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警護組織イージス~人を護れなかった僕は、誰かを護る盾になる~  作者: ゆる弥


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22/35

22.何のために?

 その日は昨日の依頼が早く片付いたために休みになり、部屋で過ごしていた。


 ───ピンポーン


「んあ?」


 誰かが分からなかったため、玄関の鍵をかけたまま様子を見る。

 外に立っていたのは恵美さんだった。

 不思議に思いながらも開ける。


「あれ? 今日休みって言ったっけ?」


「んふふ。なんかそんな気がしたのよね! 凄くない?」


 何やら買い込んできてくれたみたいで上がって冷蔵庫に野菜やら肉やらを入れていく。

 なんか研修の時みたいだな。買い物をほぼしてないのに冷蔵庫が充実している。


「……本当ですか? なんか仕込んでませんよね?」


「んー。実は、内緒で携帯にGPSで位置情報見れるやつ入れたんだ」


「怖っ!」


「だってぇ。心配なんだもーん」


「だからって、やっていい事と悪い事がありますよ!」


 監視みたいなことをされるのは束縛しすぎだろうという意味で言ったのだが、当の本人は首を傾げている。


「何が悪いの?」


「GPSはやり過ぎじゃないですか?」


 眉間を抑えながらそう質問する。

 頭が痛くなってきた気がする。

 こんなに束縛されるなんて。


「そうなの? 私はいつも入れられてたから普通なんだと思ってた」


「ふ、つう?」


 僕がおかしいのか?

 この一年は確かに世間と離れた生活をしていた。その間に世の中はそんなに変わっちまったというのだろうか。


「まぁ、いいでしょ? こうして遊びに来れたんだし。それとも、私が来たら嫌?」


 体を密着させて上目遣いで聞いてくるのは反則だと僕は思う。

 そんな聞かれ方したら嫌だなんて言えない。

 というか言う気はないけど。


「いやな訳では……ないですけど」


「ふふふっ。よかったっ! ねっ、朝ご飯食べた? このパン美味しいの。ここのパン屋さん朝早くからやってるのよ?」


 恵美さんは朝ご飯にとパン屋さんで何個かパンを買ってきてくれたみたいだ。

 パン屋さんのパンを食べるのなんて何年ぶりだろうか。

 子供の時以来じゃないかな。


「あっ、コーヒーとかあるかしら?」


「インスタントなら」


『───の医者の自宅に何者かが押し入り、殺害されているのが見つかりました。事件が起きたのは今日未明───』


 テレビ画面に映る亡くなったとされる写真は昨日まで護衛していたあの嫌な男の顔だった。

 

 あの男が殺された?

 一体誰に?

 あの女の人は確保したのに。


 待てよ。もしかして組織との契約は続行されていたのだとしたら。そしたらあの女が捕まろうが関係なく襲撃は実行されるんじゃないだろうか。


 昨日の時点で切り上げるのは時期尚早だったんじゃないか。

 俺は気がついた時には携帯を取り出し、流さんに電話していた。


『なんだ? 今日は非番だぞ?』


「ニュース見ましたか?」


『あぁ。お前の嫌ってた医者。殺られたな? よかったじゃないか』


「切り上げるのは早かったんじゃないですか!?」


『俺達は依頼人から契約解除されたんだ。その時点で何も出来ないんだよ。脅威は去ったと思われたんだ。こういう事もある。ゆっくり休め。来週からはララさんとこだ。あそこは男がいくとキツイぞ? じゃあな』


 一方的に要件を告げると切られてしまった。

 その辺が流さんらしいが、こんな契約解除後にすぐ殺されるなんてそんな事があるという事実に愕然とした。


 昨日まで護っていた人が急に今日死ぬなんて。

 現実が信じられない。


「はぁぁぁ」


 眉間を抑えてしゃがみこむ。

 

「この人、護衛していたのね?」


 恵美さんが精一杯の気を使った声で気にかけてくれている。

 優しい母性が溢れるような包み込むようなそんな声だった。

 僕は甘えたくなってしまった。


 まさか、護衛の仕事をしていてこんな暗い気持ちになるなんて。


「そうなんだ。昨日まで俺達が護衛してて。けど、あっちから契約解除されたからどうしようもなかったみたいなんだ」


 あまりこういうことを一般の人に話してしまってはダメなのだろう。守秘義務というものがある。

 下を俯きながら目を手で覆うように隠すと目から滴が溢れてきた。


「僕ね、そいつが気に入らなかったんだ。だから、護衛中もなんでこんな奴を護らなきゃいけないんだとか。こんな奴襲撃されればいいと思ってた。最低だ。何のためにこの仕事についたのか分からないですよね……」


 僕の体を柔らかくて少し小さい身体が包み込んだ。


「そう思うのは人間だから仕方ないよ。嫌いな人がいない人間なんか居ないんじゃない? そう思ったことと、今回殺されちゃったことは関係ないよ。亮のせいじゃないわよ。襲ったやつが悪いんでしょ?」


 その言葉が俺の中に染み込んでいった。

 そうだよな。できることからやるしかない。

 目を拭うと顔を上げた。

 すぐ近くに恵美さんの顔がある。


「少しは頭の整理が出来たかしら?」


「はい。ありがとうございます」


「ならよかった。パン、食べない?」


「いただきます。これ貰っていいですか? それで───」


 この日、俺は恵美さんに救われた。

 僕一人でこの事実に直面していたら今の仕事をする意味が見いだせなかったかもしれない。


 警察官ではないから組織を捕まえることは出来ない。

 灯を殺したアイツが組織にいるかもしれない。

 だとしたら、追う意味はある。

 

 襲い来るヤツらはコテンパンにのしてやろう。


 この週末は恵美さんと買い物に行ったり映画を見たり、ゆっくりとした休日を過ごしたのであった。

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