ACT16 少女は思いもかけずに
着替えをすませ、クラスの方へ行かなきゃいけない部員以外で後片付けをして、私は暇を持て余していた。
玲旺那君はもちろんのこと、知尋も自分のクラスの方へいっている。花菜子は同じクラスだけど、当番だから一緒に行動できない。
友達の少ない私は、誰ともつるまずに一人きりでふらふらしていた。おなかが空いたので、焼きそばを売っている教室に入り、もくもくと食べる。
あーあ。人ごみって、苦手なんだよなあ。
文化祭前の熱気はすごく心地いいんだけど、いざ当日となると、何だか気後れして楽しめない。
ほかの人が騒ぎに浮かれて、高揚して楽しんでいるのをみると、私ってなんて冷めてるんだろうと思う。
スカートのポケットに手を入れる。指先に、チェーンがふれた。そのまま探って、小さな星の輪郭をなぞる。特にその行動に意味なんてないんだけど、ただ手が伸びた。
そして、先輩の言葉を思い出す。
――身につけていなきゃだめ。
――そうしないと、あなたが危ないわ。
身につけなきゃいけないってことは、首にかけなきゃいけないってことかな。
いつもそうしてろって、何で?
でももう一度そのことを聞いたって、答えは返ってこないだろう。
だって先輩は、私を呼び出してこのペンダントを渡した記憶なんて、無いんだから。
そういえば別の女の人の声で、「感づかれる」とか言ってたような。「逃げなきゃ」も、言ってた。
感づかれるとか、逃げるっていうのは、誰か警戒しなきゃいけない人がいるってこと?
首をひねった。一つのことが頭に浮かぶ。
「あの、夢の中の男の子……?」
でもあの子は昨日の夢の中で、自分で自分を刺してしまった。
それに、私は今では確たる自信を持っている。男の子は、私を傷つけることはできない。
つまり、何ていうか変な言い方だけど……あの子は敵じゃないと思う。
じゃあ、誰?
……はあ。私ったら何やってるんだろう。こんな答えの出ないことを、悶々と考えるなんて。
あれこれ思いをめぐらすのが億劫になって、知らないうちにため息をついた。
ふと、視界に見知った顔がある。
そのほうに瞳を吸い寄せられた。
北斗君だ。朝見かけた男子達と一緒にいる。みんな、焼きそばを頬張りながら楽しそうに談笑していた。
今朝の不吉な予感が、再び胸をよぎった。
そう、私は、あの夢を見た後、強烈な不安にさいなまれたのだ。
なぜだかはわからない。根拠なんてないけど。
北斗君が危ないと、そう思ったのだ。
夢の中の男の子が流した涙。さようならという言葉。思い返すだけで動悸が早くなる。
北斗君。
私は朝飛び起きた時と、同じくらい焦った。
だめ、北斗君。
あなたに、何かが起こる。そんなの、だめ。絶対に、だめ。
私は、朝よりも必死で切実だったから、数瞬の間、我を忘れていた。
そして。
「……穂積、さん?」
名前を呼ばれてやっと、とんでもないことをしてる自分に気がついた。
何で、北斗君の肩に手を置いてるの?
何で、北斗君とこんな近距離で顔を突き合わせているの?
がちがちに固まった状態で後ろによろめいた。北斗君とクラスの男子二人が、あっけにとられた顔をして私を見ていた。
とりあえず、叫ばなかっただけ賢明だっだと思う。そういうことにしておこう。