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追の譚(はなし) 太古からの星は、これからも輝いていく

一人の青年が、地上を見おろしていた。



青年に名はない。呼んでくれるものが他にいないからだ。


かつてひとつと言えるほどに融合し、離れることも出来ない相手がいたが、その相手はその者自身の性質から自我を壊してゆき、憎しみに満ちた者となってしまった。


その相手の影響により、大地の上は苦悩と血と怨嗟に満ちた。


見かねた青年は姿を変え地上に降り、その身を人間達に託した。


とある血族達が、自分の力を最大限に引き出す能力を有していた。その血族達はいつしか人間界で王族を名乗り、王国を築きあげた。


だが彼らの力をもってしても、青年の力を引き出せない時期というものが、どうしても周期的におとずれた。


青年は、その周期を避ける方法を見つけることはできなかった。それは人間達も同様で、つい最近も、大地はかの者の住みやすいところとなってしまった。


青年はある時、異界へ向かった。その時点で唯一自分の力を確実に引き出せる人間の少女は、その異界に生まれ変わっていたのだ。


その少女の並々ならぬ努力と情熱により、地上は再び息を吹き返しつつある。


青年は何度も、人間達の祈りの力に感動している。


これは人間達が青年の力を借りねば、成し遂げられなかったことではある。しかしまた青年独りの力でも、地上にここまで介入することはできなかったのだ。




見おろした地上の先には、三人の人間がいる。


男が二人、女が一人だ。体じゅう泥だらけにしてかけずり回っている様子から、遊びに興じているのだろうか。


まだ齢は十に満たない者たちばかりだが、そのうちの女を、青年はどこかで見た覚えがあった。


姿を変えた青年を使い、祈った女と同じ魂を持っている。正当なやり方で継承された者ではないものの、その時点ではあの女の元へと向かうしかなかった。




青年は、地上を見おろしている。


再びまたあの姿をとり、人間達の元へ向かうつもりでいるからだ。


半身とも言える相手は、どこへ消えたかわからない。だが青年自身も、あの相手と同じように一度は完全に消滅するのを覚悟した。それがこうして生き伸びているのだ。


「おそらくは私という存在がある限り、あの者も、いずれはどこかで蘇るだろう」


青年の独白は、誰も聞いていないはずだ。しかし、かけずりまわっていた少女がふいに立ち止まった。

その少女に、さらに幼い少年がぶつかる。


「おい危ないだろ。急に止まるな!」

「ねえ、何か今聞えなかった?」

「はあ? こいつまた、変なこと言ってやんのー」

「そういうふうにからかうな。妹は、見えないものの声が聞こえるんだ。それはきっと意味のあることなんだよ」


青年は、何となく口をつぐんだ。


そして今度は、胸のうちでひっそりと決意する。


(そなたたちが再び私を望むのであれば、私はまた、地上へと降り立とう)




絶望と希望に翻弄されながら、それでもこの世界で生きていくというのならば。


わずかな光明に、我が身がなれるというのならば。


迷うことのないように、いや、たとえ迷ったとしても。


みちびきとなれるように、この身を星のごとく輝かせよう。





地上を見おろす青年の思いは、人間達の誰一人、知ることはない。



<了>

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