⑥『初めての騎馬は、匹夫之勇?⑥』
【前回までのあらすじ】
――原因不明な疫病の真相究明に乗り出すため、二手に分かれた遊撃隊のメンバー達。シスターのタニアを伴った軍師役のロビンは、槍少女のミディアとその母エイコの協力により不可解な事件の糸口をつかむ。エイコが実の妹を糾弾しようとしたその時、疫病で床に臥せっているはずの男が遊撃隊の前に姿を見せた――
「マイコ! この塩麹、味が滅茶苦茶じゃない! あなた忘れたの? お母さんが私達二人に託してくれたお袋の味を!」
「そ、それは……」
「調味料の味を保つには、毎日毎日それは手間暇がかかるわ。でも、あなた。お母さんが亡くなってからも、ずっと塩麹を作ってきたじゃない。それなのに……」
妹を糾弾するエイコの目に大粒の涙が浮かぶ。
そんな姉の姿を見たマイコが何か弁解しようとした時、食堂の奥から一人の男が現れた。
「もういい。もういいんだよ、マイコ」
「あなた、人前に出てきちゃ駄目よ!」
「お義姉さん、どうか貴女の妹をこれ以上責めないでやって下さい。悪いのは全て夫の僕なんですから」
「ルーベルさん! あなた、病気で寝たきりだったんじゃないの?」
「申し訳ありませんでした。疫病に感染したというのは嘘です」
「どうしてそんな……。うちの牧場が今どれだけ大変な目に合っているか、分かっているの? どうして印刷工場を閉めてまで、嫌がらせをするのよ!」
「すいません、お義姉さん。事業経営が苦しくなって、つい魔が差したのです」
「それはどこも同じでしょ? うちの牧場だって、毎月青息吐息なんだから。大体、それと今回の疫病とどう関係があるの?」
「……それは」
「ひょっとして、疫病調査団のパラケス団長にそそのかされたんじゃありませんか?」
美貌のエルフが問いかけた。
口ごもった義弟を問い詰めようとしていたエイコは大きく眼を開き、ロビンを振り返って見る。
「調査団の団長ですって? じゃあ白ずくめの男達が最初から仕組んだの? でも、王都から派遣された調査団だって副町長も言っていたじゃない? まさか……」
「ルーベルさん。印刷工場の経営が苦しくなったのはいつ頃からですか?」
「半年くらい前でしょうか」
「マウントパーソンの町は、活気がありますね。にもかかわらず事業が破綻した。考えられる原因は二つ。一つは賭け事や女に会社の資金をつぎ込んだ場合」
「違います! 主人は絶対にそんな事はしません」
「でしょうね。ルーベルさんは、とても真面目な方のようです。では、工場経営が傾くような理由としてもう一つ思いつくのは……大口の顧客を失ったとか?」
「貴方はすべてお見通しのようですね。そのとおりです。ちょうど半年前になります。それまで役場から請け負っていた仕事が全部打ち切られてしまって」
「嘘でしょ? 私達姉妹が小さい頃から、この町で印刷工場と言えばルーベルって、誰だってそう答える筈でしょ?」
「ええ、お義姉さん。僕が入り婿としてここで働き始める前から、役場の仕事を一手に引き受けて、生計を立ててきた印刷屋でしたから」
過去を振り返る工場主が何度も首を振る。
「それがある日突然、何の連絡も無しに役場から印刷物の発注委託を全部キャンセルされたのです」
「そんな!」
義弟の悲痛な叫びにエイコが両手を口に当てる。
「カラー刷りの広報誌から様々な手続きに必要な申請書に至るまで、お役所に印刷物は欠かせません。もし、その発注を他所の印刷業者へ回されたりしたら……」
「ちょうど新型の印刷輪転機を導入したのも災いして、すぐに運転資金は底を付きました。最後は従業員への給金も滞る始末で、今ではご覧のとおりの有様です」
最近まで大勢の従業員で賑わった筈であろう工場の食堂は、今は人気もなくがらんとしている。
「そんな時、パラケスと名乗る男が資金難にあえぐ私達夫婦の前に現れたのです。ある事に協力してくれたら、工場の運転資金を無償で提供する用意があると」
「ある事……ですか。ひょっとして?」
「ええ。原因不明の疫病に感染した振りをしてくれないかと言われました。もちろん最初は断りました。しかし……」
「役場に掛け合って、印刷物の発注も元どおりに出来るかもしれないとまで言われたら、首を縦に振るしかなかったのです」
「疫病に感染した振りですか? 奴はどうしてそんな事を?」
「分かりません。ただ団長は『自分は王都で疫病関連の調査をしている。王宮へ報告する、病気を根絶させたという調査団の実績作りに協力して欲しい』とだけ」
疫病に感染しているというのは作り話だったと言うものの、外見的にはげっそりと病弱以上にやつれた工場主が呟く。
「怪しいわね」
「はい。しかし、銀行からの融資も受けられず、困り果てた私達夫婦は、この怪しい資金提供の話を飲むしかありませんでした」
「今までずっと家族みたいにやってきた従業員へ、未払いだったお給料をどうしても出してあげたかったの」
「ふむ。一方で相手を資金的に追い込んでおきながら、もう一方から甘い誘惑の手を差し伸べる。使い古された手段ですが、実際にやられてみるとたまりませんね」
「ごめんなさい、姉さん。でっち上げた疫病の感染源を副町長がまさかOK牧場に擦り付けるなんて思いもしなかったから……」
「何てこと! 全部あの調査団の団長の差し金だったのね。役場のタヌキ親父までグルになって、私達を罠に嵌めたなんて信じられないわ!」
ようやく事件の謎が氷解したエイコの金切り声が食堂に響く。
「それにしてもマイコ。私たち、たった二人の姉妹じゃない。どうして相談してくれなかったの? 水臭いじゃない」
「OK牧場の台所も苦しいって、姉さんいつもこぼしていたじゃない。お金を貸してくれなんて、とても言い出せなかったの」
「お義姉さん、マイコは何度も貴女に真相を打ち明けようとしたのです。でも僕がそれを無理に止めさせました。資金援助の打ち切りをチラつかされて……」
「最初は町の皆も病気の心配をしてくれるだけで気が楽だったわ。局地的な疫病って事にしてあったから。でも、姉さんの牧場が封鎖されてからは地獄だった」
立っているだけで精一杯の妹に、姉のエイコがそっと椅子をすすめる。
「将来への不安と姉さんへの罪悪感で気が狂いそうになったわ。主人は部屋から出る事もできず、私はお酒と高価な買い物に走るしかなかったの」
「……マイコ、覚えている? お母さんが私達に塩麹を分けてくれた日のこと」
エイコが椅子に腰を降ろしうなだれる妹の細い肩にそっと手を置く。
「お母さん、私達二人にいつも言っていたわ。毎日必ず一回は塩麹の顔を見るんだよって」
「うん、覚えているわ。手間はかかるけど、味は嘘をつかないって。ごめんね。アタシ塩麹どころか、姉さんの顔も見られなくなっていた」
両手で顔を覆う妹の頬から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちる。
「大丈夫、大丈夫だよ、マイコ。あたしの塩麹を分けてあげる。もう嘘なんてつかなくていいんだから」
泣きじゃくる妹をギュッと抱きしめるエイコの眼にも涙が光る。
わだかまりが溶けた姉妹に気を利かせるように、印刷工場の従業員食堂から一人席を外して出て行った遊撃隊の軍師の背中にタニアが声をかける。
「ねえ、ロビン。一つ聞いてもいい?」
「ええ、どうぞ」
「白ずくめの奴らが、ただ単に感染源を突き止めてその手柄を王宮に示したいだけなら、どうしていつまでも牧場の周りをうろつき回っているの?」
「いい所に気がつきましたね。そうなのです。わざわざ病気をでっち上げてまで大事にした割に、その目的が単なる疫病調査団の実績作りとは思えません」
「印刷工場のルーベルさん夫婦も知らない何かが、この事件の裏にはまだ隠されているってとこかな?」
「ええ、間違いありません。そして、それは必ずOK牧場にあるはずです」
「ミディアの家まで巻き込んだ秘密……。うーん、何だろう?」
首をかしげるシスターにロビンが答える。
「今はまだ分かりません。ただし……」
「ただし?」
「ふふっ。それは王子がすぐに突き止めてくれるでしょう」
「うん、そうだね。剣一ならバッチリOK!」
牧場の麓の集落から小高い丘を越えた場所にある、マウントパーソンの町役場へと向かった藤堂たちに思いを馳せる。
――■――□――■――
町のメインストリート。繁華街の大通りを無数の人々が忙しそうに行き交う。
そんな雑踏の喧騒の中、町のクエスト屋のドアを開けて店を出た藤堂王子がクシャミを連発する。
「ハ、ハクション!」
すかさずサラリーマン時代からの後輩でもある女戦士の酒田が茶々を入れる。
「風邪っすか、先輩? それとも誰かさんが、噂をしているんじゃ?」
「馬鹿言え。しかし、このアバターの肉体でも病気になるのか?」
「そりゃ兄貴、殴られたら血も出て痛いし。病気にだってなるんじゃないの?」
三人連れの最後の一人が振り返る。この世界では盗賊の竜馬も、後の二人と同様に新宿歌舞伎町のネットカフェから精神だけを転生されたアバターだ。
「そうだな。平和な日本と違って、下手をすれば殺される可能性もデカイし」
「ホントホント。オイラ、こんな世界からとっとと逃げ出したいよ、まったく」
「でも、その分このシミュレーションゲームは、リアルのあっち世界と比べて便利な点も多いっすよ」
「まあな。村でゲットした秘薬草も簡単に換金できた。それと、こんな事が出来るのもゲームならではだ」
そう言いつつ、たった今クエスト屋で秘薬草の達成報告を終えて、僅かばかりの報酬を手にした藤堂が右手をサッと振るとデータ画面が空中にポップアップされた。
【所持品】
┏━━━━━━━━━
❙ 1200 B
❙ 秘薬草
❙ 秘薬草
❙ 運命の鍵
┗━━━━━━━━━
「じゃーん! 【秘薬草のクエスト】でゲットした遊撃隊全員の報酬は、マスターのデータにフェアリーがちゃーんと送金しておいたピョン」
次元の穴から飛び出した体長二十センチのウサギ妖精が、えっへんと空中で胸を張る。ポニーテールにまとめたブロンドの髪と、透き通る四枚の羽がきらめく。
「何だ、たった千二百バーツかよ? 軍資金がショボすぎるぜ。竜馬の言ったとおり、俺だってこんな糞ゲームからはさっさとオサラバしたいんだが……」
「あー、マスターってば。『1バーツを泣く者は、1バーツに笑う』んだピョン」
「それってどこの国の諺なんだ? 大体、『泣く』と『笑う』の順番が逆だろ」
「そうそう。やっぱり『先立つ者は金』っすよね。先輩」
「ああ。正確に言うと『先立つ物』だけどな。まあとにかく、軍資金がないと遊撃隊の存続もヤバイ事になるっていうのは間違いない」
「兄貴、『金の切れ目が、円の切れ目』って感じで、オイラをココかから追い出さないでおくれよ」
「おいおい、俺達三人は一蓮托生だろ。こんなゲームへ一緒に放り込まれたんだ。そんな事をする訳ねえよ! って言うか、その前に『縁の切れ目』だぞ?」
「そっか。この世界の通貨は、『円』じゃなくて『バーツ』だったね」
「そこじゃねえ! フェアリーはともかく、お前ら日本の諺がグダグダだな」
遊撃隊の知的レベルが嘆かわしい状態だ。藤堂は同じ境遇のメンバー二人のステータス画面を遊撃隊の隊長権限で立ち上げようとするのをかろうじて止めた。
「世界統一に向けての拠点づくりだ。ベリハム村の【スライム王国】による村興しを軌道に乗せるまで、どんなイベントでもクリアしてやるからな」
「そう言えば兄貴、例の【虹の宝珠】だっけ? アレも探すんだよね?」
「当然だろ。ゲームを終了させてここから脱出するには、恐らく必要不可欠なアイテムのはずだからな」
「それにしても、オイラ達をこんな世界に引きずり込んだ奴だけどさ。一体どこの誰で、何を企んでいるんだろうね?」
「分からねえ。ただ一つ言える事は、俺達が力を合わせてこの世界統一を目指さないと東京へ帰るために必要な【虹の宝珠】も手に入らないって事だけさ」
クエスト屋を後にした藤堂達が、マウントパーソンのメインストリートを役所に向かって歩き続ける。
道路の両側にはゲームの世界ではお馴染みの武器屋、防具屋、道具屋、魔法屋、酒場、宿屋以外にも家具屋、食料品店、理髪店など様々な店が軒を連ねている。
「それにしても、ミディアん家の牧場に泊めてもらわなかったら、遊撃隊全員で野宿しながら移動するところだったな」
「本当っすよ。僕は、一宿一飯の恩をこれで返すっす。装着!」
酒田がそう呟くと山賊から押収した戦斧が光と共に具現化する。女戦士の肉体に不釣合いなほど大きい得物を辺り構わずブンブンと振り回す。
「馬鹿! 町中で凶器を出すのは止めろって。警官が飛んで来たらどうするんだ」
「先輩、この世界には警察なんてないっすよ」
「まじか? ああ、町の自警団が警察の代わりか」
「そうっす。ぱっと見だけなら、平和な町の日常って感じっすけど。今は戦国時代、警察とか消防とかお尻に『署』って付くのんびりした公共機関は存在しないっす」
「ひょっとして税務署もないのか?」
「ピンポーン!」
「まあ、大都市って訳でもないし。町役場が全てを管轄しているって事だな。犯罪には【自警団】、火災には【消防団】、税金には【税務課】ってところか」
「そうそう。だから僕ら遊撃隊が三人もいれば、こんな田舎町の【自警団】なんてへっちゃらっすよ」
「えーっ! 三人って、酒田の兄貴。オイラもその頭数に入っているのかい。また自警団の連中に追い回されるのは、もう勘弁して欲しいんだけど」
「また? 竜馬、お前この町の自警団ともめた事があるのか?」
「あの山賊だよ。オイラが加わったのは、この町を追い出された時だったから詳しく知らないけどさ。自警団とトラブったって、確かゲンさんが言ってたよ」
「あの土建屋魔術師か。そう言えば、山賊どもは元々この町のならず者の集まりだったな」
「うん。自警団相手に結構抵抗したらしいけど。結局はココを追い出されて、ベリハム村の外れまで逃げたんだって。最後は秘薬草の群生地で穴倉生活さ」
「あのゴリラみたいにしぶとかったハゲ首領をよく追っ払ったな。ここの自警団のレベルは結構高そうだ。お前等、町中で騒ぎを起こすような真似は厳禁だぞ」
「了解っす」
「だったら、早くその斧を仕舞えって!」
そうこうする内に、ようやく王子一行はマウントパーソンの町役場へと到着した。今時珍しい正面玄関の回転扉を藤堂、酒田、竜馬の順で一人ずつくぐり抜ける。
三人が庁舎に入ると、事務室には総務課、税務課、水道課、保健課などの各課が詰め込まれるようにして机を並べていた。
だが、事務所の中は活気ある繁華街の賑わいに比べ、緊張感もなく怠惰な雰囲気に包まれていた。庁舎の中でまともに仕事をしている職員は皆無だ。
遊撃隊三人の正面に受付がある。そこには藤堂の四倍以上も齢を重ねたような老婆が一人、気だるそうに腰を降ろしていた。
「すいません、町長にお会いしたいのですが。今日は登庁されていますか?」
チラッと三人を一瞥した受付老婆が、地獄の番人みたいな声を出す。
「あんた、アポはあるのかい?」
「いえ、お約束はしていません」
「ふん、朝は町長の顔を見たけどね。今も部屋にいるかどうか分かんないよ。まあ、駄目元で行ってみるんだね、イヒヒヒ」
面倒臭そうに両肘を机についたまま老婆が答える。やる気のない受付は、読みかけだった新聞に眼を落としたまま、二度と顔を上げようとはしない。
「あのー、町長室はどちらに?」
新聞記事を目で追う受付老婆は、顔も上げずに右手で廊下の奥を指し示す。
「どうも」
頭を軽く下げながら、その場を後にする藤堂の背中を竜馬と酒田が追いかける。
「何だよ、さっきのババアのあの態度! だからオイラ、役所って大嫌いさ。兄貴、この国の王子だって言ってやれば良かったのに」
「まあ、アポ無しの飛び込み訪問だからな。断られなかっただけでも良しだろ」
老婆に教えられた庁舎の廊下を三人が進む。コーナーを曲がる寸前、どこかで聞いた声が役場の事務所中に響いてきた。
「水道課長、税務課長ちょっと部屋まで来てくれ! それと受付の君、保健課長はどこへ行ったか知らないか?」
「あ、ハイ。たぶん裏口あたりで喫煙中かと思います」
先ほど藤堂たちを相手に地獄の門番のような対応をした受付の老婆が、今度は直立不動の姿勢で腹が突き出た男の質問に答えていた。
「あの馬鹿、保健課長を拝命している身でありながら、まだ禁煙していなかったのか! 役場に勤める者が率先して範を示さないと町民からの信を失うじゃないか」
ドスの効いたダミ声に、竜馬が廊下の曲がり角から首だけ出して覗き込む。妙に緊張した雰囲気が事務室を包んでいた。
さっきまでだらけていた職員達も態度を豹変させていた。慌てて席を立ち事務所から出て行く者、腕を組んで机の上の文書と睨めっこを始める者など様々だ。
「うはっ、出たっすね副町長! 態度が身体に比例してキングサイズっす」
「何だかなー。ひょっとしてこの役場ってさ。町長よりもあのタヌキ親父の方が偉いんじゃないの?」
こっそりと覗く酒田と竜馬の呟きは、巨漢の男の耳には届かなかったようだ。
追従の笑みを浮かべる二人の課長を従えてタヌキ親父は、【副町長室】とプレート表示された扉へ悠然と入っていった。
「ゴキブリみたいにOK牧場から逃げ出した奴と同一人物はとても思えないぜ。昨日の事さえなければ、あのタヌキ親父もやり手の行政マンに見えるんだがな」
「ところで先輩、僕と竜馬も町長の所へ一緒に顔を出した方がいいっすか?」
「いや、時間が勿体無いから効率的にいく。俺はこのまま町長室まで出向いて話を聞く。お前達には、その間に役場の職員からの情報収集を頼みたい」
「藤堂の兄貴、調べる事はやっぱり疫病関連でいいのかい?」
「疫病自体は現場に行ってもらったロビン達に任せよう。ここでは王都から派遣されたって言う、例の調査団について聞き込みをしてくれ」
「白ずくめの集団についてだね。OK、オイラに任せておくれよ。新宿歌舞伎町の路上キャッチで鳴らした黒服の話術を使えば、簡単簡単」
「そう思ったからこそ、今日は同行してもらったのさ。お前の特技、頼りにしているんだぜ」
「えへへへ」
「じゃあ、僕はそんなデレた竜馬のボディーガードっすね」
「さ、酒田の兄貴! デ、デレてなんかないってば、オイラ」
「何でもいいから、二人で協力して上手くやってくれ。まあ相手から逆に質問されたら、第四王子の肩書きをチラつかせても構わないからな」
「職員達のぬるい勤務態度からすれば、みんな震え上がって聞いた事に答えてくれるかもね。じゃあオイラ達、そこの扉から外へ出ていったん裏口へ回ってみるよ」
「ああ、一応まだ執務時間中だしな。暇そうにお茶をしたり煙草を吸っている奴がいたら、片っ端から締め上げてやれ」
外に出た二人の背中を見送りながら、藤堂はそのまま一人で廊下を進む。
「おっと、ここか? 何だか冴えない扉だな。どうしてこんな奥まった場所にあるんだ? パッと見だと、使われていない物置部屋にしか見えないぜ」
そう呟きながら、町長室と書かれた木製のドアをノックする。
――コンコン――
「失礼します」
扉を開けると薄暗い六畳ほどの狭い室内は、大きな執務机と貧相な応接セットと古めかしい骨董品の壷が飾られているだけの質素な部屋だった。
藤堂が中に足を踏み入れると町長と書かれたプレートの机の横で一人の若い男が、立ったまませっせと公印を押している最中だった。
まだ四十歳ぐらいだろうか? 書類をめくる手を止めて、入ってきた藤堂たちを不思議そうな瞳で見つめ返す。
「あ、すいません。町長は在席されていませんか。受付で聞いたらこちらだと伺ったもので」
「ああ、確かに席には着いていませんね」
にっこり笑いながら男は両手で書類の端をトントンと揃え、そのまま机の椅子に腰を降ろす。
「はい、在席しましたよ。私が町長ですが、貴方は?」
「これは、失礼しました。藤堂剣一と言います」
「藤堂……ひょっとして第四王子の? こちらこそ、知らぬこととはいえ非礼の程どうかお許し下さい。さ、どうぞこちらへ」
すぐさま席を立ちソファを勧める。藤堂が座ったのを見届けてから、町長も腰を降ろした。
「改めまして。私マウントパーソンの町を預かる町長のバートレイと申します」
「これはご丁寧に。私は……」
「ははは。王子様、こんな小さな町の首長にお気遣いはご無用です。普段の口調で結構でございますから」
「そうですか、悪いですね。じゃあ、そちらも敬語じゃなくフランクな調子で構わいませんから。堅苦しいのはどうも苦手なんですよ」
相手から普段の口調で良いと言われても、そこは中身がサラリーマンの藤堂。王子だからと言って、さすがに年上の町長にタメ口を叩くほど馬鹿ではない。
一方、年は若いがさすがに町を預かるバートレイも王子の思慮を読み取り当たり障りの無い世間話を振ってくる。
「ありがとうございます。確か藤堂王子は隣村のベリハムご出身でしたか? ここマウントパーソンの町と比べるとのどかで良い場所ですよね」
「ええ、のんびりして平和な田舎って感じかな。……少なくともあの村では、厄介な疫病なんて物は蔓延していませんでしたからね」
頃合いを見計らった所で藤堂が早速ジャブを放った。まさに機を見るに敏。契約相手をリードする営業トークで鍛えた彼の弁舌は健在のようだ。
――続く――
【あとがき】
二班に分かれた遊撃隊。イケメンエルフのロビンとセクシーなシスターのタニアの二人は、OK牧場のミディア母子と共に今回の疫病騒動の真相に迫った。事件の裏にどうやら副町長と王都から派遣された疫病調査団が関わっているらしい。
一方、新宿歌舞伎町からの転生トリオ(第四王子の藤堂、女戦士の酒田と盗賊の竜馬の三人)は、マウントパーソンの町役場に乗り込んで疫病イベントのクリアに動き出す。
次回『初めての騎馬は、匹夫之勇?⑦』乞うご期待!
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