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少年の視点5

 一馬は公園のブランコに座り、漕ぐでもなく地面に視線を落としていた。


 家から反対側にあるこの公園に最初に来た時、噴水がきちんと整備されていることに驚いた。水が満ちている季節は決まっているらしいが、それでももっと田舎で暮らしていたことのある一馬からしたら、流水の途絶えない噴水というのは新鮮だった。


 ブランコの近くにあるベンチに、高校生とおぼしきカップルが話しこんでいる。互いの距離は人一人分空いているが、親密な雰囲気がこちらにまで伝播しそうなくらい、あふれている。


 何てことのない夕暮れ時の光景なのに、一馬の心が切なくしめつけられた。


(きっと、アミアンの記憶が蘇ったせいだ。だから、幸せそうなカップルが羨ましいんだ)


 横に目線をうつす。同じくブランコに腰かけた花菜子が、菓子パンを幸せそうに頬張っていた。


「買い食いはやめておけって、東堂さんに伝えておいてくれよ」


 すぐにかえってきたのは花菜子の声ではなく、低い青年の声だ。


「そういうことはできないんだよ。俺が表に出てきている間、この女の子の記憶は途切れているから。なあもしかして、今の俺達って傍から見たら恋人同士に見えてるのかな?」


 中身は男なんだけど、と、マルムがひとりでくすくす笑う。一馬はひとつため息をついた。


「そう怒るなって。俺とこの間会って以降、何かあったか?」

「俺も穂積さんも、追加でいろいろと思い出した。ソティスが誰なのかもわかったよ。ああでも、穂積さんはマルムのこと、気づいていないと思う」


 ここまで話してから、『穂積さん』が誰を指しているのか理解できているのか、それが気になった。


 だがマルムはそれに関して何も言わない。もしかしたらある程度、花菜子の見たものを知っているのかもしれなかった。

 そうでないと、あの世界と現代日本では文化が全く違うので、出現の度にもっと驚いてもいいはずなのだから。


「最低限のことを思い出したんなら、まずはそれでいいさ。なあ、ところでさ、お前と穂積さんって人は、一体どういう仲なんだ?」


 マルムだけでなく、花菜子本人からも改めて問われている気がして、複雑な心地になる。


「単なるクラスメイトだよ」


 そう答えるのに一瞬間が空いてしまう。


「ふうん、やっと念願かなって、誰にも反対されずに恋人になったのかと思ったけど、そうじゃないんだな」

「穂積さんは、元々ソティスだった奴と恋人だから」

「……は? 嘘だろ?」

「本当だよ。でも今は、どうなってるかわからないけど」


 何せお互いに玲旺那の監視を恐れ、情報交換が出来ていないのだ。


 挨拶等の、最低限の会話は出来ている。けれど最近、思い悩むようになった瑠璃の横顔が視界に入っても、何も話を聞くことのできない自分がもどかしかった。


「星を持ってるなら、滅多なことにはならないだろうけど、ちょっと心配だな」


 一馬は顔をあげた。マルムがどうして星のことを知っているのだろう。

 だがそれを問う前に、彼はにかっと笑ってみせた。


「まあ近いうちに、今度こそ詳しい話をしよう。俺は、そのためにこの世界にやってきたんだからな」


 そして前触れなくマルムは引っ込み、ややぼんやりしたふうの花菜子が辺りを見回した。


「……あれ、このパン、さっき一口かじっただけなのに、何でこんなに減ってるの?」


 花菜子の疑問をそらすべく、一馬はつとめて自然に言う。


「買い食いはやめたほうがいいよ、東堂さん」

「違うわよ。これはお母さんがスーパーで買っておいてくれたの。あ、引きとめておいてなんだけど、北斗君はもう帰らなくていいわけ?」


 公園の時計を指差し、花菜子が問う。時刻は六時半を回ろうとしていた。

 部活に入ってない一馬がさすがにこれ以上道草すると、親が心配してしまう。


 腰をあげると、古びたブランコがきいと音を立てる。


「どう、気分転換できた?」

「うん、まあ」


 部活が早めに済んだ花菜子とぱったり出会ったとき、一馬は気分転換のため遠回りをしている、と言った。


 それを花菜子はどう解釈したのか、話題は瑠璃のことに傾きかけたのだ。


(マルムが突然現れてくれて、ある意味助かった)


 あれ以上、瑠璃の親友である彼女と、瑠璃について平然と話していられる自信はなかった。


 歩きだした一馬の背に、花菜子が声をかける。


「北斗君、一人で悩むくらいなら、いっそのことアタックしたほうがいいよ。近いうちに、そういう場所をセッティングしてあげるね」

「え?」


 問い返しても、花菜子は意味ありげにほくそ笑むだけだった。何らかの悪だくみをしてるんだろうなと思いながら、一馬は帰路につく。


 その日の夜にまた、夢の中でアミアンだった頃の記憶を見た。


○○


『いやあ、力持ちが一人いると大助かりだ』

『ここに置けばよろしいですか?』

『ああ、悪いね、いつもありがとう』


 温かみのある声に、アミアンは思わず微笑みかえす。


 騎士の地位を解任されたアミアンが配属されたのは、王太子が管理する私設図書室だった。


 過去の政治的文書等を保管する文書館の近くに設置されており、成立年代がいにしえの書物が多く所蔵されている。内容は、歴史、神話、もはや旧い科学など多岐にわたる。最初に足を踏み入れた時、天井まで届く程の高さの本棚に圧倒された。


 アミアンが呆然とするほどの書物の山は、一人の男が管理を任されていた。

 シャンリィという名の六十程の彼は、なんとかつて、先代の<光の子>の騎士であったという。


 『お前の背景を、少しは配慮できる者の近くにいる方がいいだろう』というのは、ジニアの言だ。


 仕事をしているうちに気がついたのだが、アミアンはここにいずとも、シャンリィ一人だけでも作業に支障はないのだ。だがシャンリィは腰や右膝を悪くしているため、てきぱきと書物や道具を運ぶアミアンを大層ありがたがってくれた。


 シャンリィの仕事は、図書室内の書物の保管と補修、それに文書目録の作成が主だ。埃やカビや虫に注意を払いつつ、修繕し、または複写し、後世に情報を残すのが彼の役目だった。


 時折、文書館に務める文官達も顔を見せた。シャンリィの修繕の技術は、文書館の者も一目置くほどらしかった。アミアンにはてんでわからないことについて意見を乞うているのを、何度か見かけた。


 ここに現れる文官は皆アミアンにあまり関心を払わなかったのが、新鮮だった。彼らは努めて無視しようとしているわけではなく、最初からアミアンが目に入らないようなのだ。


 虫食いのある古い文書を補修しながら、シャンリィが口を開く。


『以前も聞いたが、俺の後を継ぐ気はないかね? 拙い技術だが、伝える相手が欲しいんだ』

『いえ、僕はパンをこねるか、剣を握る方が性に合ってます』


 アミアンは貧しい下級貴族とはいえ、勿論最低限の教育は受けている。が、座学はあまり得意ではない。アミアンよりも学問を修めた裕福な平民がこの国には何人もいる、と断言できるくらいには、彼は勉学に興味がなかった。


 しかし、祖父や父が大事にしてきたパン屋を継ぐ予定だったアミアンは、それでもひととおりの読み書きそろばんは身に着けている。


 なので、全く学がないわけではないのだ。


(けれどさすがに、今から古代語を学ぶ気力はないな)


 シャンリィの複写や修繕の対象は多岐にわたる。扱う書籍は、最近記されたものもあるが、中には数百年前に原本が誕生した書物もあるのだ。一朝一夕で技術を得る訳ないのはわかっているが、それでも鍛錬をしたからといって、自分がこんな根気のいる作業ができるとは思えない。


『そうか。だけど、これからも説得させてもらうよ。君は真面目な青年だ。いろいろあったのだろうが、王太子殿下がここに配属されるくらいだから、見込みがあるんだろう』

『……それは、買いかぶりすぎです。僕は、良い評価をいただけるような人間ではありません』


 ジニアの管理下にあるここに配属されたのは、変な行動を起こさないよう近くで見張るためだろう。ついでに、カレンデュラへの牽制もかねているはずだ。


『いやいや、少なくとも私よりは、騎士として優秀だったと聞くがね?』

『そんなことは……』


 突然、部屋の空気が動いた。作業部屋の入口に、思いがけない人物が立っている。


『殿下』


 つぶやいたアミアンは、とっさに片膝をついて頭を下げた。作業台から立ち上がったシャンリィも、ゆるりと礼をする。


『もしかして作業中だったか、すまないな』

『いえ、きりのよいところでした。ところで、突然どうなされましたか?』


 歩み寄るジニアが、かしこまるシャンリィに話しかけている。これはそこそこに辞去すべきだと、アミアンが思った刹那。


『その男に用がある。悪いが、席を外してもらえるだろうか?』

『かしこまりました』


(え、何だって?)


 足の悪いシャンリィの姿が、ゆっくりと扉の向こうへ消えていく。ジニアは供をつれていない。なぜか二人きりになり、アミアンは内心首をかしげた。


(どうしてだ。王太子殿下が僕に何の用なんだ?)


 背中に冷や汗が流れるのを感じながら、ごくりとつばを飲み込む。


『そう緊張するな。追加で罰を与えに来たわけではないぞ』

『いえ、卑賤の身に、何の御用かと思いまして』


 ジニアの革靴が視界に入った。頭上から、意外な命令がおりてくる。


『顔をあげなさい』

『え? いえ、しかし……』


 とっさに反応ができず、うろたえてしまう。重ねてジニアは言った。


『そなたの顔をしっかり見たいのだ。顔をあげなさい』


 そろりと頭をあげると、途中でジニアは顎をつかんできた。やや雑に持ち上げられ、背を丸め覗きこんでくる王太子と目が合ってしまう。


 品物を鑑定するようなジニアに、愛しい人の面影を見出そうとしてしまった。

 やはりあの少女のことは、忘れられそうにない。アミアンは、絶望に近い確信を抱く。


『ふむ……やはりカレンデュラの方が美しい。そなたは容姿以外の何かで、人をひきつけるのだろう。不思議なことだ。この王宮内で生きていく際に必要な、大事なものを備えてないというのに』


 彼なりに結論を得たらしく、ジニアは手を放し再び背を伸ばす。アミアンはまた頭を下げた。

 周辺を見て回るジニアに、早く帰ってほしいと心の中で願う。


『私を恨んでいるか?』


 巻子本を紐解きながらの問いに、アミアンは首を横に振った。


『僕は、受けるべき罰を受けたのです。その原因は僕にあります。罪人が、誰を恨めるというのでしょう』

『だが、鞭打ちの刑罰はいささか重すぎたとは思わないか?』

『<光の子>の名誉を汚した者に、あの痛みは必要です』


 ジニアがの本意がわからぬまま、アミアンは淡々と答えた。


『見事なものだ。あくまで悪いのは自分だと、そう言いたいのだな』


 アミアンは、拳をひそかに握った。


『罪深いのは、僕ただ一人です』


 脳裏に、眠りに落ちていくカレンデュラの顔を思い起こす。あれが、彼女を見た最後になるだろう。


 数度会いに来てくれたマルムが、カレンデュラに覇気がないと言っていた。すぐにでも駆けつけたいのは山々なのだが、その選択はお互いの身を危うくするだけだ。


 もし密会がばれたら、今度はアミアンだけでなくカレンデュラも、実の兄に裁かれる可能性がある。兄妹間でそのようなことは、おこってほしくない。


『罪、か。お前があるものを備えていれば、そんな自虐を言う必要はなかった』


 巻子本をしまったジニアは再び歩き、ある本棚の前で足を止めた。天井まで伸びるそこには、数々の装飾本がおさめられている。貴重なものばかりのため、中には鎖で本棚に繋がれている書物もあった。安易に持ち出されるのを防ぐための措置だ。


『私は、自らを王子だと認識するのに、少しばかり時間が必要だった。この国を継ぎ、営む男子は私しかいないと骨身にしみてわかるまでは、本当は歴史学者になりたかった。幼いころの、愚かな夢だ』


 ジニアは本を持ち上げる。ちゃり、と鎖が鳴る。


『知らぬ間に、私は王家の人間として生まれていた。そなたもそうだろう。生まれる前に、望んで貧しい貴族になりたいと、願ったわけではあるまい? そなたを馬鹿にしてきた家格の高い貴族たちも、たまたまその家に生まれただけだ。人の力ではどうしようもない、神だけが成し得る偶然だ。だがその、どこの血筋を継ぐかという神の采配が、時には重大な意味を持つ』


 アミアンは、いつの間にか頭をあげてジニアの背を見ていた。ちらりと彼が背中から視線をよこしても、非礼だと理解しつつも、愕然とこの国の王子を見ていた。


『そなたに高貴な血筋さえあれば、このような愚かな茶番はなかったのに。足りぬのはただそれだけだ。カレンデュラの降嫁を一考できるほどの、大貴族でさえあればよかった』


 惜しいな、と続けたジニアの一言に、どんな思いが含まれていたのか。

 失望か。あるいはいと高き者特有の、下々の者に対する無自覚な侮蔑だったのだろうか。


(僕のこの思いは、あなたからすれば茶番か)


 この身を焦がす、命さえかけてもよい程の恋だ。同時に愚かだと一蹴されて、他者から踏みにじられる恋でもあった。


(たとえすべての人たちが間違っていると責めようとも、僕はカレンデュラ様を愛し続ける。もう二度と、会えなくたって……)


『殿下、ここにおいででしたか!』


 ジニアの部下の一人が、息をきらして駆けこんでくる。本を戻したジニアは、その慌てように眉をひそめた。


『どうかしたか?』

『早馬が先程到着しました。ヴィクライ国が休戦協定を無視し、国境を突破。既に砦がいくつか破られているとのことです!』

『何?!』

『おまけに奴らは、魔物を従え攻撃に使っているとの情報もあります。殿下、これは未曾有の危機と言っても過言ではありません!』


 早々に去っていくジニアとその部下の背中を、アミアンは立ち上がり見送った。


(ヴィクライ国が、どうして今攻めてきたんだ?)


 思い出すのは数ヶ月前、たった一度きり会い言葉を交わした、美貌も武勇も兼ね備えた黒太子だ。

 アミアンと同じ想いをカレンデュラに向け、強引に彼女に触れていた、不届きな憎い男。


 自分がたんなる貴族でなければ切りつけてやりたいほどに、あの時のアミアンは怒りに燃えていた。

 その時の熱さが胸の内でよみがえり、苦みと混ざり合う。


(ソティス黒太子がカレンデュラ様に触れても咎められないのは、俺には決して手に入れられないものを、生まれながらに持っているからだ)


 しばらくして、アミアンは自嘲する。静かな作業部屋に、つぶやきが落ちた。


「永久に手に入らないものに焦がれて、これからの人生を送るのか」


 果てしない道だとは思うが、辛くはない。


 カレンデュラを愛した、あの悩ましく幸せだった短い期間。

 その思い出を抱きしめていれば、きっとこの先の人生を生きていくことができる。


 いつか<光の子>を辞した彼女がどうなろうと――たとえ他の男に嫁ごうと、過去は誰にも捻じ曲げることはできない。


 カレンデュラと自分は、間違いなく愛し合っていたのだから。


○○


「やめてくれ……こんなものを見せられたって、俺にはどうにもできない」


 一馬は夢の中で力なく叫んだ。胸を押さえ、灰色の空間で体を丸める。


 ここ数日で様々なことを、一馬は思い出していた。


 今日見せられた夢は、ヴィクライ国のソティス黒太子がトゥデヤン国に攻めてきた最初の頃のこと。


 この後一度は停戦となったものの、春が来る前にソティスは再びトゥデヤン国を攻めた。

 彼が二度目に進軍する先は、王宮と神殿だった。


 アミアンは気もそぞろになりながら、貴重な文書を守るべく奔走していた。しかしアミアンの胸の内を察したシャンリィは、アミアンの自由行動を許可してくれた。


 他国の兵と数体の魔物に荒らされたせいで、混乱が極まりつつある神殿へかけつけ、二度と会うことはないと思っていたカレンデュラのため、ひたすら剣をふるった。


 だがアミアンは何も守ることができず、絶命した。


 一馬は胸の上に当てた手で、服をきつく握りしめる。


「違う。この悔しさや悲しみは、俺のものじゃない。俺になる前の、アミアンのものだ」


 何度もそう言い聞かせるが、次々と溢れてくる感情に呑まれそうになる。

 脳裏で、瑠璃とカレンデュラの姿が重なり、首を振った。


「カレンデュラのことが好きなのは、アミアンだ。そう、アミアンなんだ。俺じゃないんだよ」


 深い息を吐いて、頭を抱える。

 しばらくすると目の前に誰かが立っているのに気がつき、顔をあげた。


 そこにいたのは、アミアンだった。

 かつては自分だったが、今ではれっきとした別人だ。


「どうして現れたんだ。もう、成仏してくれよ」


 と言っておいて、向こうの世界に仏教なんてものはないから、成仏という単語は通じないだろうと一人で突っ込みを入れる。


 アミアンは静かに口を開いた。


「また、カレンデュラ様を守れないかもしれない。それでもいいのか?」

「いいわけ、ない」


 一馬は唸る。瑠璃には、助けてもらってばかりだ。星を手にした彼女と違い、自分には戦う術も身を守る方法もない。


 このままでは玲旺那に付け込まれ、瑠璃が泣く羽目になるかもしれないのだ。最低限、彼女の足を引っ張るようなことにはなりたくない。


「月影に対抗できるならしたいよ。でも俺は一般人だ。前世の記憶を思い出しただけの」

「じゃあ、僕を受け入れるんだ」


 アミアンは有無を言わさず、一馬の片手をとって握り合わせた。


 感覚のない夢の中のはずなのに、繋がった手のひらがじんわりと温かくなる。

 そこから淡い光が生まれ、やがて網膜を焼き尽くす程の明るい光の球が生まれる。


 背筋に、恐れが波のように駆け抜ける。身を引くが、アミアンは手を放してはくれない。


「お前を受け入れても、俺は、俺のままなのか?」

「よくわからない質問だな。君は、僕でもある。今の自分が保てるかどうかは、僕を受け入れてみてからわかることだ」

「……それ以外に、選びようがないんだな」


 力を得るためには、目の前の青年の言うことを聞くしかなさそうだ。


 膨れ上がる光球に呑まれながら、一馬は目をきつく閉じた。




 まだ夜の闇に沈む自室で、緩慢に身を起こす。


 徐々に夢の内容が鮮明になっていき、アミアンに握られた方の手を掲げた。

 一見、何も変化はなさそうだ。気分も体調も、いつもと変わりないように思える。


(これでどうなるんだ。自分自身を、穂積さんを、守れるのか?)


 長く息を吐き、くたりとベッドに倒れ込んだ。


 夜明けが来るまで、まだ時間がかかりそうだった。

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