■■

 ❙ ■■■■■

 ┗━━━━━━━━━━━

 馬上で槍を構えるパラケス団長のレベルは7。それに対して藤堂のレベルは今だにレベル3。加えて武器の相性が最悪だ。藤堂の持つ剣はパラケスの槍に対して分が悪い。


(ちっ。これじゃあ、ロビン達が援護に駆け付けても戦況が好転しないぜ。何とかしないと……)


 自分のターンになった藤堂が内心の焦りを隠しつつ声に出さずに思案を巡らせる。


(俺の攻撃が団長に通じない。一体どうすれば……。うん? 待てよ。そう言えばさっき牧童頭のマックスが上手いこと言っていたな……)


――だからココは、『餅は餅屋』だ。攻撃ができる人にやってもらうぜ――


「餅は餅屋……そうか! こっちもそれでいくぜ。……鉄平!」

「うぃっす。なんすか、先輩」


「俺達の本業は何だ?」

「サラリーマンっすけど」


「ああ、だったらココは【名刺交換】と洒落込もうぜ」

「名刺……交換っすか? うーん? 生憎、今名刺なんか持ってないっすよ?」


「いいから、俺が先にやるから。そこで見ていろ!」

「うぃっす」


   【ゲンさん】【公用馬車】

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■■■■■■  【パラケス】【リーダー】『藤 堂』■■■■■■

■■■■■■    →→→→→『酒 田』↑↑↑↑ ■■■■■■

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 藤堂は今まで一騎打ちを演じてきたパラケスを放り出し、女戦士酒田の脇を通り抜けリーダー格の隣へと移動した。


「な、なんだてめえ!」


「どうも初めまして。私、ワーシントン王国で第四王子を拝命いたしております藤堂剣一と申します」


 見えない名刺を差し出す振りをしながら慇懃無礼に頭を下げる。


「この度は、前任者の酒田がご迷惑をおかけしたようで大変申し訳ございません。今からは私が前任者に替わってお客様のご担当をさせて頂きますのでよろしくお願いします」


「あ、そりゃどうも。ご丁寧に……って、馬鹿野郎!」

「へぇ……。結構良いノリするじゃねえか、リーダー。だったら、遠慮なくいくぜ!」


 藤堂家に伝わる古武術【中丞流】脇構えからの抜き打ちが、銀の閃光となって宙を斬る。咄嗟に斧でカバーしようとしたリーダーの防御。鉄の刃は難なくそれをすり抜けた。


「ウギャア! このクソ王子、ぶっ潰してやる」


 女戦士の酒田との闘いに横槍を入れられHPまで削られたリーダーがマジ切れする。だが、彼が振るうパワフルな斧の反撃も藤堂に簡単にかわされて空を切る。


「ちょこまか動きやがって、ムカツク」

「お前の動きなんて丸見えなんだよ」


 騎馬兵パラケス団長の槍と違いリーダーの得物は斧。剣対斧の戦闘は剣が有利。武器の相性は藤堂にとって最高、しかも回避率まで上昇するので余裕の表情だ。


「あ、なーるほど。名刺交換ってそういう意味っすか。じゃあ僕も遠慮なくいくっす」

「あ、こら女戦士! 逃げるんじゃねえ!」


   【ゲンさん】【公用馬車】

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■■■■■■  【パラケス】【リーダー】『藤 堂』■■■■■■

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 酒田はずっとタイマンを張ってきたリーダーの叫び声に耳を貸さず、その隣で馬に跨るパラケス団長の正面に移動した。


「あ、どうも。僕は酒田っす。こちらをずっと担当してきた弊社の藤堂が、この度不祥事を起こして左遷されまして。その替わりに僕がお相手することになったっす」


 上司の機転に乗じた酒田が悪ノリで応える。


「コラ、鉄平! 不祥事ってなんだ、不祥事って?」

「うーん、女性問題?」


 酒田の一言に藤堂が思わず背後を振り返る。


 異世界のシミュレーションゲーム上では幼馴染という設定のヒロインが、修道服から零れ落ちそうなほど大きな胸を上下に揺らしながらこちらへ移動してくるのが見えた。


「剣一! すぐに行くから、もうちょっと待ってて」

「あ、ああ。分かったタニア。けど、そんなに急がなくてもいいからな、うん」


 思わずニヤケそうになる顔を無理やり引き締めながら、サラリーマン時代からの部下の方へと向き直る。


「鉄平、何をしている? ボサッとするな。営業は第一印象が肝心だぞ。お客様に失礼がないように……。さっさとぶちかましてやれ!」


「うぃっす! ふんぬ、ふんぬ、ふんぬ」


 両手で持つ柄の長い戦斧をグルグルと振り回し始める。まるでハンマー投げ選手のように一回、二回、三回……。大柄な女戦士のアバターが遠心力を伴って高速回転する。


「こ、これは?」


 先ほどまで遣り合っていた藤堂王子に替わって現れた大柄な女戦士のデモンストレーション。先ほどまで馬上から余裕の表情で見下ろしていたパラケス団長が目を見張る。


「ふんぬぅぅぅぅ!」

「させるか!」


 竜巻のような一撃。咄嗟に同じく槍を回転させて防御したのは、さすが疫病調査団の団長たる所以だ。


――キンッ、キンッ、キンッ――


 だが、ここは斧対槍のアドバンテージがモノを言う。女戦士の連撃が徐々に騎馬兵の防御を切り崩す。ついに酒田の一撃がパラケスの槍をかい潜った。


「ウグッ!?」


 ザックリと腹部に真一文字の傷跡。パラケスのHPゲージが、初めてパパパッと白く削られた。


「お、おのれ!」


 青白い顔を紅潮させて馬上から反撃の槍を振るう。先ほど藤堂を追い詰めた神速の三段突き。上段、中段、下段から幻のように矛先が飛んでくる。


 だが、学生時代には柔道のインターハイチャンプだったのは伊達ではない。


「よく見えているっすよ」


 柔道の試合で相手が首の奥襟を取りに来るようなパラケスの上段突きは左の素手で払い除ける。腰に巻いた柔道の帯を掴みに来るような中段突きは戦斧の長い柄で弾き返す。


 最後に足を狙った諸手刈りのような下段突きにはジャンプ一閃、ひらりと宙を飛んで見事に避けた。


「チッ、小賢しい真似を」

「だ、団長。アレを……」


 すぐ隣で藤堂相手に奮闘するリーダーがパラケスに声を掛ける。最後の部下が指さす方向、土魔法の壁はもはや跡形もない。


 遊撃隊のロビン、竜馬、タニアの三人が、OK牧場の騎兵隊を引き連れて砂塵を蹴立てて進軍してくる。


「うぬぬぬ」

「ど、どうしやす。団長?」


「おい、パラケス。あんたも一軍の将なら分かっている筈だ。ここで採る手は一つしかないぜ。大人しく引き上げるなら黙って見逃してやる……」


 そう言いながら藤堂は見えない血糊を吹き飛ばすように、手にしたショートソードでビュンビュンと二回空を斬った。すぐさま腰に差した鞘を左手で持ち上げ切っ先をあてがう。


――チンッ――


 鞘の鯉口が涼しげな金属音を立てた。


「だが、どうしてもやると言うなら俺も腹を括る。俺がリーダー、そして鉄平がお前の相手をするからさっきまでのようにはいかないぜ。じきにカウボーイ達も参戦だ。投げ縄ってのは意外と面倒だぞ?」


「ぺッ、ようし上等だ。やってやろうじゃねえか。お前らパラケス団長のメンツを潰してくれたんだ。ここまでコケにされて黙っていられるか。どうなるか思い知らせてやる……」


 王子と団長の話に割り込むようにリーダー格が息巻く。肩に担ぎ上げた鉄の斧を天高く振り上げて憎い女戦士の酒田の元へ移動しようとした……。


「引くぞ」

「え?」


 思いもかけない言葉に自分の耳を疑ったリーダー格は、足を止めてパラケス振り返る。馬上に見上げる白いキツネ顔の指揮官は、いつもどおり表情が読み取れない。


「引くと言った。聞こえなかったのか?」


 装備を解除したのだろう。団長が手にした槍が虚空に消える。


「いや、けど団長! こんなガキどもに舐められっ放しで本当にいいんですかい?」

「ならばお前一人でやるがいい。止めはしない」


 部下の言葉に取り合わず手綱を操ってあっさりと馬を取って返す。駿馬が軽やかな足取りで戦場を離脱していく。


「そ、そんな! 団長、置いていかないで。待ってくだせえよ」


 親鳥の後を追う雛のようにリーダー格もドタドタと戦闘フィールドを移動し始める。


 そこへOK牧場の一人娘ミディアが乗る黒い巨馬がいち早く駆け付けてきた。藤堂の隣に待機し、撤退していく敵将達の後ろ姿を悔しそうに見つめる。


「追撃はせぬのか? ポニーちゃんの脚なら奴らの足止めにはまだ十分間に合う」


「いや、窮鼠猫を噛むって言うからな。追撃はやめておこう。どちらかと言えばあっちがネコでこっちがネズミだしな」


「ふん、弱腰だな。相変わらずの優男っぷりは変わらないとみえる」

「悪かったな。どうせ俺は毒舌・悪態・暴言優男の第四王子だよ。」


「いえ。王子の判断は絶妙だったと思いますよ、ミディアさん」


 遊撃隊の軍師ロビンが、天上の美貌に笑みを浮かべながら近づいてきた。


「あーん。ロビン様、お怪我はありませんか? よろしければコレをお使いになって」


 愛馬からひらりと飛び降りたミディアが、イケメンエルフに駆け寄り懐から薬草を取り出す。藤堂に対する態度と言葉使いに天と地ほどの差があるのは恋する乙女の仕様だ。


「ありがとうございます。怪我は回復したので大丈夫です。それより王子は私達の事を心配してくださったんですよ」


「あの変態優男が、まさか?」

「おい、聞こえているぞ。しかも悪態が変態に変わっているじゃねえか」


「正直なところ、遊撃隊の戦力の中であのパラケス団長の一撃を凌げるのは、王子と酒田さん、そして私の三人でしょう」


「ロビン様、素敵……」


「竜馬さんとタニア、そしてミディアさんを含めたカウボーイの皆さんでは、あのリーダーの攻撃ですら脅威です」


「なんて魅力的なお声……」


「そこで藤堂王子は無駄な被害を避けるために敢えて剣を収めたのです。……って私の話を聞いていますかミディアさん?」


「はい、一言一句漏らさず心に焼き付けております」


 ピッタリ張り付くドワーフ族のタニアの背丈は、長身のエルフ族のロビンの腰までしかない。両手を組んで愛しいお方を見上げる瞳はハートマークで一杯だ。


「ははは、もう少し離れて聞いて頂けるとありがたいのですが」


 その時、戦闘フィールドから離脱寸前の敵が馬の歩みを止めて叫んだ。


――藤堂王子! 今回は王族の貴方に免じて引くことに致しました。しかし、次はこうはいきませんよ。第二王子のミハエル様は、私のように甘くありませんから――


 敗軍の将の遠吠えと分かっていながらこう言わずにいられなかったパラケスは、疫病調査団に随行してきたマウントパーソン市役所の公用馬車が、まだOK牧場の入り口に停まっていることに気が付いて小さく呟いた。


「あれほど策を弄したにもかかわらず、結局コイツも役立たずか……」


 横を通り過ぎる際には、もはや公用馬車に目もくれずパラケスは戦場を後にする。その後を必死の形相でリーダーが追いかける。


             ↑↑↑↑↑

【ゲンさん】【公用馬車】 【パラケス】

■■■■■■■■■■■■【リーダー】■■■■■■■■■■■■■

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■■■■■■        『ミディア』『藤 堂』■■■■■■

■■■■■■   『酒 田』『ロビン』『マックス』■■■■■■

■■■■■■   『牧童』『牧童』『牧童』『牧童』■■■■■■

■■■■■■    『タニア』『竜 馬』     ■■■■■■


「ざまー見ろ。おととい来やがれ」

「やったー! 疫病調査団を追い返したぞ!」

「ブラボー、俺達やったんだ!」


 戦闘シーンが解除され、感極まった牧童達の歓声がOK牧場の敷地にこだまする。青空に男達のテンガロンハットが天高く舞った。


「王子様、この度は本当になんとお礼申し上げればよいのやら……」


 肩の荷が下り満面の笑みを浮かべるOK牧場主が藤堂に握手を求めてくる。


「いえいえ、礼を言うのはこちらの方ですよ、エドウィンさん。ミディアとカウボーイ達の援軍がなければ、今頃どうなっていたか分かりません」


「あなた、堅苦しい話は後でいいじゃありませんか。こんな時はパーティを開いて盛り上がりましょう。お前達、ボケッと突っ立っていないでさっさと肉と酒を運んでおいで!」


――へ、へい。今すぐ――


 さっきの戦闘でフィールドの一角に臨時回復場所として作られたバーベキューガーデンがにわかに活気づく。


 金串に交互に刺された野菜と肉。塩コショウのほか瓶に入った特性塩麹がテーブルの上に所狭しと並べられ、丸太小屋からは樽入りのワインやビールがゴロゴロと転がされてくる。


 炎が燃え盛る特性かまどの前。シスターのタニアが金網の上にズラリと並べられたバーベキューの金串をどれから食べようか、指さししながら吟味している。


「キャヒィーン。もう焼けたよね。食べ頃だよね。えーっと」


――♪どれにしようかな、天の神様の言うとおり。おすすのす、柿の種……――


「へ? おい鉄平、今タニアが唱えた『おすすのす』ってなんだ? しかも『柿の種』って聞こえたぞ、新しい回復呪文か?」


「何言ってるんすか、先輩。あれって数え歌っすよ。子供のころやったでしょ?」


――♪どれにしようかな、天の神様の言うとおり。なのなのな。柿の種……――


「ちょっと待て。今呪文のスペルが若干変化した気がしたんだが、気のせいか?」

「そうっすか?」


「タニアも酒田の兄貴も言い回しが古いよね。ココはやっぱりナウでヤングなオイラの出番かな」


「ナウでヤング……。お前本当はいくつなんだ?」


「いいから、いいから。いくよ? 本当のフレーズはこうだよ」


――♪どれにしようかな、天の神様の言うとおり。あっぷぷの、あ、ぷ、ぷ――


「オイラ、絶対にコレが正解だと思うよ」

「果たして本当にそうでしょうか?」


 それは聞き捨てならないとばかりに今度は軍師のロビンが話に加わる。


「私の生まれ育ったエルフの国ではこうでした……」


――♪どれにしようかな、天の神様の言うとおり。鉄砲撃ってバンバンバン、もひとつ撃ってバンバンバン、おまけにバンバンバン――


 バックに竪琴の調べを奏でながら超絶イケメンが詩を紡ぐように歌い上げる。


「チョォォォォ! 子供の数え歌に鉄砲はヤバいだろ。一体何発お見舞いすれば気が済むんだ? 皆殺しにでもする気か? 大体だな、妖精界の武器はレイピアとか相場が決まっているだろ、さすがにエルフが鉄砲って言うのはマズイだろ」


 身を乗り出して藤堂が全力否定する。


「はぁ、妖精界の長老が代々語り継いでいる真言なので私には何とも……」

「またグダグダな世界観かよ」


 そんな侃々諤々(かんかんがくがく)としたバーベキューガーデンパーティを尻目にOK牧場の入口に停まっていた公用馬車がソロリソロリと動き出す。


「おっと、どこへ行くつもりですかい? いけねえな、藤堂王子に挨拶もなしで退場するなんてのは、ちょっと虫が良すぎるんじゃありやせんか?」


 土魔術師のゲンさんがマウントパーソン公用馬車の前に立ち塞がった。目隠しされた客車の窓から中は見えないが確かに人の気配がある。


 パーティグッズを鞍に乗せて通りかかった牧童頭のマックスもすぐに状況を察して逃げ出そうとする御者を睨み付ける。


「おいおい、まだこんな所に敵の親玉が残っていたぜ!」


 OK牧場全体に響き渡る大声。バーベキューの金串やビールを片手に藤堂達が集まってくる。


「あちゃー。オイラ、すっかりコイツの事を忘れていたよ。パラケスにそそのかされて、OK牧場やルーベルさんとこの印刷工場にまで迷惑をかけた張本人」


 若い盗賊が腕組みしながら公用馬車の閉ざされた扉をゲシゲシと蹴り上げる。


「オラオラ、早く出てこいよ。百貫デブのタヌキ親父。そんな狭い馬車の中じゃ窮屈すぎて死んじゃうぞ」


「おいおい、竜馬。この馬車は村興しの【スライム王国】で駅馬車に使う予定なんだから壊すなよ……。うん?」


 ふと藤堂が馬車の車輪に目を留めて首をひねる。そのまま近づいてしゃがみ込みしげしげと地面を見つめる。


 ハッと何かに気が付いたようにすぐに立ち上がった。丸太小屋の傍にある馬留めの横木がある場所まで駆け寄り再びしゃがみ込んで地面の土を指でなぞる。


 そんな上司の不可解な行動に疑問を感じない部下の酒田がのんびりと話しかける。


「そう言えば居たっすね、事件の黒幕が……。で、どうします? 副町長の処分っすけど。疫病調査団に加担した訳っすから、さすがに無罪放免って訳にもいかないっすよね?」


「いや、副町長はお咎めなしにする」


 膝に着いた土をパンパンと払いながら藤堂が公用馬車に歩み寄る。


「え? マジっすか」

「そうだよ兄貴! あんな憎たらしいデブ親父。やっつけなくてどうするのさ?」


「ふん、どこまでも優男だな王子は。そこまで優柔不断だとは思わなかったぞ。貴様が副町長を見逃すのは勝手だ。だが、OK牧場の一人娘としてあのタヌキを許す訳には……」


 細身の槍を装備し馬車ごと串刺ししそうなミディアの肩をそっとロビンが押し止める。


「少しお待ちをミディアさん。どうやら王子には何か考えがおありのようです」

「はい、分かりました。ロビン様がそう仰るのなら、ミディアいつまでも待ちますぅー」


 変わり身の早い少女の態度に緊迫した空気が一瞬で喜劇に変わる。その場でずっこけた全員がバツが悪そうに立ち上がる。


「ウォホン。さてと、じゃあそろそろ本当の黒幕にご登場願うとするか」

「本当の……黒幕?」


「いつまでも隠れていないでさっさと出てきてもらいましょうか。バートレイ町長!」


 馬車を取り囲む遊撃隊とカウボーイ達が、「えっ?」と驚きながら固唾を飲んで見守る中、ギィーッと音を立てながら客車の扉がゆっくりと開いていく。


 馬車のステップに足を掛けて軽やかに地面へ降り立った細面の人物は、巨漢のタヌキではない。


「いやあ、藤堂王子。おめでとうございます。疫病調査団の件が片付いてこれで町も一安心です」


 まだ四十代の若い町長が両手を広げたオーバーなゼスチャーに満面の笑みを添える。


「それにしても叔父には困ったものだ。訳も言わずに私にOK牧場へ行って来いだなんて。ハハハ、ところでよく分かりましたね。馬車の中に居るのが副町長ではなく私だと?」


「公用馬車のわだちの深さが違う」

「轍……ですか?」


「ああ、俺達はここでパラケスと一緒に来た副町長のタヌキ親父と一度会っている。その時も奴は公用馬車に乗って来ていた。一頭であの体重を支える馬は中々いないからな」


「それが轍とどう関係するのです?」


「なあに簡単だ。あっちの馬留めの地面にあるのが、前回副町長が乗ってきた公用馬車の轍。そして今そこにある公用馬車の轍。地面にめり込んだ深さが倍以上も違うんだ」


 そう言いながら藤堂が肩をすくめる。


「だからこの馬車には絶対にあのタヌキ親父は乗っていないと分かったのさ」


「なるほど。馬車の車輪も金属疲労で壊れるかもしれない。叔父には町財政の公費削減のためにもダイエットを指導することにしましょう」


「ダイエット? あんた副町長の体重を減らすよりも、タヌキ親父の命をすり減らそうとしたんじゃないのか?」


「な、何をおっしゃいます。自分の叔父ですよ? どうして私がそんな……」

「鬱陶しかった! 違うか?」


「そ、それは……」


「確かにアイツは、デブで口やかましくて高圧的。三拍子揃ったウザイ男だ。ところが町役場の行政マンとしては意外と無能ではない。むしろ有能と言ってもいいくらいだ」


「くっ」


「そんな副町長を差し置いて帝都から呼び戻されたあんたは自分の意思に関わらず町長に就任。表面上は部下の筈の副町長に顎でこき使われる毎日。仕事は役場の隅にある物置部屋で公印を押すだけ」


「いや、私は……」


「いいから。最後まで聞けって。そんな時、突然王都からパラケスの使者が来たんだ。あんた確か王都の大学に留学していたよな?」


「ええ、そのとおりです。当時この町の町長を務めていた父が亡くなり、勉学の道は諦めましたが」


「ひょっとしてその在学中にミハエル第二王子の関係者と何かあったんじゃないか?」

「なぜ、そのような?」


「おーい、フェアリー。ちょっと出てこい」

「ハイハーイ! ひっさしぶりの出番だピョン。で、何、何、何すればいいピョン?」


「バートレイ町長、あの狭い町長室で確かあんたコイツを見て言ったよな?」


――ああ、これが噂の妖精ですか。軍隊の指揮官クラスでないと召喚できないとか。――


「一介の留学生がよく知っていたな? 指揮官をサポートする妖精は滅多に人目に触れない。つまり何らかの形であんたはミハエル第二王子の軍関係者と面識があった。違うか?」


「王子、もし仮に私が王都留学中にミハエル様の関係者と親交があったとしてもそれがどうしたというのです? 副町長の叔父にも同じ事が言えるのではありませんか?」


「そうかな? もし本当にあのタヌキ親父が最初からパラケスと通じ合った黒幕なら、その馬車から出てくるのは町長のあんたじゃなくて副町長だった筈だ」


「うっ」


「パラケスはこの作戦に自分の未来を賭けていた。だから疫病調査団をでっち上げOK牧場やルーベル印刷工場まで巻き込んだ大掛かりな舞台を作り上げたんだ」


 そう言いつつ藤堂が町長に詰め寄る。


「その最後の最後の見せ場がさっきの戦闘だ。もしあの三拍子揃った副町長がこれを知っていたらどうする? 何を置いても駆けつけるんじゃないか?」


「あー、あのタヌキ親父目立ちたがり屋みたいだからね。オイラその意見に賛成!」


「どうして奴はここに来なかった? せっかくハイライトシーンをあんたに譲るような性格じゃないだろ?」


「そ、それは……」


「最後の詰めが甘かったなバートレイ町長。なんなら今から役所へ戻ってタヌキ親父に聞いてもいいんだぜ? あんた確かさっき言ったよな? 副町長に言われてここへ来たって」


 藤堂の言葉に町長ががっくりと膝を折る。呆然自失の表情でしゃがみ込み何度も何度も握り拳を地面に打ち付ける。


「クソッ。叔父がいつまで経っても私の事を子ども扱いするから……。私の方が頭も顔も良いのに……。私がこの町の町長なのに……。私の方が絶対にこの町を良くすることができるのに……。パラケス団長も太鼓判を押してくれたのに。私が……、私の方が……」


 打ちひしがれた若い町長に同情する者はいなかった。虚しい風が砂塵巻き上げてOK牧場の敷地を吹き抜けていく。

【あとがき】

 長すぎた東奔西走編もようやくどんでん返しにたどり着きました。まあ稚拙な謎解きですが無理やりでバレバレだったかもしれません。次回はもっと精進します。

 なお、数え歌ですが……。

 はい、すいません。ただでさえダラダラ感満載のストーリーテンポをさらにグダグダにする展開は重々承知の助。申し訳ありません。こんな遊びでもしないと日曜の朝七時から夕方五時まで飯も食わずに書いている独さんの神経がいっちゃいそうなので。

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