⑪『初めての騎馬は、匹夫之勇?⑪』
【前回までのあらすじ】
――新宿歌舞伎町のネットカフェからシミュレーションゲームの世界へと転生されてしまった藤堂、酒田、竜馬の三人。マウントパーソンの町に着いた早々、OK牧場の地下に眠る「銀の鉱脈」を巡って王都から派遣された疫病調査団との争いに巻き込まれる。
精製して武器や防具に転用すれば、群雄割拠するアメリア大陸の国々の国境線を一夜で塗り替えると言われている「銀の鉱脈」。疫病調査団を率いてOK牧場に乗り込んできた敵将パラケスの目の前で、何と藤堂は土建屋こと土の魔術師のゲンさんを使い、お宝の採掘に最も適した場所を地中深くに埋没させてしまったのだ。
※【戦闘フィールド】の描写がありますので横読み(スマホ横回転)でご観賞下さい。
「ふん、お前が馬鹿にする役立たず……、土の魔術師の仕事っぷりを見て驚くなよ」
――パチン――
藤堂がおもむろに指を鳴らした。
次の瞬間、耳をつんざくような轟音ととんでもない激震が辺りを襲った。ギシギシときしむ丸太小屋。牧草地の斜面の向こうから濛々と一条の土煙が立ち上ってくる。
一瞬の出来事に腰を抜かして慌てふためく荒くれども。団長自慢の駿馬も棹立ちになっていななく。
「な、何だ? これは。王子、いったい何をした!」
「何って? 言っただろ土の魔術師が本気を出したのさ」
「ま、まさか?」
「そう、そのまさかって奴さ。お前が欲しがっていた「銀の鉱脈」だがな。たった今奈落の底に埋没させてやった。もうドワーフだろうが土の魔術師だろうが、ちょっとやそっとじゃ掘り出せないぜ」
「き、貴様!」
「何をやっている魔術師ども。早く採掘現場を確認しに行かないか、この役立たずどもめ!」
疫病調査団の団長パラケスが激昂して吐き捨てた。白いキツネのような顔が怒りで真っ赤に染まっている。
「ハッ、分かりました」
団長の命令に調査団の最後尾に詰めていたトーマス、アーサー、ジェイクの三人の魔術師が、濛々と土煙が立ち込める丘の向こうへ走り出す。
フードに覆われた魔術師達の表情が、予定どおりと言わんばかりに笑みを浮かべている事に調査団の誰も気が付かない。
「藤堂王子、分かっているのですか? 貴方が何をやったかを?」
「ああ,もちろん。お前の自分勝手な出世の足掛かりを潰してやっただけだ」
「馬鹿な! 銀の鉱脈さえあれば、戦乱が続くアメリア大陸に我がワーシントン王国が覇を唱える事も夢ではなくなる。仮にも王族の貴方がそんな事も分からないとは!」
「ふんっ、分かっていないのはお前の方だ! とある事情で俺も大陸制覇の夢は分からないでもない。だがな、他にも方法はあった筈だ! 違うか?」
「ぐっ」
「わざわざ正体不明の疫病をでっち上げてOK牧場の地上げに走りやがって。しかも役場に手を回し、あまつさえ地元の印刷工場まで巻き込んだそのやり口が気に入らねえんだよ」
「……これは国家機密に相当します。民間人の口から銀の鉱脈に関する情報が洩れれば、隣国から余計な介入を招くではありませんか!」
「ふん、今さらそんな言い訳が通用するか。平和時ないざ知らず、すでにこのワーシントン王国は東部戦線と南部戦線の二正面作戦に突入しているじゃないか」
「だからこそです。隣接する紛争中の国々が「銀の鉱脈」を狙って同盟を組み、我が国に進撃してきたら、貴方はいかがなさるおつもりですか?」
馬上のまま、何とか説得を試みようと詭弁を弄するパラケスと藤堂の間を虚しく一陣の風が通り抜ける。OK牧場の看板がギシギシと音を立てて揺れる。
「机上の空論だな。このマウントパーソンの町はアメリア大陸の最北端だ。北から攻めてくる国はない。この町を攻略するには、その前に王都を始めとする街を南か東のどちらかから攻略する必要があるんだろ?」
「ちっ」
「なまじ戦争を優位にできる銀の鉱脈なんて物を見つけたのが間違いだったのさ。だから俺が地中深く埋没してやったんだ、争いの元をな」
「お、おのれ!」
「さっさと疫病調査団を王都に連れ帰ってミハエル第二王子に報告しろよ。いつまでもこんな田舎で油を売っていても仕方がないぜ?」
「そんな事ができるものか!」
「だろうな。俺の勘だが……。お前今回の一件、ハエル第二王子に報告していないんじゃないか?」
「ば、馬鹿な。何を根拠にそんな事を……」
「おいおい、お前の部下をよく見ろよ。どう見ても正規軍って面構えじゃないぜ?」
パラケス団長の背後で面倒臭そうに隊列を組んでいた荒くれ者達が、藤堂の言葉を耳にした途端怒鳴り声を上げる。
「コラ糞王子! そりゃ俺達の事か? てめぇ、いい度胸じゃねえか。今からギッタンギッタンにしてやるから覚悟しろよ!」
「貴様ら! 黙らんか馬鹿者!」
「へい、すいやせん」
パラケス団長の一喝に背後の団員達が舌打ちしながら口を閉ざす。
「ワハハ。『すいやせん』だってどこのチンピラだ。馬鹿馬鹿しい。そんなセリフを吐く疫病調査団がいるか? しかも王都から派遣された正規軍だと? 笑わせるな!」
「ちっ」
「もういい加減認めろよ。今回の遠征はお前の独断先行だろ?」
馬上のパラケスが藤堂の問い掛けにグッと顔をしかめたのは一瞬だった。だが、一度天を仰ぎ大きく息を吸い込んだ騎馬兵はゆっくりと吐き出す。
「ふぅぅぅぅぅ」
さっきまで怒りで真っ赤に染まっていたキツネ顔が、徐々に本来の青白さを取り戻していく。
「……そうですね。今さら取り繕っても仕方がない」
「やっと認めたか。まあ仮に今回の侵攻が失敗しても懐柔した副町長の口を塞ぎ、王都へ報告しなければミハエル第二王子から叱責される事もない。違うか?」
「ああ、そのとおりですよ藤堂王子。クククッ」
「何がおかしいんだ?」
「失礼。王都で聞いていた貴方の噂とは全くの別人のようなので、つい笑ってしまいました」
「異なる世界から来て、妾腹の王子に憑依した別人かもしれないぜ?」
「……御冗談を。しかし、正直驚いています。まさか私の思惑がここまで見抜かれるとは。まあ、それでも九十点の出来栄えですが……」
「へぇー、俺の読みは百点満点じゃないってか? じゃあ、これでどうだ!」
――パチン――
再び藤堂が指を鳴らした。
次の瞬間、グラグラグラっと地響きが鳴り渡り直下型の縦揺れが一同を襲う。
「畜生、さっきから何だコリャ」
疫病調査団の荒くれ者達の内、ある者は膝が笑い、またある者は腰砕けになって悪態をつきながら地面に這いつくばる。
「だ、団長、大変です!」
その時、ようやく震源地の確認に向かった魔術師の一人がフラフラになった状態で戻ってきた。疫病調査団を示す白いベールは泥まみれになり所々に血がこびり付いている。
「だ、駄目です。き、昨日の夜に確認した採掘現場が……。ハァハァ、百メートル四方に渡って瓦礫の山になっていやす」
「馬鹿者! 貴様も土の魔術師の端くれなら魔法で何とか銀鉱脈を掘り出せ!」
「む、無理でさ。あんな魔法見た事もねえ。仲間の二人も落とし穴に嵌まって生き埋めにされやした。あっしもここまで逃げてくるのが精一杯で……」
「クソッ、最後の最後まで役立たずか」
俯き加減で報告する魔術師にペッと唾を吐きかけたパラケス団長が、遊撃隊の方へと愛馬を返す。
藤堂達を追い詰めて王都での出世の足掛かりを掴んだ筈のパラケスが、逆に追い詰められた格好だ。ただでさえ青白い顔が進退窮まった暗い表情でボソボソと呟く。
「……藤堂王子、疫病調査団の団員に先に手を出したのはそちらですぞ。しかも落とし穴で生き埋めとは恐れ入る。「銀の鉱脈」を潰された穴埋めとして貴方には死んでいただく」
「けっ、『生き埋め』に『穴埋め』か。誰が上手い事を言えと……」
「問答無用。こうなったら銀の鉱脈の代わりに、貴方の首を手土産にミハエル第二王子へ差し出すまで。者どもかかれ!」
――オウ!――
パラケスの背後に控えていた団員達が武器を振りかざして雄叫びを上げる。中でもリーダー格の大男がいやらしい笑みを浮かべながら前に進み出る。
「よっしゃ、待ってやした! おっし、そこの女戦士、てめえは俺がヒィーヒィー言わせてやるから覚悟しやがれ」
「えーっと僕っすか? あー、誰かと思えば役場で投げ飛ばしてやった人っすね。いいっすよ。今度は柔道技じゃなく、この戦斧で叩きのめしてやるっす」
女戦士のアバターを身に纏った酒田が泰然自若の構えで愛用の武器を肩に担ぐ。
「しゃらくせぇー」
疫病調査団のリーダー格の大男が、団長のパラケスを押しのけて斧を片手に突出してきた。ダダダッと足音を響かせながら遊撃隊の初期位置に詰め寄って来る。
他の荒くれ男達も大男に続けとばかりに前進を開始する。戦況を見守る団長のパラケスと瀕死の重傷を負った魔術師だけが後に残る。
「き、き、来たよ。と、藤堂の兄貴ー。オ、オイラ後ろに下がっても良いよね?」
「ああ、ロビンの脇を固めてくれ」
「王子、奴らの移動距離を考えるとこちらのターンになったら無理に前進せず、逆に前線を1マスだけ下げましょう。そうすればその次のターンで先手が取れます」
頼りになる軍師の進言に従い藤堂が指示を飛ばす。
「よし、ここは一時撤退だ。みんな慌てずに戦列を乱さず一歩下がれ」
「了解」
「酒田、次のターンであの鬱陶しいリーダー格を食い止める。いいな?」
「うぃっす」
遊撃隊が1マスずつ後退し疫病調査団の荒くれ共が2ターン目を終了する。
「そこを動くなよ、女戦士。役場の裏で恥をかかせてくれた落とし前、キッチリ付けてやるからな。覚悟しやがれ!」
【戦闘フィールド】
【公用馬車】
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■■■■■■ 【魔術師】 ■■■■■■
■■■■■■ 【パラケス】 ■■■■■■
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■■■■■■ 【調査団】 ■■■■■■
■■■■■■ 【調査団】【調査団】【調査団】 ■■■■■■
■■■■■■ 【調査団】【調査団】【調査団】 ■■■■■■
■■■■■■ 【調査団】【調査団】【リーダー】 ■■■■■■
■■■■■■ ↑ ↑ ↑ ↑ ■■■■■
■■■■■■ 『藤 堂』『酒 田』 ■■■■■■
■■■■■■ 『ロビン』『タニア』 ■■■■■■
■■■■■■ 『竜 馬』 ■■■■■■
ロビンの読みどおり酒田の目の前には1マスだけ残して移動距離を使い果たした疫病調査団の大男が鼻息も荒く待機している。
「ふん、動くなって言われて『ハイそうっすね』と従う訳ないっしょ。先手必勝っす」
自分のターンが回ってきた酒田が柔道の摺り足で喚き散らすリーダーに肉薄する。
「いくっすよ! ふんぬっ」
「うっせえぞ、この女戦士。さっさと掛かってきやがれ!」
――ガキンッ――
斧対斧。力自慢の戦士同士が振るう鉄製の鈍器が火花を散らした。なんと先に攻撃を仕掛けた酒田の大斧がリーダーの斧に弾き返された。
「おっ? 結構やるっすね」
「じゃかましい!」
雄叫びを上げながら大男が斧を水平に振るって反撃に移る。
シミュレーションRPG独特のターンバトルだ。お互いに一回ずつ攻撃を繰り出し、どちらかのHPがゼロにならなければ戦闘は次のターンに持ち越される。
「死にやがれ、メスゴリラが!」
歓喜と怒気の入り混じった表情でリーダー格が反撃を仕掛ける。だが、大男が振るった鉄の凶器は、咄嗟に腰を引いた酒田の腹の前を間一髪で通り過ぎた。
「クソッ、空振ったか」
「大振り過ぎるっす」
大柄な男女の戦士達が繰り広げる豪快な対決のすぐ隣、藤堂は酒田の隣のマス目に移動した。そのまま正面で待ち構える別の団員をロックオン。
「いくぜ!」
この世界に意識だけを転送された藤堂は現世では、三年連続剣道のインターハイチャンプだった。
残念ながら若返ったアバターの身体にまだ完全に慣れないながらも剣士特有の足捌きで敵との間合い一気に詰める。
相手の懐に飛び込んでの白刃一閃! 袈裟懸けに振り下ろした一撃が敵のHP削る。
「ちっ、浅いか。一刀両断するにはまだレベルが低いぜ」
「痛ってえな、へっぽこ王子が! やられたらやり返すぜ、どりゃああああ」
三分の二以上もHPを失いながらも野盗のような団員は、ショートソードを振り回し死に物狂いで反撃する。
だが、藤堂は余裕の表情で敵の剣先をヒョイとかわす。敵の攻撃を不発に終わらせるとすかさず後方で待機していた頼りになる軍師に声を掛けた。
「ロビン、あとよろしく!」
「お任せを」
藤堂の後ろのマス目に音もなく移動したアーチャーの軍師がグッと弓を引き絞る。
「そこです、射っ!」
必殺の間接攻撃が放たれた。鉄の矢が藤堂の頭を飛び越える。王子にHPを削られて半身不随だった敵は、胸の真ん中を射抜かれもんどり打って倒れ込む。
「グハッ。だ、団長ー」
荒くれ男のHPバー目盛がパパパッと白くなっていく。ゲージがゼロになった瞬間、団員の姿が暗い光に包まれたまま闇へと消えていった。
「さっすがロビン、やるう!」
「いえ、藤堂王子のファーストアタックのおかげですよ。それよりも竜馬さん、気を抜いてはいけません。来ます!」
「うっ、なるべくならオイラの方へ来ませんように」
ブツブツ言いながらも愛用のナイフを片手に藤堂の斜め左後ろ、アーチャーの隣のマス目に移動して前線を支える布陣に加わる。
「心配いらないって。多少の怪我ならタニアが速攻回復してあげるよ」
「ううっ、多少で済めばいいんだけどさ……」
「もう何言っているのよ、竜馬。山賊の首領と渡り合った時の事もう忘れちゃったの?」
「そ、そうだね。アレに比べたら楽勝だよね? オイラだってレベルアップしているし」
「どりゃさあああああ」
野獣のような雄叫びがOK牧場の戦闘フィールドに響き渡る。疫病調査団の第二波攻撃が始まった。
「ヒェェェ、来たぁぁぁぁ!」
疫病調査団の団員一人が倒されたものの遊撃隊との戦力にはまだ差があり、荒くれ共の士気も高い。何よりも後方で控える騎馬兵のパラケスが睨みを利かせているのが大きい。
「へっへっへ。今度はこっちの番だぜ、女戦士。コレでも喰らいやがれ!」
自分のターンが回ってきたリーダー格の大男が白装束をなびかせながら先手を取る。技も何もない力任せの攻撃で酒田に襲い掛かった。
「げっ、結構速いっす。しまった!」
右上段から振り下ろされる斧を避けようとした酒田だったが、意外とスピードに乗った敵の一撃をまともに受けてしまう。HPバーの目盛がパパッと数個白くなった。
「酒田!」
隣で血しぶきを上げたサラリーマン時代からの部下に思わず藤堂が声を掛ける。
「心配いらないっすよ、先輩。ちょっと油断しただけっす。ふんぬっ!」
お返しとばかりに山賊の首領ゴードンを倒して分捕った柄の長い戦斧が綺麗な弧を描く。ようやく手に馴染んできた凶刃が大男の肩にヒットした。
「ぐぎゃぁ、くそったれが!」
顔をしかめるリーダー格のHP目盛も酒田と同様に数個白くなった。だが、お互いに致命傷にはまだ程遠い。
「先輩、こいつら意外と手強いかもっす」
「ああ、癪だけどな。俺達のレベルがまだ低いってのもあるが……。あの白装束って防具、結構守備力が高いんじゃないか?」
戦闘中だというのに肩を並べる二人のサラリーマンは呑気に敵の戦力分析を始める。そこへ別の団員が怒鳴り声を撒き散らしながら躍り込んできた。
「オラオラオラ! 余所見しているんじゃねえよ」
さっきのターン、ロビンが敵を一人倒したので藤堂の前のマス目が空いている。そのスペースに斧を担いだ荒くれ者が入り込んだ。
「死にやがれ、オラ! ヘボ王子が」
上段から真っ直ぐ振り下ろされた鉄の斧だったが、藤堂が手にする武器はショートソード。剣対斧。武器の相性アドバンテージも手伝って団員の攻撃はスカッと空を切る。
「ったく、『ヘッポコ』だの『へぼ』だの言いたい放題だな……」
先祖伝来の古武術【中丞流】を極めた藤堂の全身からユラユラとオーラが立ち昇る。自然体の脇構えを取った王子の姿が、次の瞬間ぶれて見えなくなる。
「んだと? 消えやがった!」
突然目の前にふらりと出現した藤堂。白く輝くその姿から死の臭いを嗅ぎ取ったのか。荒くれ者が大きく目を見開いた。
「そ、そんな馬鹿な……」
「遅いっ!」
言い終わると同時に閃光が煌きショートソードが宙を切り裂いた。残身を保ちつつ剣を鞘に納めると同時に団員の身体から鮮血が迸る。
「ぐぼばえー」
HPゲージが一瞬で空になった荒くれ男の肉体が、パッと暗褐色な光の粒子に変わり虚空へと溶けていく。
「やりぃ兄貴、クリティカルヒット炸裂!」
藤堂の左後方で声援を送る竜馬の言葉どおり、クリティカルヒットは通常攻撃の二倍のダメージを与えるので場合によっては敵を瞬殺する事も可能だ
だが、狙って出せるものではない。ステータスの中の【必殺】数値が高いほど攻撃がクリティカルヒットになる確率が高くなるが基本的にはランダムだ。
「どうした? さっさと次、来いよ」
藤堂は左手の人差し指を疫病調査団の荒くれ共に突き出し、再び自分の前に空いたスペースを指し示す。
「っざけんなボケが! ぶっ殺す!」
藤堂の挑発にターンが回ってきた団員の脳ミソが沸騰した。足音も荒く王子の前に歩を進める。濁った目付きのままショートソードを頭上に振り上げた。
「オラ、真っ二つになって死ねやぁー。糞ガキ!」
大上段から斬り下ろされる凶刃に対しスッと左足を引いた半身の態勢。さっきまでそこにあった藤堂の左肩はない。団員はたたらを踏み鉄の刀身は虚しく地面の土に突き刺さる。
「掛かったな、脳筋野郎。冥途の土産に覚えておけ、俺はガキじゃねえ!」
スラリと剣を抜き放つ。信じられないものを見たように大きく目を見開く荒くれ者に躊躇いもなく抜き打ちを放った。
「ぎゃあああ」
そこへ軍師アーチャーのロビンが作戦どおりの追い撃ちを掛ける。藤堂の背後から間接攻撃の矢が飛来し三人目の団員を葬り去った。
「主よ、彼の者の御霊を回復させ給え。ライファ!」
傷ついた酒田の後ろのマス目に滑り込んだタニアが、小さな聖書を片手に祈りを捧げた。リーダー格にHPを削られた女戦士の肉体が優しい光に包まれ全回復する。
「あざっす」
後ろを振り返りながら酒田がシスターに礼を言う。コキコキと首を鳴らしながらいつでもイケルとばかりに目の前のリーダー格に視線を戻した。
「へっへっへ、どんなもんだい! オイラ達遊撃隊の実力が分かったかい? 今なら許してやるから尻尾を巻いて王都へ逃げ帰れってんだ、バーカ」
「なんじゃと! てめえ、もういっぺん言ってみやがれ。楽に死ねると思うな……」
「黙らんか、貴様ら!」
頭に血が上って喚き散らす部下達に業を煮やした団長のパラケスが一喝する。白いキツネ顔がまるで獅子のような咆哮を放った。
ビクンッと団員達が背筋を伸ばし恐る恐る背後を振り返る。馬上の団長が凄まじい怒りを向けてくる。
「安い挑発に乗るな馬鹿者ども。いい加減これが敵の作戦だと気が付かんか! 敵は少数ゆえの各個撃破しかない。乗せられるんじゃない」
団長の言葉に団員達がハッと気が付いたように怒りを静めていく。
「今から私が指揮を執る。リーダーは女戦士をそのまま押さえ込め。藤堂王子は私が相手をする。他の奴は遊撃隊の両脇を抜けて背後へ回り込め、いくぞ!」
――オウ!――
団長の号令で疫病調査団の士気が上がる。瀕死の魔術師を残し最後方からパラケス団長が移動を開始した。騎馬兵特有の移動距離の長さを活かし一気に最前線へと詰め寄って来る。
「あ、兄貴。ゴメン。オイラ余計な事を言ったみたい。せっかく途中まで上手くいってた作戦が……」
「いや、俺の挑発に比べれば結構良かったぜ」
「そうっすね。先輩がさっき言った『冥途の土産』なんてセリフ、確かにガキは使わないっす」
「酒田、お前なぁー」
「まあまあ、お二人とも。確かに彼我の戦力差は最初11対5だったのが、今は8対5まで縮まりました。しかし、これからが正念場ですよ」
「ああ、分かっているさ。悔しいがパラケスの野郎の戦術眼は正しいぜ。この広い戦闘フィールドだ。俺と酒田の壁を迂回して後ろから回り込まれるとやっかいだ」
「はい。最悪の場合、前後からの挟撃を受けて遊撃隊が全滅する恐れもあります」
「ロ、ロビン! 大丈夫なのかい? オイラ、持ちこたえる自信ないよ」
「心配するな、竜馬。すでに手は打ってある」
「うんうん。問題はタイミングだけだよね、剣一?」
若干顔を引きつらせながらもヒロインのシスターが満面の笑みを浮かべる。
「まあな。……という訳で敵を挑発して各個撃破する作戦はもう止めだ。今から遊撃隊を二つに分ける。タニア、ロビン、竜馬は自分のターンが来たらすぐに前線から後退しろ!」
「了解」
「ロビン、そっちの指揮は任せる。絶対に死ぬな!」
「ここは軍師として腕の見せ所ですね。お任せあれ」
「酒田、お前はここで俺と一緒にリーダー格とパラケスを足止めする。いいな?」
「うぃっす」
「さあて、OK牧場の決闘の第二幕スタートってか?」
目の前には白装束の団員達が津波のように押し寄せる。その荒々しい男達を押しのけ軍馬の蹄を打ち鳴らしながら禍々しい騎馬兵が突進して来た。
パラケス団長に各個撃破を見破られ士気も高揚した疫病調査団。このままでは数に物を言わせた攻撃で遊撃隊は蹂躙されるしかない。
態勢を立て直して迫りくる難敵に藤堂が打っておいた手とは? 果たして窮余の一策は功を奏するか?
【あとがき】
よっしゃあ、戦闘シーン来たぁぁぁぁぁぁ! えーっと、ターンバトル制だったよね確か? 最初に王子が攻撃して敵が反撃。そんでもって次の敵が寄って来て……。はて? 戦闘シーンってどう描くんだっけ? い、いかん完全に記憶の底に埋没されている。ひょっとしてこれは? 土魔法のせいなのね♪ そうなのね♪ どわっはっはっはー。今何時? はせさん治!(おいおい)すいません。まだ続きます。あーゴールが遠い。
ほんの少しでも興味が惹かれたお優しい読者様。ぜひ画面上の【ブックマークに追加】をポチッと押してくださいませ。不定期更新の我が拙作が更新されたら自動的にお知らせしてくれますよ。便利便利~。




