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ACT14 翌朝、学校で

 駆け足で教室に飛び込むと、早い時間帯にもかかわらず、何人かが既に飾り付けのチェックや商品の確認をしていた。息を乱したままあたりを見回すと、二人の男子と一緒にいる北斗君が目に飛び込んできた。


 窓に張り付けてあった飾りがとれたのか、形を整えながらガムテープで再びくっつけている。談笑しながらの作業で、楽しそうだ。そういえば北斗君は、転校してきてから日が浅いせいか、文化祭で浮足立つクラスに溶け込むのに苦労している感じだったな。


 でも今は、笑っている。

 私が感じた不吉な予感なんか、全くの無意味だとでもいうように。


 ちょっとだけ安心した。

 そうだよね。何であんなに焦ってたのかな、私ったら。


 なんだか気が抜けて、自分でも無意識のうちに鼻で笑ってしまった。


 それから私は講堂へと向かう。


 今日の公演は午前中にあるから、すばやく準備をしないといけない。扉を開けてそっとのぞくと、顧問の先生や部員のみんなが見守る中、玲旺那君と若山先輩が二人だけのシーンの確認をしていた。


 慎重に扉を閉めつつ、講堂の中に入る。知尋と越乃先輩が駆け寄ってきたのが同時だった。


「先輩、おはようございます。知尋もおはよう」


 越乃先輩も小声で、おはようと返してくれた。知尋は朝のあいさつそっちのけで、私の顔を窺うようにじろじろ見てくる。


「ちょっと知尋ちゃん。そんなに熱心に見つめたら、瑠璃ちゃんが照れちゃうでしょ」


 越乃先輩は、笑顔でちゃかすように言った。でも言われた知尋の方は、沈んでいる。


「だって、心配なんです」


 ぽつりと言った彼女が、今にも泣きだしそうだ。


「瑠璃、ごめんね。昨日苦しそうにしてたのに、何もできなくて。やっぱり、無理にでも止めればよかったよ」

「そんなこと言わないで。知尋のせいじゃないんだから。私のほうこそ、みんなもお客さんもびっくりさせちゃった……」

「それこそ、気にしなくていいんだよ? 仕方がないじゃん、いきなり体調が悪くなったんだもの」


 胸が痛んだ。知尋は、私なんかのためにこんなに心配してくれている。

 私は知尋に感謝の気持ちと、もう平気という意味を込めて、笑った。


「大丈夫。昨日たっぷり寝てもう元気いっぱいだから。ちゃんと今日も舞台に立つからね? 止めたって無駄だよ」

「でも……」


 それでも何か言い募ろうとする知尋の肩に、越乃先輩が手を置いた。


「いいじゃないの。ここは、瑠璃ちゃんの役者魂に免じて応援してあげましょ、ね? 甘やかしすぎるといい子に育たないのよ」


 越乃先輩はありがたいことを言ってくれたけど、最後の単語は何?


「……先輩、なんですかいい子って? 私は知尋の子供ですか?」

「そうよ。瑠璃ちゃんは子供。知尋ちゃんがお母さん。私がお父さん」


 さもあたりまえのような口調だ。そういえば、越乃先輩はテンションが高いと変なことを言う人だったな。


 ちょうど、舞台で最後のシーンの確認が終わった。緊張が解けた舞台から、玲旺那君がやってくる。


「穂積さん」


 部活内では、玲旺那君は私のことを穂積さんって呼ぶ。付き合う前と同じように。だって、部内恋愛禁止なのに恋人同士だってばれるわけには、いかないから。


「玲旺那君」


 ちなみに私はもともと玲旺那君って呼んでたから、こっちは意識することないんだけどね。


「瑠璃」


 知尋が急に、私を呼んだ。振り向くと、宝物を見つけて喜んでいる子供みたいににやにや笑って、それから越乃先輩と一緒に舞台裏を手伝いにいってしまった。


 何だろう。今のは。知尋の意図するところが全然わからない。


「大丈夫?」


 玲旺那君は、砕けた明るい調子で聞いてくる。これがいつもの、部活での玲旺那君だ。私は目を合せるのが急に恥ずかしくなって、うつむいて返事をした。


「うん。たくさん寝たし、もう平気」


 顔の温度が、だんだん上昇してくるのがわかる。心臓も、いきなり自己主張してドキドキ言い出した。

 やっぱり、昨日のこと……あのキスのことを考えたら、目を見て話せないよ。


 ちょっと玲旺那君は考えるように黙って、口を開いた。小さくて低くて、そして心底落胆したような声。


「俺、午後はクラスの出し物の当番なんだ。スケジュール一緒になれなくて、ごめんな」


 玲旺那君は、今日の午前に公演をした後、午後はクラスで裏方をしなくちゃいけない。ちなみに玲旺那君のクラスの出し物は、迷路だ。


 私は昨日の午前中が当番だったから、今日の午後は自由なのだ。文化祭は二日間あるんだけど、本当なら二日間とも、午前か午後に店番をしなきゃいけない。


 でも私は、クラスのみんなの好意で店番を一日だけにしてもらった。これはとってもありがたい。そうじゃないと、自由時間がゼロなんてことになるんだから。


「ううん。しょうがないよ」

「でも俺、一緒にいたかったよ」

「……ありがと」


 こんなやりとりですら、嬉しい。

 やっぱり私、玲旺那君が大好きなんだな。


 そして開演準備が始まった。

 役者はメイクと着替え。裏方はセット、小道具の確認。照明や音響は最後までチェックを怠らない。先生の指示が、講堂にこだまする。


 開演三十分前、お客さんが入ってきた。

 役者は舞台袖にそっと移動して、幕が開くのを待つ。


 私は頭の中で、ひたすら自分が出る場面を思い浮かべ、台詞を繰り返していた。いつものように、演じるために集中する。


 だから若山先輩が声をかけてきても、すぐに反応できなかった。


「ごめんね。もうすぐ開演するのに」


 若山先輩は申し訳なさそうに言って、私に耳打ちする。


「公演が終わった後、ほんの少しでいいの。話がしたいの」


 若山先輩は、私の返事を聞かなかった。まるで私の都合なんか無視してるかのように、さっさと立ち去ってしまう。


 何だか、いつもの先輩らしくなかった。

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