ACT13 少女の夢で、何かが変わる
茫漠とした眠りの世界から、ふっと意識の焦点があったとたん、あの夢だとわかった。
後から気がついたことだけど、そんなふうに思ったのはこのときが初めてだった。
そして私が、いつも同じように繰り返される夢に、干渉したことも初めてだったんだ。
平面なのか立体なのかさとらせない暗闇。その中に、一筋の光。私は自分を包み込む巨大なシャボン玉に触ろうとして、そして男の子に気がつく。
ああ、いつものあの子だ。そしてあの子が駆け寄ってくるその間、私は不吉な予感にさいなまれる。けれどなぜか今回は、また別のことも感じていた。
私は、この男の子に似ている人を知っている。
その人は、転校生。私のクラスメイトだ。
私は、立ち止まった黒ずくめの男の子をじっと見上げていた。男の子が、何かを言う。そして、握られていた短剣が獲物を欲して光る。口の端を吊り上げて、ほほ笑む男の子。
けれど私は、別段怖くなかった。だって、私はこの子には絶対刺されないのだから。
でもそれは、夢から醒めるからという確信があったわけじゃなくて、とてつもない自信があったせいだ。
この子は絶対に、私を刺せない。
私に危害を加えることが、できない。
少し躊躇したけど、思い切って声を出す。
「あなたは、誰?」
とたん、男の子が振り下ろそうとしてた腕を止めた。フードをかぶってるせいで口から上が見えないのだけれど、私は、彼が驚愕に瞳を見開いたような気がした。
「あなたは誰?」
さっきよりも、強い口調で聞いてみる。
男の子は、動かない。腕が中途半端な位置のままで。小刻みに震えたままで。口元が、あきらかにわなないている。
「……どうしたの?」
私が言ったのと同時だった。男の子は急に口を大きく歪めて膝をついた。声は聞こえなかったけど、たぶん彼は、泣いているのだ。頭を抱えたり身をよじる様子から、想像できないくらいの激しい慟哭が、彼を支配しているんだろう。
でも私には、なぜ男の子がこんなことになってしまったのか理解できなかった。
男の子はひたすら嘆き悲しんでいる。一体どうしたんだろう。私には、何がなんだか全くわからない。
ひたすらうろたえる私に向って、急に糸が切れたようにおとなしくなった男の子が、何かを告げる。
もう何もかもに力尽きたように。
それは、別れの言葉だ。
ただ一言、唇が動いて「さようなら」、と。
その頬には、涙が流れていた。
そして私の目の前で、短剣は男の子の手によって、男の子の胸に突き刺さった。
けれど血を見ることはなかった。
私が悲鳴を上げながら、いつものように目を覚ましたからだ。
心臓がばくばく動いていて、息も荒い。
ベッドに身を起したまま、夢の余韻の冷たさと不吉さにおびえていた。
今のは何なの?
どうして私を刺そうとしていたあの子が、自分を刺してしまうの?
それに、泣いていた。
「さようなら」って、言っていた。
ある転校生の顔が、脳裏に浮かぶ。
私は不安に突き動かされるまま、慌ただしく学校へ行く支度を始めた。