④『王子の村興しは、空中楼閣?④』
【前回までのあらすじ】
――スライム王国。藤堂が考え付いた村興しは、村外れの草原に出現するスライムを観光の目玉にしようと言う物だった。子どものレベルアップ支援を餌に国中から人を集めるという、復興計画は果たしてうまくいくのか?――
パーティを組んだ観光客が、ひと部屋ずつ順番に攻略していく。その結果誰でも安心してモンスターを倒す事ができ、安全にレベルアップが見込める。
「王子。この目の前にある呪札付きバリケードは、その代用になりませんか?」
「おっ。さすが神父、鋭いね。確かにしばらくの間なら、十分使えると思うよ。だが、コレだと耐久面なんかで不安が残るんだ」
草原の一番奥にある岩山の裏側に開いた洞穴の前に設置された防御柵。藤堂は村人達が見守る中、両手に力を込めてバリケードをギシギシと揺らせてみる。
「それに比べて土の魔法は、半永久的だからさ」
「だよね。丸太とかロープを準備するのも大変じゃない? バリケードを作る手間を考えたら、やっぱり魔法でパッパってやった方が楽チンだもん」
「ゲンさんには悪いけどな」
昨夜、藤堂が『この計画には、土の魔術師が必要不可欠』と言ったのはこういう訳だった。
ベリハム村の外れにある草原。ポッカリ開いた洞窟の前から呪札付きのバリケードの一部をこじ開けて、第四王子の藤堂率いる第二班が中に足を踏み入れる。
「うっ」
鼻に付く悪臭に、思わず村人達が顔をしかめる。たっぷりと湿気を含んだ淀んだ空気が、洞窟の奥から重苦しい風となって流れてきた。
黒地に白枠線の入ったケープをすっぽり被ったタニアも、小さな悲鳴を上げながら暗闇の奥へと続くトンネルに尻込みする。
「やん! もうっ、せっかく朝シャンプーしたばっかりなのに。髪の毛に臭いが付いちゃうよ」
自慢の髪の先を握り締め、クンクンと鼻を鳴らしている。
「空気は流れているみたいだ。だが、有毒ガスが心配だな」
松明を片手に先頭を進む藤堂が、歩調をゆっくりとしたものに変えた。狭いトンネルの壁面に、ゆらゆらと踊る人形のような影が蠢いている。
「スライムがこの穴の奥中で活動しているくらいですから、それは大丈夫だと思いたいですね」
そう答えた村長だったが、地下洞窟を歩くスピードを落とす事に異議はない。
だが、第二班の面々を暗闇へと誘う狭い通路は、呆気ない程すぐに終わりを告げる。トンネルの通路を抜け出た藤堂達の目の前に、膨大な空間が広がっていた。
地下に大きく広がるスペース。見上げるような石柱が何本も聳え立ち、その天井部分をがっしりと支えている。
成人女性の胴回りくらいしかない柱もあれば、中には優に大人が何人も手を繋いでやっと一周できる程のものまで様々だ。
地上の草原にあちこちで顔を覗かせていた白い巨岩たち。恐らくアレは、この石柱の頭頂部にあたるのだろう。
土の魔術師ゲンさんが掘り抜いた山賊のアジト。アレを何倍もスケールアップしたような自然の大パノラマが、藤堂達一行の度肝を抜いて広がっている。
天井には光苔の一種だろうか? 空洞内部は、ぼんやりと青白い輝きで満ち溢れている。松明の明かりがなくても、十分辺りの様子が見渡せるほどだ。
「すっごーい!」
呆けたような顔でタニアがようやく口に出す。筆舌に尽くしがたい地下空洞の光景に村人達も圧倒された。
しばらく誰もが言葉を忘れ、首が痛くなるまで天井を見上げた。そこには、まるで生け花で使う剣山を逆さにしたような鍾乳石が何本も垂れ下がっている。
鍾乳石から滴り落ちる水滴の先には、マカロニ状の石筍が地面から生えていた。天井からの鍾乳石と地面からの石筍が、いつの日か一つに繋がり石柱となる。
藤堂達の視界の先に広がる、この空間を支える石柱群。何百年、何千年もの歳月を経て出来上がった、まさに神の芸術品だ。
だが。
目の前で展開される凄まじい絶景に魂を奪われていた藤堂の心は、知らず知らずの内に次第に冷めていった。
(ふんっ、確かに凄い眺めだ。だが、凄いのは自然の神じゃない。こんなゾーンをワザワザ創り上げた……、ゲームクリエーターが神なだけさ)
ここはシミュレーションゲームの世界。藤堂達が生活してきた新宿歌舞伎町の現実とは、全くかけ離れた仮想空間だ。
彼がふと隣に目を向けると、そこには神秘的な地下洞窟に瞳をキラキラさせてはしゃぐ幼馴染のシスターがいる。
(タニアも……。結局は誰かが作った、単なるデータに過ぎないんだな。俺と鉄平、そして竜馬以外は、ソイツがイメージした情報の寄せ集めだ)
歌舞伎町のネットカフェから、その精神だけを異世界に引きずり込まれた三人。その心を纏う肉体は、本物の身体ではなくアバターと呼ばれる擬似体に過ぎない。
(そうか。中身は二十六歳でオッサンの仲間入りしている俺も、外見は十六歳の若い身体だったな。タニアと同じ、俺もゲームデータの一つって訳だ。だが……)
一瞬迷いの生じた藤堂の瞳に新たな決意の火が宿る。
(クソッ、今に見ていろ! 誰だか知らないゲームクリエーターめ。絶対に世界を統一してここから脱出してやる。貴様をブッ飛ばすまで、俺は決して諦めないぞ)
藤堂が内なる熱い思いをたぎらせて拳を握りしめた、その時!
――グギャギャッ! グギャギャッ!――
耳を塞ぎたくなるような雄叫びが、地下の巨大な空間に響き渡った。
「来たぞ! スライムだ、気を抜くな」
藤堂と酒田が一瞬で戦闘体制に入る。高校時代に剣道と柔道、それぞれインターハイを制した二人のスキルは、たとえゲーム世界であっても衰える事はない。
彼らが身に纏う王子と女戦士のアバターが壁となり魔物の襲撃に備える。その背後にはタニアと神父の強力な回復ペアが控え、万一の事態に対する対応も万全だ。
「最初は俺と鉄平がモンスターを囲んで様子を見るよ。村を襲ったスライムと同じ位のレベルと確認できたら、その後で村人達も交代で殴ってもらう」
「了解です。念のため、ショートソードよりも弓矢で仕掛けます」
「さすが村長。確かに反撃もないし、間接攻撃の方がいいな」
戦闘の打ち合わせをしている最中、ついにモンスターがその姿を見せた。
――グギャギャッ!――
【ステータス】
┏━━━━━━━━━
❙ LV:1
❙ HP:6/6
❙ 直攻:2
❙ 直防:0
❙ 魔攻:0
❙ 魔防:0
❙ 必殺:0
❙ 回避:0
┗━━━━━━━━━
半透明なゼリー状の身体をプルプルと震わせ、茶褐色のスライムが一匹。薄闇の向こうからのっそりと這い出てきた。
「ようやく村興しの主役のお出ましか。ステータスを見る限り、どうやら地上に出てきた奴と同じだな」
「先輩、僕がちょっと行って、あいつのターゲット(タゲ)を取って来るっす」
※※※□※※※
※※□■□※※
※□■■■□※
□■■魔■■□
※□■■■□※
※※□■□※※
※※※□※※※
大斧を軽々と肩に担いだ女戦士の酒田が、ヒョコヒョコと前に出る。白マスで示された攻撃範囲の一つに立ち止まり、そのまま【待機】で行動を終了する。
――グギャギャッ!――
あからさまな挑発にすぐさま反応したスライムが、雄叫びを上げ詰め寄る。
【魔物のターン】
すでにお馴染みの体当たり。だが、山賊との戦いを通じてさらにレベルが上がった女戦士に、単なる直接攻撃では到底ダメージを与える事は出来ない。
「鉄平、反撃はナシだぞ!」
そう注意を与えながら、藤堂もスライムの隣のマス目に移動する。無論彼も待機
を選択。恐らく今の王子や女戦士が攻撃を掛ければ、魔物は一撃で沈むだろう。
「念のために神父さんも手伝ってくれないか?」
「分かりました。ふふふ、ハニーがいないので思う存分殴れます」
修道服の袖をたくし上げ、嬉しそうにブンブンと腕を回す。回復職のスペシャリストのわりには、神父の腕はガッシリと筋肉質でパワフルだ。
「おい、おい。俺達が待機しているのに、あんたが殴ってどうするんだ。どっちかと言えば、神父さんの方がレベル高いだろ?」
「まあ、確かにそうですが……」
一発ぐらいとかゴニョゴニョと言葉尻を濁しながらも、残念そうにスライムの脇に立ち止まる。己の欲望を何とか押さえつけて待機を選択する。
「とりあえず敵の三方を押さえた。村長、後は村人で攻撃してみてくれ」
「分かりました」
青年団で構成された若者達の方へ向き直りながら、指示を与える。
「昨日レベルアップしなかった者から先に、弓で攻撃を仕掛けて下さい。村の北門で山賊とやりあった時の要領で。今日の方が楽なので、焦る必要はないですよ」
「じゃあ、ワシから攻撃してみるよ。うりゃ!」
――グギャギャッ!――
村人が藤堂達の隙間を縫うように次々と木の矢を射ると、ちょうど三人目の攻撃でスライムは力尽きた。それと同時に村人の一人が七色の虹に包まれた。
「お、レベルアップ?」
「やったな、おめでとう。畜生、この野郎!」
「よ、よせってば!」
仲間からバシバシと肩や頭を叩かれて、手痛い祝福を受ける村人が笑みを浮かべながら逃げ惑う。
「今は俺達が壁役をやっているだろ? だが、将来的にはあんた達村人が、パーティのリーダーとして観光客を守るんだ」
「オラ達に出来るだか?」
弓矢を手にした青年団の一人が、心細げに不安を口にする。
「出来るかじゃない。やらなきゃ駄目なんだ」
「そうだ、そうだ。お前、将来自分の子どもが村を出て行く羽目になってもいいだか? ずっとここで暮らしていくために、ワシらが出来る限りの事をやるだ」
ぼそりと呟いたもう一人の若者の言葉。それは決して捲くし立てるような絶叫ではないが、村人達の心にズンと響くものがあった。
「正直、山賊との戦いに比べたらずっと楽だと思いますよ。今の皆さんの体力ならもし魔物から二回や三回攻撃を受けても、私とハニーでばっちり回復出来ます」
せっかく腕まくりした修道服をどこか物足りなさそうに元へ戻す神父が、村人達を安心させるように太鼓判で後押しする。
「よし。じゃあ、今の要領で続けるぞ。遊撃隊で魔物を釣ってくるから、後はみんなで袋叩きだ。村人もこの機会に少しでもレベルアップした方がいいからな」
「ありがとうございます」
藤堂のさりげない気遣いに村長以下、若い青年団の面々がなるほどといった面持ちで頭を下げた。
それから三十分程かけて、二班の面々は村外れの草原の地下に広がる巨大な空洞を歩き回り、最初の手順どおり易々とスライムを撃破していった。
――グギャギャッ!――
「OKだ! ふぅ、どうやらこれで敵は最後みたいだな」
青紫色をした魔物の巨体が力尽きた。切断面からドロリとゼリーの中身が流れ出る。腐臭を放つ青黒い粘液が噴出し、シュワシュワと白煙をたてる。
「ねえ、剣一? ボススライムが二匹も出てきた時は少し驚いちゃったけど、この前二人で一緒に倒した時と比べて意外と簡単だったじゃない?」
「まあ、今日は鉄平もいるし。俺達もレベルが上がっている。何よりお前と神父さんで回復は万全というのがデカイな」
「えへへ」
今回も魔物のターゲット(タゲ)を取り続けた女戦士の酒田を何度か回復して経験値を溜めたシスターのタニアが嬉しそうに微笑んだ。
「王子様、とりあえず戦闘エリアからスライムは一掃されたようですが……」
「ああ、みんな聞いてくれ。ここからが本番だ!」
村長の言葉に、藤堂が一段と声を張り上げる。
「各自、自分のMAP画面を立ち上げてくれ」
シミュレーションバトルにおいて、上下二段で表示されている基本画面。上段が横一面のMAP表示になっている。これはどんなキャラクターでも同じ仕様だ。
四角いマス目に仕切られたMAP画面上に、この巨大な地下空洞の全域がコンパクトにまとめられて映し出されていた。
草原の奥にある洞穴に通じる入り口の近く。MAP画面で言えば左下に遊撃隊のメンバーと村人達が、仲間を示す青いアイコンによって表示されていた。
「さて、最初の戦闘開始から約三十分が経過した訳だが、俺の見込みだとそろそろモンスターが再ポップしてもいい頃なんだが」
「先輩、今このMAP画面で僕達だけが、青く表示されているじゃないっすか。このどこかに赤いアイコンが点灯したら……。あっ!」
リアル世界の東京で、この手のシミュレーションゲームに一番慣れ親しんでいた酒田が、眼前に展開していた戦闘MAPの隅を指差して叫んだ。
「これ、キタァァァアァァァァア! っすよ」
「よしっ! みんな、今から次々にこのMAP上で赤いアイコンが点灯する筈だ。最初に魔物が湧いたポイントを覚えておいてくれ!」
「分かりました。戦闘に参加しない分、村長の私が責任を持ってメモします」
「仕事が回ってこないこの神父も、及ばずながらお手伝い致しましょう」
どうやら昨晩、藤堂の説明を受けた時に思いついたのだろう。村長が事前に用意しておいた紙と筆を懐から取り出した。
少し黄ばんだ紙の上にサラサラと筆を走らせる。器用な筆遣いで縦横に線を引いていくと、あっと言う間に戦闘MAPと同じ図面が出来上がる。
「えーと。最初のポイントが、ここですね?」
そう言いながら、紙面に書かれたマス目の一つに数字の「1」を書き込んだ。その隣では、神父も自分のMAP画面と手書きの図面を見比べて大きく頷いている。
「モンスターの再湧きまでの経過時間はおよそ三十分。これならば、次のパーティがレベルアップツアーに出かけるにしても、程良い待ち時間です」
いわゆる現代のテーマパークにおけるイベントと同じ要領だ。人気のあるアトラクションだと必ず行列が出来る。
ジェットコースターなどであれば、一秒でも早く【乗り物】を【再稼動】させる事が不可欠だ。さもないと、並んで待っている観光客を効率良く捌けない。
藤堂が考えた村興しで言えば、もちろん【乗り物】はスライムであり、【再稼動】は再ポップに当たる。
最初のパーティが首尾よく敵を倒してレベルアップを果たしても、次のパーティがずっと待ちぼうけでは、全く商売にならない。
ある程度の間隔で魔物が再湧きしてくれないと、全国から観光客を呼んでウハウハ状態にしようと言う藤堂の目論見は根底から崩れ去ってしまう。
そうこうする内にMAP画面上では、赤い光点がその数を次第に増やしていく。
それを見つめる藤堂の瞳にほっとした安堵の色が浮かぶ。同時に、突拍子もなかった村興し計画に対する確かな手応えを掴み始めていた。
「どうやらスライムの再ポップは間違いないみたいだ。あとは、出現場所と経過時間の特定作業に入るだけだ」
「では皆さん、スライム狩りツアーをもう一周、頑張りましょうか」
村長の一声で、村人達が一斉に頷く。女戦士が戦闘エリアの奥から釣ってくる魔物の到着を、手にした小型の弓矢を担ぎながら今か今かと待ちわびていた。
――■――□――■――
一方、村の北門から秘薬草の自生する湿地帯にある山賊の地下アジトへ向かった第一班の面々。
アーチャーのロビン、盗賊の竜馬、土の魔術師のゲンさん、教会のシスター真由美と年老いた村人達。
山賊のお宝を確保するために村から出張ってきたチームは、ようやくアジトの入り口にたどり着いたところだ。
「えー、皆様。本日我々第一班の行動について、遊撃隊からもう一度ご説明させて頂きます」
こう言いながら、類まれなる美貌のアーチャーが第一班の顔ぶれを見回した。ここにいるのが婦人会のメンバーではなく、老人会である事が幸いした。
神が創りし超絶美形のイケメンエルフ。こんな風に彼に見つめられれば、村の女性陣は軒並み気を失うか茫然自失になって膝から崩れ落ちるだろう。
「今から、山賊の地下アジトだったこの洞窟に入ります。皆さんはここにいる竜馬さんとゲンさんの指示に従って行動して下さい」
「オイラが思うに、昨日兄貴達と一緒に山賊は全滅させちゃたからさ。特に何も心配する必要はないんだけどね」
「ロビンさんの言ったとおり、あっしがこの洞窟を掘った張本人でして。通路は比較的単純な一本道だから、中で迷う事もないと思いやす」
元山賊の二人は、少しバツが悪そうな何とも言えない表情になって頭をかく。
「今回の目的は、通路の一番奥にある宝物庫まで足を運び、山賊のお宝を運び出す事です。皆さん、各自データの所持品欄が空になっているか再確認して下さい」
ロビンの声に、村人達がそれぞれ眼前の空間に情報画面を立ち上げる。闊達な老人会のメンバーが、両隣の連れの画面を覗き込みながらお互いに頷き合っている。
「OKのようですね。では、出発します」
竜馬とゲンさんを先頭にしたお宝捜索隊の一行が、巧妙にカムフラージュされた洞窟の入り口を通り抜けてアジトの内部へおっかなびっくりと進入していく。
第二班の何人かが、あらかじめ用意しておいた松明を掲げて歩く。その頼りない光明が、彼らの進む通路から暗闇を追い払う。
ジジジと燃える松ヤニの嫌な臭い。天井のあちこちから滴り落ち散る水滴。周囲から迫るむき出しになった土壁の圧迫感が村人達の不安をあおる。
「いやあー、それにしてもすげえだな。ゲンさん、あんたコレ本当に一人で掘っただか?」
重い空気の中、地下通路を歩く一行の内、沈黙に耐え切れなくなった村人の老人が、キョロキョロとあたりを見回しながら冗談めかして軽口を叩く。
「いえいえ。あっしには、こんな事ぐらいしか能がありやせんから。皆さんは農業や山で狩猟をなさるんでしょ? あっしには、とても真似が出来やせんよ」
土の魔術士がパタパタと片手を振りながら本気でそう答えた時、暗闇に包まれた通路の前方を照らす松明の明かりが、トンネルの行き止まりを伝えてきた。
「あれ? 道を間違えただか?」
「だども、入り口からずっと一本道だったど?」
老人会のメンバーが口々に話し始める中、土の魔術師ゲンさんが呪文の詠唱に入るとギョッとした村人達が一斉に騒がしい口を閉じる。
何事もなく数分間が過ぎた次の瞬間!
――ズ、ズ、ズ! ズガガガガガ!――
立っているのもやっとと言う程の揺れが、薄闇に包まれる地下アジトの通路を襲った。押しつぶされる不安が、村人達をパニックに陥れる。
「あわわわ?」
「じ、地震だか?」
だが、のんびりとした竜馬の声が腰を抜かしかけた老人達に掛けられる。わざとゆっくりした口調に、誰もが思わず“えっ?”と聞き耳を立てる。
「みんな! ゲンさん得意の魔法がどんなものか、その目で見られるよ!」
戦乱の世を長年生き抜いてきた村人達は、膝が笑うほどの震動による恐怖よりも噂に聞く土の魔法の正体を確認する好奇心の方が勝った。
「おおおっ? 通路を塞いどった土の壁が!」
老人会の面々が、一斉に驚きの声を上げた。
土の魔法で地面からせり上がっていた土壁が、ゲンさんの解除呪文で元へとずり下がっていく。丸く掘り抜かれた通路の先が、上から徐々に姿を見せ始めた。
――続く――
【あとがき】
藤堂の見込んだとおり、スライムが再ポップした。机上の空論だった村興し計画は、このまま上手くいくのか? 一方、竜馬たちも山賊のお宝を首尾よくゲットできるのか?
次回、鵬程万里編⑤『王子の村興しは、空中楼閣?⑤』乞うご期待!
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