もう一つの世界
朝、四時、俺はPCを眺めていた。
女の裸が映っている。
別に興奮はしない。
ペニスは萎れている。
もう五時間くらいか。
目がつかれてきたな。
PCを閉じようと電源ボタンに手を伸ばした。
何かが、ふっと頭を横切った。
誰かとすれ違うような、目の端で物が落ちるような、か弱い妄想だった。
相変わらず、俺は部屋にいる。
ゴミ袋が敷き詰められた床、虫がうろつくカサカサという音、スクリーンに張り付けられた女の肢体。
だが、画面が暗くなったとき、そこに映っていたのは今の倍ほども顔が膨れた俺だった。
無精ひげが顔を覆っている。
眼鏡のレンズが、フケで白く染まっている。
片目の瞼が落ちている。
一瞬誰かわからなかった。
でも、それは俺だった。
顔以外の何もかもが同じ状況だったのだ。
窓の外は暗い。
カエルの鳴き声がうるさい。
時計を見ると四時だった。
部屋の明かりはチカチカとしており、ときどき妙に明るくなるのがうざかった。
スクリーンに目を戻すと、ブサイクな女の裸が映っていた。
顔は腫れ物だらけで太っていた。
こんな女優がいるはずはない。
いたとしてもそんな動画見るはずもない。
どういうことだろう。
画面の上橋に出ているバナー広告も、見たこともないほど太っている女が、真円になるほど見開いた目でこちらを見つめていた。
気持ち悪かった。
俺は股間に手を伸ばした。
ズボンはぐにゃりとへこんだ。
そこには何もなかった。
もう一度触った。
右足の根本から、股の間、左足の根本へと順番に人差し指でなぞっていった。
そこには何もなかった。
笑みがこぼれた。
わけがわからなかった。
「わわわわわ」
口から何かがもれた。
言葉のようだが、本当にそうなのかはわからなかった。
それに近いものだとはわかった。
俺は立ち上がった。
一歩、足を前に出した。
何かがあたった。
指先がひんやりとした。
下を向くと、茶碗がひっくりかえっていた。
味噌汁が床に溢れて大きなシミを作っていた。
頭に浮かんだのは母親の顔だった。
それだけだった。
俺は立ち尽くした。
なぜこうなったのか考えた。
どこで道を踏み外したのだろうか。
真っすぐ歩いてきたはずなのに。
気づかぬうちに方向感覚を失っていたのか。
わからない。
壊れたモーターのように頭は固まっていた。
脳に接続された血管に泥水でも詰まっているのだろう。
俺は考えるのをやめた。
床にしゃがみ、ぐちゃぐちゃになった豆腐に手を伸ばした。
崩れたそれはつまんでもつまみきれなかった。
だから、俺は食べるのをやめた。
俺はその指を口に突っ込み、立ち尽くした。
なぜこうなったのか考えた。
どこで道を踏み外したのだろうか。
真っすぐ歩いてきたはずなのに。
気づかぬうちに方向感覚を失っていたのか。
わからない。
壊れたモーターのように頭は固まっていた。
脳に接続された血管に泥水でも詰まっているのだろう。
俺は考えるのをやめた。
床にしゃがみ、ぐちゃぐちゃになった豆腐に手を伸ばした。
崩れたそれはつまんでもつまみきれなかった。
だから、俺は食べるのをやめた。
俺はその指を口に突っ込み、立ち尽くした。
なぜこうなったのか考えた。




