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シミュレーションRPG狂騒曲サラリーマンが剣士で王子様?  作者: 独身奇族
東奔西走編

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37/51

③『初めての騎馬は、匹夫之勇?③』

【前回までのあらすじ】

――隣町マウントパーソンから馬を飛ばしてきた少女ミディア。王子に援助を求める彼女の話では、町の一角で原因不明の疫病が発生しているとの事だった。その感染源がミディアの牧場にあるのではないかと、副町長が王宮から呼び寄せた調査団に疑われて、牧場の運営にも支障が出ている。何としてでも事件の真相を解決したい少女の願い。村興しに必要な【馬】を手に入れるべく、藤堂率いる遊撃隊の活躍が始まる――


「だろうな。つまり町と村を往復させる【馬車】に使えるような【馬】なんて、そんじょそこらに転がっている筈がないんだ」


「だから王子はミディアが持ち込んだトラブルを解決すると?」


「まあな。どうだ、結構俺も腹黒いだろ? あわよくば【馬】をゲットして、町と村を繋ぐシャトル【馬車】を運行させてやるのさ」


 クククッと王子はニヒルな笑みを浮かべる。だが、隣で聞いていた盗賊は美貌のアーチャーの脇を小突き、嬉しそうに問いかけた。


「ねえねえ、ロビンさん。兄貴ってばさ。口じゃあ、あんな事を言っているけどさ。ミディアの実家が牧場じゃなくてもさ、絶対にあの娘を助けに行くと思わない?」


「当然です。私が見込んだお方ですから」

「オイラも同感!」


「何だ? お前達。変な笑顔で俺を見るな!」

【ようこそマウントパーソンの町へ】


 騎馬少女のミディアに先導された遊撃隊の一行が、半円状のアーチを描く看板を掲げた門を潜り抜けた。


「へえー、さすがに町って言うだけの事はあるな。ベリハムの村と比べると、やっぱり規模がデカイぜ」


 中へ足を踏み入れたメンバーの目の前に、メインストリートが広がっている。忙しそうに行きかう人々が、舗装されていない道路に溢れていた。


 町の奥へ向かって伸びる中央通りの左右に、数件ずつ家の庭先が軒を並べる様は、まるでアメリカの西部劇に出てくる町の風景のようだ。


 ようやく王子のキャラクターが板についてきた藤堂の声に応えるように、幼馴染のシスターもはしゃいだ声を上げる。


「見て、見て剣一! ホラ、お店がいっぱいあるよ」


 本来ならワーシントン王国有数の貴族の令嬢であるタニアだが、育ったのは辺鄙な片田舎だ。


 道具屋一軒しか店がなかった村と比べればここマウントパーソンの町は、彼女にとってまさしく繁華街のように感じられた。


「先輩、この町は道具屋とクエスト屋が別々に営業しているっす」


 サラリーマン時代からの部下である女戦士キャラに身を纏う酒田が、メインストリートをズンズン歩きながら指差す方向にはいくつかの店構えが見える。


「ふーん、武器屋と防具屋もちゃんと別々の店なんだな。おっ! ひょっとして、あそこに見える看板は酒場だったりして……」


「ちょっと! 今はお酒よりもミディアの牧場に行って、原因不明の病気の事情を確かめる方が先決でしょ!」


 大通りを吹き抜ける乾いた疾風のように、タニアの言葉が藤堂の身に沁みる。


「わ、分かっているって。メンバーの装備の充実や【秘薬草のクエスト】達成の手続きなんかも後回しって言うんだろ?」


「僕はロビンと一緒に先輩を探してあっちこっち足を運んでいたんだけど、村へ来る前にこの町でクエストを受けたっすよ」


「王子、基本的にクエスト達成は全国どこのクエスト屋でも取り扱って貰えますから。牧場の件が片付いたら、秘薬草を持って店を訪れましょう」


 冒険者としては先輩となる酒田とロビンの言葉に、風に揺れる酒場の看板を名残惜しそうに見つめる藤堂がふっと小さくため息をついた。


「もう! 剣一ってば。こんな真っ昼間から、営業している訳ないじゃない……」


 だがその時、タニアの呆れた声を中断させるように酒場のドアが開いた。陽もまだ高い大通りに、エキセントリックなピアノの音色が響く。


 媚を売るような黄色い嬌声も店の奥から聞こえてくる。観音開きのように両側の扉を左右に押し開けながら、赤ら顔の男達がゾロゾロと姿を見せる。


 先頭に立って店から現れた髭面の男の顔を見るや否や、愛馬のくつわを取る小柄な少女がカッと目を見開いて物凄い剣幕で捲くし立てる。


「マックス! お前、牧童頭の癖に牧場の仕事もほったらかしかい? 昼間から牧童達と酒を飲んでいるとは、いい身分じゃないか」


 牧童頭と呼ばれた男は五十歳ぐらいだろうか。いわゆる働き盛りと言った風体の細マッチョな体つきだが、見るからに泥酔状態でうろんな目付きだ。


「これは、ミディアお嬢さん。ヒック、王都から来た調査団の奴等のせいで、馬の世話一つ出来やしねえ。今じゃ、これが。ううっ、俺達の仕事でさぁ」


 アルコールの臭いを撒き散らし、足元も覚束ないほど身体を揺らせる。見えないジョッキを口元に持っていき、ビールを一気に飲み干す真似をする。


「ぎゃははは」


 彼の背後で酔いに身を任せた牧童達が、それを聞いて一斉に腹を抱えて笑い出す。


「……っ!」


 牧童頭の投げ遣りな態度に、一瞬頭に血が昇ったミディアだったが、牧場の娘として仕事ができない彼らの気持ちが痛いほど分かって言葉を詰まらせる。


 そんな幼い雇い主の少女の態度に失望したのか。フンっと鼻を鳴らした牧童頭のマックスが、若い衆に威勢の良い掛け声をかける。


「おい、お前ら。もう一回仕切り直しだ。ヒック。夕方の家畜の餌やりまで、どうせ仕事なんかありゃしねえんだ。店に戻って飲み直すぞ」


「おおっ!」

「そりゃいいや」


 若い牧童達がリーダーの言葉に歓声を上げる。


 雇い主の娘を無視してその場で回れ右したマックスは、千鳥足になって転びそうになる。両脇から彼を支える若者達と一緒に喧騒の中の店内へと消えて行った。


 牧場の使用人達に声をかける事も出来ず、閉じられた酒場の扉を見つめてただ立ち尽くす幼い少女のか細い肩に、タニアがそっと手を置いた。


「ミディア……」


 後ろから遠慮がちに掛けられた声にハッと気づいた牧場主の娘は、二度三度と大きく首を横に振って消極的な考えを頭の外へ追い出す。


「済まない。みっともない所を見せてしまったな」

「なるほど。お前が言っていた、牧童たちのストライキって言うのがアレか?」


 町へ来るまでの道中で聞いた槍少女の話に出てきたトラブル。それを目の当たりにした藤堂が、腕組みをしながら話しかけた。


「牧童頭のマックスは、長年牧場で働いてくれている優秀な男なのだが、少し職人気質な所があってな。余所者の部外者にあれこれ指図されるのが嫌いなのだ」


「部外者って?」


 可愛い仕草で小首を傾げるシスターに、神の気まぐれで創り上げたとしか思えない美貌のエルフが助け舟を出す。


「王都から派遣されてきた原因不明の病気を解明するための調査団。ですよね? ミディアさん」


「はい。ロビン様の仰るとおりです! あいつ等ときたら、偉そうに牧場の仕事に口を出して、アタシたちの邪魔ばっかりするんですー」


 先ほどの失意状態からちゃっかり立ち直った小柄な少女が、目をキラキラさせながらエルフのアーチャーを見上げる。


「この一ヶ月間、我が物顔で牧場の周りをうろつき回るだけじゃありません。今では、アタシたちが牧草地へ立ち入る事まで禁止して、もうやりたい放題なんです」


「その調査団って言うのは、本当に王都から派遣された役人達なんだろうな?」


 王子に対するミディアの態度が、ロビンに対するそれと若干の温度差があるのを心の隅で感じながら藤堂が少女に尋ねる。


「それは間違いない。何せこの町の副町長が、調査団の陣頭指揮を取っているからな。気に食わない事この上ないが、奴等は正式な調査団だと思う」


「今もそいつ等は牧場にいるのか?」


「たぶんいると思う。マックスが酒場でくすぶっていたからね。牧場をあっちこっちと嗅ぎ回る、取り澄ましたお役人の顔なんて牧童達も見たくないんだろう」


「そうか。じゃあ、早く現場に行こうぜ。いくら融通の聞かない調査団と言っても王子の俺の話には少しは耳を傾けるだろう」


「かたじけない。アタシの家はこのメインストリートの突き当りを右折したところにある丘の中腹だ」


 町の繁華街を通り抜け遊撃隊の一行が牧場へと歩を進める。


(……とは言った物の、第四王子っていう俺の立場が微妙なんだよな。しかも妾腹の王子なんて、バリバリにラノベっぽい設定だからな)


 あるかどうかも定かではない王子としての威光が、果たして王都から正式に派遣されてきた調査団に対してどこまで通用するのか。藤堂の内心に不安がよぎる。


――■――□――■――


 遊撃隊のメンバー達が町中を通り抜けると、なだらかな丘の斜面を縫うようにうねうねとした登り道が見えてきた。


 家畜が逃げ出さないように、小道の両側は白い木の柵で囲われている。広大な牧草地を乾いた風が吹き抜けて、まるで大海原のように緑の波が寄せては返す。


 本来なら牧場で放し飼いにされる牛や馬の姿はどこにもない。小道が続く丘の中腹に牧場らしい建物が見える。


 ようやくミディアの家に遊撃隊の一行がたどり着く。古ぼけた木製の看板には、赤いペンキでこう書かれていた。


――【OK牧場】――


「うーん。確かに牧場の名前で真っ先に思い浮かべるコレだがな……」


 どこの誰だか顔も名前も分からない、このゲームクリエーターのネーミングセンスの悪さに藤堂が呆れ果ててガックリと膝をつく。


「僕は【ララミー牧場】の方が好きっすね、先輩」


「お前も古いな」

「昔の映画は、ネット配信でよく見たっす」


 アバターの中身はいい歳をしたサラリーマンの二人組みがおかしな会話をしている間に、ミディアは脇目も振らずに愛馬を杭に繋ぎとめる。


 丸太を組んだログハウスへ小走りで駆け寄って扉を押し開く。一目散に自分の家の中へ飛び込んでいった。


「父上、母上。ただいま戻りました……。うっ!」


 牧場の一大事に何とか王子を連れて帰り、喜び勇んで有頂天になっていた少女が大きく仰け反る。


 広い客間の中央。彼女の両親が腰を掛ける椅子の対面に、三人掛けのソファを独り占めして座るでっぷりと肥満した男の姿が目に飛び込んできたからだ。


「お帰りなさい。早かったわね」


 少しやつれた顔で声をかけるミディアの母は、飛び出して行った娘の帰宅にホッと一息安堵する。


 父親の方は、どうやら副町長と反りが合わないのか。ソファに巨体を沈み込ませて腰を降ろした役人を睨みつけたまま口を開こうともしない。


「これは、これはミディア嬢。お邪魔しておりますぞ」


 キングサイズの灰色スーツ姿。大きく張り出した下腹部を無理矢理事務服に詰め込んだ巨漢は、立ち上がる素振りも見せず鷹揚に片手を上げる。


 短い足を突っ込んだズボンのベルトが、お腹の周りではち切れそうになって悲鳴を上げている。脂ぎった手がニヤニヤ笑いを浮かべる脂肪まみれの二重顎を摩る。


 舐め回すように注いでくるその視線に何とか耐え切ったミディアが、開口一番肥大化したスーツ男の挨拶をバッサリと斬り捨てる。


「ようこそ……と言いたい所だが、役所と言う所は余程暇なのか? お偉い副町長様が、わざわざ何度も現場まで足を運ぶとはな」


「いやいや。原因不明の疫病の蔓延を食い止めるのは行政の責務ですぞ。とは言え町長が発病して倒れられると一大事ですからな」


 まるで等身大の信楽焼きのタヌキの置物のような、立派な腹をポンと叩く。


「その代わりにこうして副町長たるワシが、感染源の解明調査の陣頭指揮を取っているという次第」


(ちっ、このタヌキ親父が!)


 小さく舌打ちするミディアが内心の怒りも露わにして、さらに言葉を続けようとするのをソファの横に立つもう一人の男がやんわりと制する。


「お話中、失礼致します。私、パラケスと申しまして。今副町長のお言葉にもありました、今回の疫病調査団の団長を務めさせて頂いております」


 どこか存在感の薄いノッペリとした顔が、無表情のまま冷たい笑み浮かべる。灰汁あくの強い副町長の陰に隠れるように、痩身の男が二人に割り込む形で口を挟んだ。


「ちょうど今、ご両親にもご説明させて頂いたのですが、原因不明の疫病に関する調査は順調に進んでおります」


「順調だと? では、その経過報告とやらをアタシにもぜひ聞かせてもららおうか」


 副町長を押しのけるようにして出しゃばってきた男の説明に、牧場の娘はお役所特有のうやむやな説明で誤魔化されまいとして語気を強める。


 そんな彼女の思いを見透かしたのか?


「丘の麓の集落で発生した疫病とこの牧場との因果関係は、残念ながら解明に至っておりません。よって、まだ皆様方にお話できる状況ではございません」


 説明の内容はともかく、絶対的な権力者の象徴たる王都から派遣された調査団の団長にしては、彼の話し方は極めて丁寧だ。


 だが、コレでは埒が明かないと見たミディアは、副町長が座るソファの横で背筋を伸ばして立つパラケス調査団長に詰め寄る。


「調査団が来てからもう一ヶ月近くも経っている。調査団とは『子供の使い』なのか? 牧場の運営まで禁止しておいて、それで納得しろとでも言うのか?」


 「はい。牧場の建つこの丘の麓の集落で、極めて限定的ですが疫病が発生しているのは紛れもない事実です」


 まるで駄々をこねる子供をあしらうかのように、能面のような相貌は流れるような口調で言葉を紡いでいく。


「原因不明な疫病の感染源が、果たしてどこにあるのか? この牧場は白か黒か? 実の所、そんな事は二の次三の次なのです」


「……何!」


「本来であれば、今すぐにでも牧場の皆様方にココからの退去命令を出すところです。謎の疫病が拡大感染アウトブレイクしてしまう前に……」


 この言葉に今まで黙って団長の話を聞いていた牧場主が叫び声を上げる。


「貴様、牧場を捨てて私達に出て行けとでも言うつもりか!」


「おいおい、団長。ワシの顔を潰すような発言は、控えて貰わないと困りますぞ」


「失礼致しました。ただ私は、副町長のご尽力でこの牧場が何とか存続運営出来ているという現実を皆様方に再度ご確認頂ければと感じただけなのです」


「わははは。そうですか」


 自分が行った牧場に対する取り計らいを団長が代わりに説明してくれたので、副町長が自然とご満悦な表情になる。大タヌキ顔負けの腹を嬉しそうに叩く。


 そんな副町長と調査団長の二人に牧場主一家が何も言い返せなくなった時、扉の向こうから広い客間に呆れたような声が響いた。


「キツネとタヌキの化かし合いってか?」


 木製のドアを押し開けて部屋に踏み込んできた剣士を見て、副町長が表情を一変させる。


「何だね、君は? 誰に向かって口を聞いているか、分かっているのかね?」

「この町の副町長と疫病調査団の団長だろ?」


「ならば、もう少し礼儀をわきまえたらどうかね。我々はこの町の危機管理について協議をしておる最中だ。子供の出る幕ではない」


「確かにあんたらに比べたら、俺は十六歳の子供ガキだ。だがな、誰の子供なのかを先に聞いておいた方がいいんじゃないか?」


 藤堂の顔にまるでイタズラ小僧のような表情が浮かぶ。


「何だと? 貴様の父親など別に知りたくも……」


 頭の中身も脂肪で出来ているのか、副町長が面倒臭そうに口を開きかけるのを隣に立つ調査団長が遮った。


「ま、まさか! 貴方は、第四王子の藤堂剣一様?」 


 パラケスの言葉に驚いたミディアの両親が、慌てて椅子から腰を上げる。


「ミディア、お前本当に王子様を連れて来てくれたのか?」


 牧場の危機に王子を連れてくると言って飛び出して行った愛娘が、こんなに早く王子を連れ帰ってくるとは夢にも思わなかったからだ。


「そんな馬鹿な。何故こんな場所に妾腹の王子が。あわわ……」


 一方、驚愕したタヌキ親父の副町長は、思わず差別発言した口を両手で押さえる。


「さっき礼儀がどうとか聞こえた気がしたが?」

「い、いえ。礼儀をわきまえるのはこちらの方でした」


「町の危機管理について協議中だそうだが、子供の出る幕はないって? それはつまり、ワーシントン十二世の子供でも同じように引っ込んでいろと言う事だな?」


「とんでもございません」

「だったら、さっさと立ちやがれ。いつまで座り込んでいやがる!」


 副町長が肥満した肉体を沈めるソファにバシッと藤堂のローキックが炸裂する。


「ヒッ!」


 ピョンとコミカルな動きで信楽焼きの大タヌキが直立する。


 次の瞬間。ブチッとベルトが切れる音と共に、キングサイズのズボンが副町長の短い足元にズルリと落ちた。


「あわわわ」


 パニックを起こしてズボンを引き上げようとするが、突き出た腹が邪魔になってしゃがみ込む事ができない。


 そんなタヌキ親父を無視しながら、藤堂は調査団長のパラケスに視線を移す。


「先日、俺は国王陛下の命により遊撃隊を組織した。つまりお前らがさっき言ったこの国の危機管理の一翼を担う事になった訳だ。分かるな?」


 王子の突き刺さるような氷のごとき問い掛けに、あれほど流暢な言い回しで牧場主たちを煙に巻いたパラケスも言葉が出てこない。


「この国を守る義務を負う王子として聞く。疫病の原因究明の進捗状況はどうなっている? 無論さっきみたいな、のらりくらりとした返事は許さないぜ?」


 外見は十六歳の王子だが、中身は二十六歳のサラリーマン。


 日本の総合商社で培った営業トークと藤堂家に代々伝わる古武術【中丞流】の免許皆伝は伊達ではない。鋭い彼の眼光が疫病調査団のリーダーを射抜いた。


「は、はい。そ、それがその……。実を申しますと、疫病の感染ルートを解明する専門家が、この調査団には不足しておりまして」


「何?」


「私を含めた調査団十二名の内、実質的に原因不明の感染源を特定できる者は、僅かに三名しかおりません」


「どうしてもっと多くスタッフを連れて来なかったんだ?」


「王宮では迅速な処理が必要と判断がなされ、まずは必要最低限のメンバーが急遽派遣されたのです」


 王子の突然の乱入に気が動転していたパラケス団長だったが、話している間にようやく落ち着きを取り戻す。


「局地的な疫病と申しましても、牧草地を含めた牧場の敷地は広大。区画を整理しながら疫病の感染ルートを調査しているのですが、やはり時間が掛かるのです」


「王宮に調査団の増援を要請すればいいだろ?」


「既に連絡済みでございます。ミハエル第二王子様から、調査団の後発隊を送って下さるという報せがようやく届いたばかりです」


「おおそうだ、ミハエル様だ! こっちには第二王子が付いていて下さるんだった」


 まるで廊下に立たされた信楽焼きのようだったタヌキ親父の顔に赤みが戻る。彼らのバックに藤堂以上の権力者がいた事をようやく思い出したようだ。


「ちっ」


 さすがにすんなりとはいかない事に思わず舌打ちが出る。


(ミハエルか。確かチュートリアル爺さんのレクチャーでは、ダリウス王弟殿下とペアを組んでいる二番目の王子だったか?)


「ぐへへへ。藤堂王子様。王宮から正式な手続きを踏んで派遣された調査団に、横槍をお入れにならない方がよろしいのでは?」


 さっきまで顔面蒼白だった副町長の顔が、権力に尻尾を振る狡賢そうなタヌキ顔に戻った。ずり落ちそうになるズボンを掴む両手にも力が入る。


「そうだな。じゃあ、いったん牧場の運営を妨害する調査団への追及は止めよう」

「ぐへへへ。そうでしょう、そうでしょう。それがよろしいかと……」


「その代わり、副町長! お前を王子オレに対する不敬罪で処断する。覚悟しろ!」


「ひ、ひえええええ!」


 まさしく青天の霹靂にも等しい藤堂の断罪に、思わずタヌキ親父は両手で頭を抱えてガタガタとその巨体を震わせる。


 再びストンと足元に落ちたズボンに気が付きもせずに立ち尽くす彼の姿は、大きく迫り出した下腹に縦縞のパンツをはいた、まさにタヌキの置物そのものだった。


                         ――続く――

【あとがき】

 ようやく牧場に到着した遊撃隊。悪役も登場してドラマも佳境に差し掛かります。

 OK牧場(笑)の存続を危ぶませる原因不明の疫病。果たして藤堂たちはいかに事件を解決するのか? 

 次回、東奔西走編『初めての騎馬は、匹夫之勇?③』乞うご期待!

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