ACT3 少女は少年と出会う
気がつけばもう二学期だ。今日は始業式。
昨日夜遅くまで宿題と向き合っていた私は、眠い目をこすりながら登校した。クラスメイトの中には、程よく日焼けしている子もいる。あの子は運動部じゃなかったと思うから、海にでも行ったのかな。
私は部活があったから、海まで遠出しようなんて思わなかったな。午前中で終わる日ばっかりとはいえ、一日休みと半日休みって、感覚が違うんだよね。
そんなことを、机に頭をのせながらぼんやり考えていると、肩をたたかれた。
「瑠璃、おっはよー! 元気にしてた?」
満面の笑みでハキハキした声。友達の東堂花菜子だ。この声、久々だなあ。
「おはよ、花菜子」
「もうー、私心配してたんだよ。瑠璃は今年もまた宿題を終わらせてないんじゃないかなって。どうなの? ちゃんと全部できた?」
「うん、一応。でも、すごく眠いんだ」
「そうなの? 大丈夫?」
「うん、今日は授業も少ないし、きっと何とかなるよ」
あくびをかみ殺しながら、私は笑った。やっぱり、頭が少しぼうっとする。
「なんか不安だなー。保健室で寝てくれば?」
「本当に大丈夫だよ。平気だって」
そこで始業を告げるチャイムが鳴って、先生が教室に入ってきた。
久々の再会で騒いでいたクラスメイトたちは、まだ話し足りないのにと、名残惜しそうにそれぞれの席につく。
新学期のあいさつと出欠確認がすんで、担任の平井先生は言った。
「知っている人も何人かいると思うけど、今日からクラスメイトが一人増えます」
その一言でみんなは興味がわいたのか、少し騒ぎ出す。知っていると声をあげた人もいたけど、転校生が来るなんて私は知らなかった。
「廊下で待ってもらってるから、早速入ってもらうね」
どうしてだろう。背中に、突然悪寒が走った。
「北斗君、どうぞ」
みんなは教室の入り口に視線をそそぐ。私も、教室にゆっくり入ってきた男の子から、目をそらせなかった。彼が教壇の近くに立ち、先生は黒板に名前を書く。
『北斗一馬』
北斗君は、ずいぶん落ち着いていた。四十人近くの人間に見られているのに、気後れする素振りをひとつも見せない。
ぴんと伸びた背筋は、彼の気まじめさをあらわしているよう。これから溶け込まないといけない教室内を、ただ静かに、切れ長の瞳で見ている。
と思えば自己紹介の時に、ふわりと表情がやわらかくなった。
「はじめまして。北斗一馬です。これからよろしくお願いします」
低いけど、よく通る声だ。なぜだろう、それを聞いて、また悪寒が走る。
この子とは今日初めて会ったのに、とても嫌な予感がする。
何の偶然か、北斗君と目があった。その瞬間、脳裏に夢の光景が浮かぶ。
黒い服を着た男の子。口元に笑みを浮かべ、短剣を振り上げる彼。
まさか…。
予感は確信に変わった。この子は、あの夢の中の男の子だ。笑いながら私を殺そうとする、あの子に違いない。
いつの間にか眠気はどこかに失せて、頭はぐちゃぐちゃに混乱していた。クラスのみんなが北斗君へ向けた拍手の音が、耳にいつまでも大きくこだまする。