晴れた空の下
「明日晴れたらいいね」
そればかり、まるで呪文のように唱えていた。
「明日は雨だって」
呪文にまぎれ合いの手のように呟くその声は、回数を追うごとに笑みを含んだ。
「告白された」
そう言ったのは、友達の祐樹だった。
男女間に友情はないと、世は常に疑いの目で私たち二人を包むけれど、気にはしないという祐樹の一言があるおかげで、私も常に、気にはしないと呟けている。
「そうなんだ」
「そうなんだよ」
その表情は、困ったというわけではなさそうだった。しかし、嬉しいといった感情でもなさそうだった。
「それで、どうするわけ?」
大して興味なさげに呟く。勿論興味はまるきしないわけではない。
「付き合うんだろうな」
人事の様である。
「大事にしてやんなよ」
「大事にはできないだろうな」
私は頭を抱えた。
この男は、本当に思っていることを正直に言う。
自分の欠点だとはまるで思っていない。
「嘘でも大事にすると言っておけばいいのに」
「嫌、俺は嘘はつかない。本人にも、大事にはしないと言った」
その女の子の心情を思うと、自分の事の様に申し訳なさが溢れ出たので、考えるのをやめた。
「嘘も方便だ」
「それでも嘘は嘘だ」
正論だが、相変わらずこの男は頭が固い。
自分を曲げない、それでいて実はとても脆い。
当って砕けろ、いや、当たる前に風圧で粉々になり触れることすらかなわない。
そういう男だ。
だから自分の周りを鉄壁で囲み、いつでも確実に壁をぶち破ってきた。
そういう男なのだ。
今回も、付き合いを始めるにあたって、あらかじめ「大事にはしない」と鉄壁を用意し、そして挑むのだろう。
そしてその鉄壁はいつの間にやら、攻撃力やら守備力やらをレベルアップさせ、壁は自ら消えていくのだろう。
「明日は初デートだそうだ」
相変わらずである。だれの事だと思ってるのやら。
「そう、晴れたらいいね」
「明日は雨だそうだがな」
そして、延々と言い続けることになるのである。
「明日晴れたらいいね」
本当に晴れたらいい。
そして晴れた青空の清々しさの中で、貴方自身を晒し出してくればいい。
壁は自ら消えていくだろうか。
もしそうだとしても、私がいればいいだけなのだ。
明日、晴れたらいいのだ。




