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シミュレーションRPG狂騒曲サラリーマンが剣士で王子様?  作者: 独身奇族
東奔西走編

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42/51

⑧『初めての騎馬は、匹夫之勇?⑧』

【前回までのあらすじ】

――何者かの手によって歌舞伎町のネットカフェからシミュレーションゲームの世界へと転生されてしまったサラリーマンの藤堂、その部下酒田、そしてボッタクリバーの客引きをやっていた竜馬の三人。日本へ帰るために彼らは遊撃隊を結成したまではいいが、その財政を補うため村起こしに奔走する。

 隣町マウントパーソンに出向いたメンバーは疫病騒ぎに巻き込まれ、若い町長とその叔父である副町長の確執を目の当たりにする。王都から派遣されたパラケス率いる疫病調査団と一触即発の危機を何とか収めた藤堂だったが……。――


「……という訳で町長。今日は貴重なお時間を頂きありがとうございました」

「やはりお力になれませんでしたね。申し訳ありません」


「いえいえ、結構収穫がありましたから。またお伺いすることもあると思いますが、今日はこの辺で。酒田、竜馬。帰るぞ」


 うな垂れるバートレイに背を向けて藤堂が町役場の庁舎を後にする。女戦士と盗賊の二人組みが慌てて王子を追いかける。


「ちょっと、兄貴ってば。本当に帰るの? オイラ、あれって絶対イベント発生だと思うんだよ。ここで「いいえ」選んじゃうプレイヤー、普通いる?」


「いいから。先輩には何か考えがあるっすよ……たぶん」

「たぶんって、酒田の兄貴まで。ちょっと、オイラを置いていかないでくれよー」

【本文】

 マウントパーソンの町役場を後にした藤堂、酒田、竜馬の転生三人組が、そこそこ人通りのある町のメインストリートをブラブラと歩いている。


 姿形はどこからどう見ても絵に描いたような女戦士(中身は新宿商社の新人サラリーマン)の酒田が、この国の第四王子(中身は先輩社員の藤堂)に問い掛ける。


「先輩、これからどうするんすか?」


「取りあえずOK牧場に帰る。疫病を調べに行ったロビンにさっき連絡を取ったら、向こうはもう牧場に戻っているってさ」


「連絡? ああ、あの緊急連絡のことっすね、前に先輩がタニアのお風呂場を覗いて半殺しにされた……」


「やかましい。嫌なことを思い出させるな、ったく。まあ、それにしてもさすがロビンだぜ。軍師キャラは伊達じゃないな。どうやら牧場の麓で発生した疫病の正体を掴んだらしい」


「こっちも負けちゃいられないっすね。で、町長と面会して何か分かったんすか?」

「まあな。もう少しで今回のシナリオが見える……、そんな気がするぜ」


「えー? マジで? 兄貴に言われて、オイラ張り切って役場へ一緒に行っただろ? だけど結局、何も期待に応えられなかったのに。さっすが藤堂の兄貴!」


「いいさ、今から役に立ってもらうから」

「い、今から?」


「ああ、お前に役場で頼んだことを覚えているか?」


「もちろん。情報収集だよね。でも、すぐに白尽くめの奴らと鉢合わせしちゃって。聞き込みなんて全然できなかったんだよ」


「白尽くめ? ああ、疫病調査団か。その中に魔術師は何人居た?」


「魔術師? 僕が相手をしたのはガタイのある戦士系の奴らばっかりだったすよ?」

 存在感のある女戦士が横から二人の会話にツッコミを入れる。


「いやいや、酒田の兄貴。確かに最初はそんな奴ばっかりだっけど。ホラ、途中でタヌキ副町長とキツネ顔の団長が登場した時に一緒に居たよ。あのコンビが引き連れていた三人の調査団員は、確か全員魔術師だったよ」


「竜馬、昨日俺たちがOK牧場で調査団とやりあった時、魔術師は何人居た?」

「えーっと、それも確か三人だよ。ローブを羽織っていたから間違いないよ」


「その三人は今日と同じ奴等か?」

「うん。同じだと思うよ」


「そうっすか? 全員が白いローブ姿で僕には見分けが付かなかったすよ?」


「確かに顔はハッキリ見えなかったよ。でも酒田の兄貴。オイラ、歌舞伎町で路上キャッチやっていただろ? 出会った人間を覚える時に重要なのは相手の顔じゃないんだよね」


「じゃあどこを見るっす?」


「黒服のテクニックの一つなんだけどさ。身体から滲み出る独特の雰囲気を頭に入れるのがコツなんだよ」


「そう言えばお前。歌舞伎町で逃亡劇やった時、一瞬で俺と酒田の顔を見分けたよな?」


「あははは。オイラあの時は死を覚悟したよ、ホント」

「逃げ足は天下一品っすね」


「そ、それはともかく、さっきタヌキとキツネのコンビの後ろに居た三人は、間違いなく牧場で見かけた魔術師達だよ。うんうん」


「よし、いいそ。つまりだ。疫病調査団にはガタイのある戦士系の団員以外に別グループの魔術士が三人控えているってことだ」


「へ? それが今回OK牧場を巻き込んだ疫病騒動と何か関係があるっすか?」

「それが大有りなのさ。じゃあ竜馬。そいつらの魔法の属性、分からないか?」


 ここぞとばかりに藤堂が身を乗り出して尋ねるが、後輩サラリーマンは納得がいかないのか大げさなジェスチャーで肩をすくめる。


「先輩、結局戦闘にはならなかったっすよ。奴らは魔法を使わなかったっす。あの場面で炎とか水とか魔法の属性を特定するのは、さすがに竜馬でも無理じゃないっすか?」


「いや、分かるよ。だってオイラ、今日の三人と同じ雰囲気を持った魔術師に、バッチリ心当たりがあるからね。ほら、山賊の仲間だった時にそんな魔術師が一人居ただろ?」


「うーん、降参っす。僕には何のことだかサッパリっす」


「ははーん。そうか、なるほど。さっき藤堂の兄貴が言った今回のシナリオっていうのがオイラにも何となく見えてきた気がするよ。って事はこの後……」


「フェアリー、ちょっと出てきてくれ」

 藤堂が何もない空間を見上げて呟いた」


「やっぱり、そうくるよね!」

「え? どうして、フェアリーを呼び出すんすか? 竜馬は分かるっすか?」


「まあまあ、酒田の兄貴。ここはリーダーに任せればいいんじゃない?」

「そうっすね。頭脳労働は主人公に任せて、僕達は肉体労働で貢献すればいいすね」


「ハイハイ! 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン。マスター、何か御用ピョン?」


 通行人が行き交う町のメインストリートの上空にぽっかりと異次元空間の穴が開く。そこから体長二十センチの小さなバニーガールが飛び出してきた。


 さらさらなブロンドヘアにウサギ耳。しっかりと胸の谷間を強調する黒のバニースーツ。赤の蝶ネクタイに蒼いカフス付の短い袖口。腰まで切れ込んだスーツが、黒の網タイツを纏った妖精の白い脚をより一層長く魅せている。


「フェアリー、お前今すぐベリハムの村に戻れるか?」


「お安い御用だピョン。だって村にはチュートリアル様がいらっしゃるから。遊撃隊メンバーの居る所、ウサギ妖精のフェアリー有りだピョン!」


 藤堂の目の前で空中停止し、エッヘンと胸を張る。


「そうか。異次元にあるバニーガールの巣穴は、メンバー全員の近い場所に出られるんだっけ? いやー便利、便利」


「違うピョン。フェアリーはバニーガールじゃなくて、ウサギ妖精だピョン。もう、マスターは何度言ったら分かるピョン?」


 透明な四枚羽がせわしなく動きフェアリーが藤堂の頭の上にスッと舞い降りる。白い小さな両手でポカポカと王子の頭を叩いた。


「あはは。悪い、悪い」

「で、マスター? ベリハム村まで戻るのは簡単だけど、お使いは何をすれば良いピョン?」


「今から言う事を執事のチュートリアルに伝えて欲しいんだ。いいか、俺達が滞在しているマウントパーソンのOK牧場まで、大至急……」


 藤堂の指示を隣で聞いていた竜馬は満面の笑みを浮かべて頷いているが、女戦士の酒田は相変わらず腕組みをしながら首を捻り頭の上に疑問符を並べていた。


――■――□――■――

 マウントパーソンの町役場を後にした藤堂王子がOK牧場への帰路途中、フェアリーに何やら指示を飛ばしている頃。役場の副町長室ではタヌキとキツネの化かし合いが始まっていた。


 応接セットに向かい合って座るのは、もちろんこの部屋の所有者であるタヌキ顔の副町長とのっぺりとしたキツネを連想させる面相の疫病調査団の団長パラケスの二人。


「……ところで、パラケス団長。あの目障りな妾腹の王子様、何とかなりませんか?」


 でっぷりとした太鼓腹のタヌキ親父が一人腰を下ろすだけで三人掛けのゆったりサイズな筈のソファーがギシギシと悲鳴を上げている。


「副町長、それは貴方次第です」

「と申しますと?」


「クククッ、腹を括るという事ですよ」


 パラケス団長の口角がきゅーっと釣り上がりキツネの眼つきに嫌らしい光が灯る。


「は、腹ですと? ま、まさか藤堂王子を亡き者に……。あわわ」


 見かけは大物ぶって恰幅の良い副町長だが、小心者の性格が顔を出す。自分が口にした畏れ多い言葉に驚き、副町長室の中を見回しながら慌てて口を押さえた。


「ご心配なく。ここには私と副町長の他には誰もいませんよ」

「いや、しかし。そこの三人は?」


 部屋の隅に魔術士達がひっそりと影のように控えている。


「大丈夫。こいつ等は私の影とでも思って頂ければ結構です。OK牧場のあの広い敷地を探索……。いや、疫病の原因を調査する只の手駒に過ぎませんから」


「はぁ、そうですか。団長がそう仰られるのなら。そんな事より、仮にも一国の王子をどうこうすると言うのはさすがに気が咎めますな」


 こんな男にも良心の呵責があるのか、タヌキ顔が困ったようなしかめっ面になる。


「私もマウントパーソンの行政を預かる者の一人。問答無用の力ずくではなく、あの王子を何とか穏便にこの町から追い出す良い算段があればそれに越したことは無いかと」


「ククク……生ぬるいですな。ご存知のとおり藤堂王子は妾腹の子。王宮でも彼を認めているのは極々一部の者だけ。所詮は居ても居なくても良い四番目の王子ですよ」


「で、ですが……」


 パラケスの尖った棘のある言葉にタヌキ腹の副町長は思わず及び腰になり、三人掛けのソファーがまたギシギシと嫌な音を立てた。


 応接セットの対面に座る団長が音も無く立ち上がる。テーブルの上にドンッ両手を付き副町長に圧し掛かるようにして顔を近付ける。


「副町長、私も今更後戻りはできないのですよ。ガスバル王弟殿下と第二王子のミハエル様の前で、こうお誓い申し上げたのです……」


――この計画、私の一命を賭けて成し遂げてみせます!――


「すでに大方の調査は完了しました。後は実行に移すのみ。この町から追い出すのは、藤堂王子ではなくOK牧場の奴らですよ。ククク」


 狡猾そうな笑みを浮かべる団長が、謎めいた言葉を残して副町長に背を向けた。


「あ、そうそう。この件に関しては無論口外無用でお願いしますよ、副町長。もちろん貴方の甥である若い町長にも」


「は、はい。それはもう」


「なあに、あと数日でカタが付きますよ。疫病調査団が私の目論見どおりの実績を上げることができれば……。その時は、王宮で首を長くして結果をお待ちになっていらっしゃる第二王子のミハエル様に、貴方をお引き合わせることもやぶさかでは有りません」


「ほ、ほんとうですか!」

「ええ、もちろん。ただし……」


「分かりました。直ちにOK牧場を第一級危険地帯に指定し、強制力のある避難指示を発令しましょう」


「おお、そうこなくては。副町長のご英断に敬意を表します。王子達一行と牧童達の拘束については、我が疫病調査団にお任せ下さい」


「それは有りがたい。ではさっそく防災対策課長のケツを叩いて書類の準備を急がせましょう。今から始めれば三日後の午後には牧場からの立ち退き命令を……」


「遅い! 私も王都から矢の催促が来ているんですよ。よろしいですか、明後日までにケリを付けます。さもないと副町長、貴方が王都へ栄転するための足掛かりなど夢のまた夢」


「あわわ、それは困る。私はこんな小さな田舎町で一生を終えるつもりはない。もっと大きな都市で行政マンとしての力を発揮したいのです」


「ここが正念場ですよ。一分一秒でも早く結果を出す。そうすればミハエル王子様へのお目どおりも叶う筈」


 そう言い残しながらすかさず団長のためにサッとドアを開ける魔術師に目もくれずパラケスは部屋を後にする。


 廊下を疫病調査団の団長と魔術師三人が歩くだけで町役場の事務員達は息を呑んで黙り込む。


「おい!」


 パラケスの呼び掛けに追従する三人の魔術師の中のリーダーがビクッと身体を震わせた。


「先ほど副町長にはああ言ったが……。もう目星は付いているんだろうな?」

「ハッ! そ、それが」


「何だと! 貴様、副町長とのやり取りを聞いていなかったのか?」


「め、滅相もありません。もうOK牧場の敷地の中で探索していない箇所は残すところあと僅かです。明日の午後には例の場所が特定できますです。ハイ」


「そうか……。私も今回の作戦は王弟殿下と第二王子の前で啖呵を切った手前、下手なことはできないと思って、やれ疫病だ何だと小細工を弄しすぎた。だが、それもここまでだ」


「僭越ながら申し上げます。あの副町長は大丈夫でしょうか? グハッ!」


 手駒でしかない魔術師が上官に向かって意見した途端、腹を立てた団長の鉄拳が間髪を入れず魔術師の顎に炸裂する。


「貴様! 誰に、向かって、口を、聞いて、いるんだ?」

「ブボアッ、ブハ。お、お許しを……」


 単語を区切りながら役場の廊下にうずくまる魔術師に容赦ない蹴りが浴びせられる。仲間の魔術師二人は震え上がって虐待の光景を見つめるだけだ。


「魔術師のくせに、戦闘ではまったく、役に立たないお前達を、一体誰が拾ってやった? いいか、その恩を忘れるなよ? お前達は私の影だ。影が喋るか? 影が物を考えるか?」


 フードに隠れて魔術師の表情は見えない。だが、その口元から滴り落ちる鮮血が廊下の床に血溜まりを広げていく。


「何だ、その反抗的なその目は? ふん、まあ良い。身の程知らずのお前の勇気に免じて先ほどの質問に答えてやろう。あんなタヌキなど放って置けば良いのだ。元々、奴は……」

 エキサイトした団長は、さらに口に出そうとした言葉を忌々しそうに飲み込んだ。役所の事務員達が聞耳を立てていることにようやく気づいたからだ。


「チッ、喋りすぎたか。おい、いつまで寝ている。お前はコイツをさっさと薬草で回復しろ。そっちのお前は、疫病調査団の全員を裏庭に集合させておけ。いいな?」


「は、はい」


 部下の魔術師は命令どおりにギクシャクと動き始めた。一人裏庭とは逆方向の廊下の奥へと歩き去るパラケス団長に魔術師三人は「どちらへ?」と尋ねることもできない。


 そんな部下の思惑など関知せず不敵な笑みを浮かべるパラケスはそっと呟いた。


「ではそろそろ。OK牧場の決闘といこうか?」


――続く――

【あとがき】

 OK牧場を廻る疫病事件もようやくクライマックスに差し掛かりました。このシナリオが見えたと言う藤堂が、バニーガール妖精に命じたことは一体? 一方、謎めいたパラケス団長の真意はどこに? 藤堂率いる遊撃隊VS疫病調査団がOK牧場で激突するのは必至。

 次回『初めての騎馬は、匹夫之勇?⑨』乞うご期待!

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