ACT12 少女と二人と
「穂積さん」
確認するようにもう一度言うと、北斗君は私のもとに歩み寄ってきた。喉の奥がひきつる。
彼から少しでも後ずさろうとしたけど、それは何だか変な気がしたから、頑張ってその場に踏みとどまった。でも、体が震えてどうしようもない。
私と北斗君との距離があと数歩で消滅するというところで、玲旺那君が私の前に立ちふさがった。
玲旺那君の背中越しから、北斗君を見る。北斗君は、私と同じように、突然割りこんだ玲旺那君に虚をつかれたような顔をしてたけど、すぐに気を取り直して言った。
「あ、ごめん。ぶしつけだったかな?」
申し訳なさそうにはにかみながら、私を見る。たぶん今のは、私に向けて言ったものなんだ。
返事をしようとしたけど、先に玲旺那君が口を開く。
「瑠璃が震えてるのが、わかんなかったのか?」
静かで落ち着いた声だ。でもその中に、怒りにも似た感情がこもっている。さっきの保健室と同じで、いつもの玲旺那君らしくない。
あれ、私って傍から見てわかるくらい、大げさに震えてたかな?
「用がないなら、無意味に近づくな」
「いや、俺はただ、穂積さんはもう大丈夫なのか気になって……それだけだよ」
二人の間の空気が、どんどん気まずいものになってる。北斗君は、玲旺那君からまた私に視線をうつした。無言で、何かを問いかけてくるみたいに。
北斗君と目が合った、その一瞬。私は、恐怖以外の何かを感じた。
これまでは、彼が夢の中の男の子と似ているから、命を狩られるかもしれないという本能的な怖れだけがあった。
だけど、今体中で感じたものは、何だろう。
彼のその瞳には、私を気遣ってくれていることがよくわかる、温かさであふれている。
この感覚は、私だけ? それとも、北斗君も?
まるで唐突に、二人の間に磁石が出現したみたいだ。
抗う間もなく、強烈に引っ張られてしまう。
「瑠璃ならもう大丈夫だ。行くぞ」
玲旺那君は切り捨てるように言うと、硬直したままの私の腕をとり、歩きだした。
強引に引っ張りながらどんどん進むから、私は玲旺那君について行かざるをえなかった。前を向いて歩きながら、後ろの方にいる北斗君のことを考える。
北斗一馬君は、転校生。夢の中の男の子に似ている。
ただの直感でそう思った。少しだけ交わした会話。彼の温かい瞳。それらが、頭の中をぐるぐる巡る。
……わからない。
何なんだろう。
一体、どうしちゃったんだろう?
恐怖以外の何かを感じた。それは、何?
彼から感じる何か、の、正体は何?
ねえ、北斗君。
あなたは、一体、誰なの?
私は、自分の考えに没頭していた。
だから、玲旺那君が一度だけ小さく舌打ちしたことに、とうとう気がつかなかった。