①『王子の村興しは、空中楼閣?①』
【前回までのあらすじ】
――アメリア大陸の北方に位置するワーシントン王国。その中でも最北にある小さな村ベリハム村で第四王子となった藤堂は、遊撃隊を率いて山賊どもの討伐に乗り出した。村を襲う悪漢どもを追い詰め、ついに山賊を全滅させた――
「馬鹿な奴。我が愛しのワイフを侮辱さえしなければ、逃げられたものを……」
光が完全に消えたのを確認し、ふっとタメ息をつく。死者を弔うように両手を組み、眼を閉じて瞑想に入ろうとしたところへ妻のシスター真由美が抱きついた。
「うふふふ。やっぱり、あなた最高だわ!」
「そ、そうかな? でもね、ハニーの悪口を言う奴は誰だろうと許さないよ。たとえそれが……。神であったとしても、私がこの手で必ず叩き潰してみせる!」
(おいおい、それって教会の神父が言うセリフじゃないだろ……)
目を点にしたまま呆れ返る藤堂は、ベリハム村の名物カップルが時と場所をわきまえずにイチャイチャし始めるのを黙って眺めるしかなかった。
「……と言う訳で俺達遊撃隊は、秘薬草の群生地の傍にあった山賊の地下アジトに乗り込んで、奴らを全滅させたんだ」
今ではすっかり遊撃隊の作戦司令室と化した王子の家のリビングルーム。中央に据えられた大きなテーブルを囲む面々が、藤堂の報告に耳を傾けている。
顔を揃えているのは、メンバーのほかに村長と村の役員が数名。あとは北門での攻防戦で活躍した教会の名物カップル。何故だか元山賊の魔術師も同席していた。
戒厳令状態だった村に平穏が戻った。万一の事態を考えて北門に見張りを数名残した以外、今回戦闘に参加した他の村人は全員帰宅させてある。
「ありがとうございました、王子様。何とお礼を申して良いやら……」
村長がいつものようにタオルで汗を拭きながら、小太りな身体をなんども折り曲げて頭を下げる。
「いいって。それより村長、山賊との攻防戦でスゴイ陣頭指揮を執ったらしいじゃないか?」
「うんうん。剣一ってば、遊撃隊長としては、ほんと失格寸前なんだから! いっそのこと弟子入りして、作戦準備の手ほどきをしてもらったら?」
藤堂の隣の椅子に腰掛けたタニアが、キャッキャと笑顔を向ける。耳が痛い幼馴染からの指摘に、王子も苦笑いしながら肩をすくめた。
「ちょ、ちょっと。お二人とも勘弁して下さいよ。もしあの場に神父様とシスター真由美がいらっしゃらなかったら、今頃どうなっていた事やら……」
ここへ来てようやく恐怖が蘇ってきたのか。椅子に腰掛ける村長の足が、ブルブルと震えている。足に力を込めてみるが、どうやらおさまりそうもない。
確かにあの場面で教会の二人が居なければ、バリケードは山賊に突破されていたはずだ。下手をすればあの火炎瓶攻撃で、村は全焼していたかもしれない。
「若様。僭越ながらこのチュートリアル、一言申し上げてもよろしいでしょうか?」
相変わらず暗褐色の燕尾服を一部の隙もなく着こなす老執事が、眼窩にはめた片眼鏡を左手の中指で軽く押し上げる。
「何だ、爺や?」
「山賊の殲滅、誠におめでとうございます。若様がお生まれになったあの日から早幾年。こうも早く感涙にむせび泣く日が来ようとは……おーいおいおい」
一体どこから取り出すのか、青いハンカチが魔法のように手の平に握られて目頭を押さえる。
「だから、久しぶりの出番で張り切るのは分かるけど、それじゃあ話が進まないだろ!」
「さようですな」
半泣きの顔が一変して能面のような無表情に戻る。手にしたハンカチはパッと空中へ消え失せる。
「ウォホン、では本題に参ります。山賊を全滅させたのは誠に持ってお見事。ならば、その地下のアジトを本格的に捜索させたほうが良いのではありませんか?」
「おっ! そうだな。奴らの別働隊の後を追い駆けて、村までとんぼ返りだったからな。あそこはろくに調べもせずに、放りっぱなしのままだ」
「さすがチュートリアル様。現場にいらっしゃらなくとも、よく気が付かれますね」
老執事の言葉に、村長もポンッと手を打つ。
「年のせいで戦闘は無理ですが、コレくらいの事は当然です」
「そう言えば、あのハゲ親父。死ぬ前に『集めたお宝は全部くれてやる』なんて往生際の悪い事を言ってたっすよ」
山賊の首領が今際の際に残したセリフ。女戦士の酒田が低い声で物真似する。肩を竦めてから、机の上に置かれた紅茶カップに手を伸ばした。
「竜馬、山賊の財宝について何か知っているか?」
「ごめん、藤堂の兄貴。あいつ等、オイラみたいな下っ端には、そんなお宝なんて拝ませてくれなかったんだ」
山賊のボスと苛烈な戦いを遊撃隊の仲間と共に乗り越えた盗賊の竜馬は、いつしか藤堂や酒田、ロビンの事を兄貴と呼ぶようになっていた。
「……あっしは見た事ありますぜ」
同じく山賊の一員だった土の魔術師が口を開く。裏山へ続く抜け穴を始め、悪党の地下アジトを掘り抜いたのは、実際この男一人による手作業だった。
無論、戦利品の保管庫とそこへ通じるトンネルも、土の魔術師ならではの特技を活かした彼の仕事だった。
「あっ! 申し遅れやしたが、あっしの名はゲンガーバルトシュタイン。土の魔術師をやっています。と言っても、戦闘は全く苦手で土いじり専門でやすが」
「長いな。ゲ、ゲンガーバル……、何だって?」
「ゲンガーバルトシュタインでやす」
「えーっと、ゲンガーバトルシュ……? わ、悪いけど舌を噛みそうな名前だから、略してゲンさんって呼んでもいいか?」
(土木工事の専門家ってところだな。“大工”じゃないのが残念だが)
藤堂が妙なところで感心していると、当の魔術士は名前については普段から同じ事を言われ慣れているのか、あっけらかんとした表情で頷いた。
「ええ、あっしもそう呼ばれる方が気分的に楽ですし。まあ、山賊どもはあっしの事を魔術師、魔術師って呼ぶだけで、名前なんて気にも留めませんでしたがね」
「じゃあ、ゲンさん。済まないが、俺達にもう少しだけ手を貸してくれないか? 地下アジトをもう一度案内して欲しいんだ」
「問答無用で殺されても文句が言えない立場だし。今更ジタバタしても仕方がありやせん。どうせ行く当てもありやせんから、どこでもお付き合いしますぜ」
『毒を食らわば皿まで』の心境なのか、フードを降ろした魔術師の顔には、もうどうにでもなれといった諦めの表情が浮かんでいる。
「サンキュウ。ところでゲンさん、あんた確か『穴を掘るしか能がない魔術師』を召し抱えてくれる処があったら、ぜひとも紹介して欲しいって言ったよな?」
「ええ、言いやしたよ。ですがね、王子様。こんな戦乱のご時世に、無駄飯喰らいのあっしなんか雇ってくれる物好きな人が、どこかに居たらって話ですよ?」
呆れたように首を横に振るゲンさんの返事を聞いた藤堂は、フッと笑みを浮かべながら村長以下村の役員達の方へ向き直る。
「えーっと。村の皆に、俺から一つ頼みがあるんだが……」
「分かりました。お引き受け致します」
王子に皆まで言わせず、村長があっさりと即答する。
「え? いや、まだ何も言ってないけど?」
きょとんとする王子に構わず、村長が村人達に指示を出しながら采配を振るい始める。
「まずは『衣食住』の『衣』ですね」
「あー、村長。確か道具屋に魔術師のマントが、まだ売れ残っていたんじゃなかったかな? あそこの店主がこの前ぼやいていたよ」
「それはいいですね。『食』は私の家で引き受けましょう。今は家内と二人きりなので、食卓が賑やかになっていい」
「それなら『住』はオラに任せてくんろ。うちの離れを提供するだ」
「ちょうど村長さん家の向かい側にある、あの一軒家かい?」
「んだ、んだ。元はうちの親戚の持ち家なんだども、去年隣町に引越しちまって。今じゃ、あそこには誰も住んでないだ」
「そうかい。やっぱり人が居ないと、家はすぐに駄目になるって言うからな。この際だから維持管理も兼ねて、誰かに住んでもらえればって話だね」
「んだ、んだ」
「となると……後は仕事ですね。えーっとゲンさん、もし良ければ村役場の土木作業を手伝ってもらえませんか? お給料は、それ程多くは出せませんが……」
「ちょ、ちょっと待って下せえ!」
話がトントン拍子に進んでしまい、当の本人である魔術師一人が蚊帳の外だ。何が何だか判らないゲンさんが、大慌てでストップをかけた。
「一体、どう言う事なんで?」
「あはは、どうって? 今聞いたとおりだろ? 俺が頼む前に、物好きなこの村の皆は、あんたを雇ってくれるっていう話だよ」
「いや、だって。あっしは、ついさっきまで山賊だった男ですぜ? 村の人達に迷惑をかけたかもしれないじゃありやせんか」
「ゲンさん、あんたこの村で何かやったのかい?」
「滅相もない。隣町から流れて来てから、ずーっとアジトの穴掘りばっかり続ける毎日で。この村には一度だって足を運んでいませんや」
「あのうー。盗賊のオイラが言うのも何だけど、ゲンさんは本当に地下のアジトから外へ出ていないよ。冒険者の襲撃にも同行しなかったんじゃないかな」
「と言うわけで、話は決まりだな」
「決まりって、王子様。そんな殺生な! あっしにも心の準備ってものが……」
「殺生っすか?」
ここぞとばかりに女戦士が身を乗り出す。ぼそっと一言、“装着”と呟いたかと思うと、酒田の手にアルファベットの『T』の文字に似た凶器が出現した。
「だぁー! 分かりやした。分かりやしたってば! ですから、そのギラギラ光るデカイ斧を、あっしの目の前でチラつかせるのは止めて下せえって」
武器を片手ににじり寄る酒田。
「う、うわっ!」
半泣きになった魔術師が、本気で逃げ出そうとする。座っていた椅子が斜めに傾き、ついには仰向けになって倒れてしまった。
――バタンッ!――
「痛痛痛、勘弁して下せえよ、まったく」
椅子ごとひっくり返った拍子に後頭部を強打した。涙目になった土建屋魔術師が、ブツブツ言いながら頭をさすって立ち上がる。
「さて、ゲンさんの身の振り方も決まった事だし。そろそろ話の本題に入るぞ」
「と申されますと?」
村長以下全員の眼が王子に集まる。リビングルームに一堂に会した、遊撃隊のほか教会の神父夫妻や村人も、無駄話を止めて興味深そうに彼を見つめた。
「それはもちろん、村興しさ!」
この状況で王子はいったい何を? 誰もがそう思って首を捻る。大机の隣り合わせに座る者同士が顔を見合わせて、室内にザワザワとざわめきが広がる。
「若様、皆を代表してこのチュートリアルがお尋ねいたします。よろしければ、もう少し具体的にご説明頂けるとありがたいのですが……」
「そうだな。村興しについては、皆も知っているとおり、このベリハム村にとっては必要不可欠な課題だろ?」
「おっしゃるとおりです。しかも可及的速やかに解決すべき問題です」
「俺が遊撃隊を立ち上げた時にも、村長からこの村を活性化させる何かいいアイデアがないか考えてくれと頼まれたんだ」
「うんうん。確かに遊撃隊も今じゃ総勢六名まで増えたから。皆の食費や武器、防具、道具なんかの必要経費が、これからもっと増えていくよね、剣一?」
「タニアの言うとおりだ。村長から全面的に俺達の後方支援を約束してもらっているが、正直言って今のところ当てに出来ないのというのが現状だと思う」
「申し訳ありません。スライムや山賊を追い払ってもらっておいて、こんな事を申し上げる大変心苦しいのですが、国庫に収める年貢だけで今は手一杯なのです」
村長の恐縮したセリフに、村の困窮した財政事情を良く分かっている役員達も立ち上がって頭を深々と下げる。
「あっ! 悪い、悪い。皆を責めている訳じゃないんだ。軍資金の提供について、当面は無理だって事もちゃんと理解している」
「兄貴、さっき言ってた山賊のお宝をゲットすればいいんじゃないのかい?」
「そうだな。だけど、竜馬。実際アソコにどれくらい値の張る物があるか知らないが、所詮は焼け石に水で一時しのぎにしかならない気がするんだ」
「あっしも王子様の言うとおりだと思いやすぜ。山賊の宝物と言っても、所詮は田舎の悪党が集めたに過ぎやせん。宝物庫も大して広くなかったし」
山賊の地下アジトを掘り抜いた土の魔術師が王子に同意する。
この部屋の中で、実際にお宝の現物を見たのはこの男だけだ。その中身の大半が、秘薬草のクエストにやってきた冒険者から巻き上げた物だろう。
「ありがとう、ゲンさん。そう言う訳で、山賊のお宝は当てにならない。つまり、他の方法でこの村の財政を立て直さないと、村も遊撃隊も共倒れになるかもだ」
「現状は大体分かりました。それでは本題に戻りますが、王子様。この村の財源をどうやって確保なさるおつもりなのでしょうか?」
「ウォホン! 若様、ベリハム名物『ウサギの丸焼き』をご所望ならば……」
王子の後ろで控えて立つ老執事が、こっそりと耳打ちする。
「このチュートリアルが今すぐ妖精界へ乗り込みましょう。我が特製究極魔法『火炎滅殺地獄車』を命の限り撃ちつくし、小生意気なウサギどもを捕食して……」
「駄目、駄目、駄目――。ううっ、お母様やお姉様達を食べないで欲しいピョン」
パニックになったフェアリーが、リビングルームの天井から床下まで物凄い勢いで飛び回る。透明な羽根の小さなバニーガールが、王子の目の前でピタッと急停止。
両手を組んで、乙女のお願いポーズを取る妖精は、ボロボロと大粒の涙をこぼす。流れ落ちる二条の細い滝が、机の上に水溜りを作った。
「いや、だから落ち着けって。爺さんも、いい加減にフェアリーを苛めるのはよせ! 『ウサギの丸焼き』はナシ! 大丈夫、俺がもっといい手を考えたから」
「ううっ、そんな方法があるピョン?」
「実は少し前に、頭の中で“あるアイデア”が閃いたんだ。それが中々、具体的にまとまらなくて弱っていたんだが、ゲンさんの登場で問題が解決したのさ」
「え? 無駄飯ぐらいのあっしが、何か皆さんのお役に立ちやすか?」
「ああ。と言うか、あんたじゃないと駄目なんだ」
「戦闘以外で、あっしに出来る事なら何だって協力いたしやすよ」
「よし。じゃあ少し長くなるが、俺の話を聞いてくれ。なんと言っても、今回俺が思いついた『村興し計画』のキーポイントは……」
全員が身を乗り出しながら、息を止めて王子の話を聞き入る。藤堂の語る村興しの内容を聞いている内に、誰もが唖然として口を開けたまま言葉も出ない。
――■――□――■――
リビングルームで藤堂が、あっと驚く村の復興計画を皆に説き始めた頃。
ここ、ワーシントン王国の南部戦線では、王弟ガスバル擁するガーネット騎士団が、隣国の戦闘部隊と相変わらず激しい戦闘を繰り広げられていた。
国境線を挟んで睨み合う形で設置されたそれぞれの陣営の砦。双方の騎士団が数部隊ずつ常駐し、隙あらば相手の領土内へ侵攻する機会を窺っている。
小競り合いは日常茶飯事となり、両国とも死者が続出する戦況だ。南部戦線は陰惨と嗜虐で真っ赤に塗り固められている。
血で血を洗う日常。殺される前に殺す。人の情けなど髪の毛一本の重さもない。
ワーシントン王国の時期国王の座を虎視眈々と狙う、野心家の王弟ガスバル。彼の薫陶が行き届いたガーネット騎士団に、温情などと言う言葉は存在しない。
そんな冷酷な心を持つ騎士達が前線を支えるワーシントン王国側の砦に、国都から一頭の早馬が駆け付けた。
「ギシュベルは……、死神は今どこにいますか?」
背の低い騎士が、馬上から砦の従者に声をかける。爬虫類を連想させる青白い肌と薄い目が、普段砦の厩舎で馬の世話している若者を射抜いた。
ガーネット騎士団に入って間もない若い彼は、雲の上のような存在からの問い掛けに、ただ震え上がるしかなかった。
従者の態度に馬上の男は特に気分を害した様子もなく、ひらりとマントを翻して馬から飛び降りた。
砦の入り口の横に組み上げられた細い丸太。石像と化した従者を無視して自らの手で馬を繋いでいると、そこへ扉の奥からおっとりした声が掛けられる。
「これはこれは、ご機嫌麗しゅう。貴方のようなお方が、遠路はるばるこのような地獄の一丁目まで参られるとは、いやはや何ともお珍しい」
心のこもらぬ上辺だけの挨拶。顔中髭だらけの騎士がドスドスと地響きを立てて通路の奥から現れた。
「言い慣れぬ世辞など結構です。ジャスワント、貴方の上官はどこに? ガスバル王弟からの勅命です。今すぐ私を案内しなさい」
小柄な騎士が、横幅の広い荒くれ者のセリフをピシャリと斬り捨てる。蛇のような目付きの鋭い小男は、王弟の腹心であるエドモントであるのは言うまでもない。
「あちゃー、それは困りましたな。隊長は今、砦を留守にしていましてね。いったいいつ帰って来るのやら。がはははは」
でっぷりと肥えた髭男が、豪快に笑い声を上げる。その身体つきは、横幅と奥行きが等しく、まるで肉の円柱に手足が生えたようだ。
「留守? ジャスワント、副隊長の貴方を砦に残したまま、ギシュベルはいったいどこへ遊びに行ったのですか?」
「うひゃひゃひゃ。遊びですか? あー確かにそうかもしれませんな。うちの大将にしてみたら、こーんな戦争なんてガキの遊びと一緒だから」
ジャスワントと呼ばれたデブで髭だらけの騎士が、膝を叩いて大笑いしようとするが、突き出た腹が邪魔になって結局自分の腰をバンバン叩く。
周りに集まってきた幽鬼のような男達も、副隊長の姿を見て感情のない笑みを浮かべる。
「冷血部隊の死神に会うとすれば、私はどこへ行けばいいのでしょう?」
「そうですな。まずは国境線へ向かうのがスジですな」
「かなりアバウトですね」
「ですな。しかし、その後ワシなら空を見上げますな」
「空?」
「うちの大将の居る所、必ず戦火が付きまといやすからね。ぐへへ、煙が見えたらそこへ向かって一直線。後は人の焼けるニオイが漂ってきたらビンゴでさ」
(死神の異名は、伊達じゃないか。……それにしても、コイツ等。毎度の事ながら軍紀が乱れきっている。ふん、ギシュベル以外の命令は聞かなさそうだ)
ガーネット騎士団でも一、二を争う冷血漢と目されるエドモントが、さすがに苛立たしい感情を胸に秘めて、山賊と大して変わらない男達を見回す。
「ぎゃははは。副隊長、もうこの辺りの村はぜーんぶ燃やし尽くして、灰にしたんじゃないっすか? 火の無い所に、煙なんて立ちませんぜ!」
「まったくだ! ぐへひへへへ……」
「黙れ!」
馬鹿笑いを続けるジャスワント達を蛇の目が睨みつける。氷のように凍てついた視線が副隊長を黙らせる。
「なんだ、てめえ――」
血気にはやる冷血部隊の大男達が、小柄なエドモントを取り囲む。
「よせ! お前らが束になっても敵うもんか。ワシが本気で討ちかかっても、せいぜい相打ちがいいところだ。死にたい奴は、好きにすればいいがな」
妙におどけたポーズを取る巨大な肉塊が、神妙な顔つきになって肩を竦める。
「すいやせん、エドモント様。こいつら、隊長がいないとすぐに破目を外したがるもんで。このとおり、ワシに免じて許してやって下せえ」
慇懃無礼な態度のまま、副隊長が頭を下げる。だが、あまりに太った肉体故に、腰を折るどころか、太い猪首を僅かに前へと倒したに過ぎない。
「分かりました。ですが、次はありません。王弟殿下の勅命に逆らう者は、例え誰であろうと容赦なく踏み潰します。それが冷血部隊と言えども、例外なく……」
ガーネット騎士団の蛇が笑った。いや口の端を一ミリ上げただけだ。だが、それだけでエドモントを取り囲んだ男達の輪がザッ広がった。
「分かってますよ。お詫びの印に、ワシが隊長の所まで案内いたしやすから」
「ではその間、冷血部隊はすぐにこの砦から移動出来るように、準備をさせておいて下さい」
「ほう。ワシら第十三小隊が南部戦線を離れてもよろしいんで? って事は、ココよりも楽しめる場所が、他にあるって訳ですかい」
「ええ、もちろんです。こんな所よりもずっと……」
(第四王子、そして我らの天敵であるジョナサン伯爵の愛娘という、飛び切りの獲物。貴方達にはたっぷりと用意してあげますよ。ククク)
――続く――
【あとがき】
果たして、藤堂王子が閃いたベリハム村を活性化させる良い手とは?
彼らが村興しに躍起になっている間、ついに手冷血部隊の死神ギシュベルが登場する。王弟ガスバルの魔の手が、遊撃隊の背中に少しずつ忍び寄っていく。
次回、鵬程万里編②『王子の村興しは、空中楼閣?②』乞うご期待!
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