可愛い後輩
優しい先輩と可愛い後輩
「え、ちょっと、どうしたの?!」
「せんぱい…」
連絡を受けて待ち合わせた相手の姿に驚いて声を上げる。
白のブラウスにレースをふんだんに使った淡いブルーのスカート。俗にいうロリータファッションに身を包んだ小柄で可愛らしい後輩。
その胸元が大きく破かれていて、ブラウスのボタンがところどころとれてしまっていた。
それを隠すように胸元を押さえて俯いている。
慌てて自分の着ていたカーディガンを羽織らせて、顔を覗いた。
「どうしたの、何かあったの…」
「…さっき急に声かけられて、一緒に遊ぼうっていうから断ったんですけど…無理やり手を引っ張られて連れてかれて…路地裏で…」
小さく震える声で話される内容に怒りが芽生える。
なんてことをするんだ、信じられない。
後輩の背をそっと撫でる。わずかに震えているのを感じて心が痛んだ。
「ブラウス、破かれて…男だってわかったら突き飛ばされちゃいました」
「…怖かったね…許せない」
後輩…愛斗は男の子だ。性別も性自認も男だけれど、女装趣味があって基本可愛らしい格好をしている。
本人も可愛らしい顔立ちでよく似合っているため、勘違いされてこういう目にあうことも稀にあった。
男だから傷つけられていいわけはない。格好だって、このご時世は自由なのだから。
「怪我はしてない?相手の男の顔覚えてる?警察行こうか」
「ううん、大丈夫です…もう会わないと思うし。突き飛ばされたときに背中を打ったけどそこまで痛くないですから」
「念のため見せて」
といってもここで脱がすわけにはいかない。
家まで行くわけにもいかないし…と考えて、駅前にネットカフェがあるのを思い出した。
「ごめんね、少し移動しよう」
「…はい」
カーディガンを着せて前のボタンを閉めれば胸元は隠れた。よかった。
歩き出そうとすると愛斗がそっと手を握ってくる。
「…ごめんなさい、先輩」
「マナは悪くないでしょ。大丈夫だよ」
申し訳なさそうにする愛斗に笑いかけて、ぎゅっと握り返し目的地へ向かった。
ネットカフェの個室を借りたはいいものの、私は完全に逡巡していた。
「……ごめん、なんか私がセクハラしてる気分になってきた…」
怒りと心配の勢い任せでここまで連れてきてしまったが、年下の男の子に密室で脱げというのも…なんというか、私が犯罪者では…?
私の言葉に困ったように笑う後輩。
「あはは、先輩にそんなこと思いませんよ。ちょっと恥ずかしいけど…」
「ご、ごめんね?無理にとは言わないんだけど」
「いえ、確かに背中痛いので…確認してもらっていいですか?」
そういうと、おずおずとこちらに背を向けブラウスを脱いで、キャミソールを背中が見えるようにたくし上げてくれる。
真っ白な背中、右の肩甲骨のあたりに痣ができていた。
「…痣になってるね」
「やっぱり。どの辺ですか」
「えっと…ごめん、触るね?」
このあたり、とそっと右の肩甲骨に手を添えるとぴくりと肩が震えた。
「ごめん、痛かった?」
「や、大丈夫です…俺湿布持ってるので、貼ってもらえますか?」
「わ、わかった…」
湿布常備持ち歩いてるの?とは今聞くことじゃないかと思ってやめておいた。
愛斗に渡された湿布をそっと、さっきよりもそっと触れて貼り付ける。
「はい、できたよ。服おろすね」
「はい」
キャミソールをおろして痛々しい背中を隠す。ブラウスも破れてしまってはいるが、ひとまず着せてまたカーディガンを羽織らせた。
「できた。今日はそれ着て帰っていいよ」
「…ありがとうございます、先輩」
「ううん、こんなことしかできなくてごめんね」
ぽんぽんと頭をなでる。男の子だと分かっていてもつい女の子扱いしてしまう。失礼かな。
でも本人も心地よさそうに目を伏せるので許された気になってしまう。
最初より怯えた雰囲気がなくなって少しほっとした。
「家のほうまで送ろうか?」
「いえ、大丈夫です。でも…その、先輩」
「?」
言い淀む姿に首をかしげる。どうしたの?と暗に問いかけると言いにくそうに口を開く。
「…少しだけ。抱きしめてもらっていいですか」
「え……う、ん?」
「まだ…ちょっと怖くて」
そういわれてはっとする。恐怖感がなくなったわけではない、それはそうだ。
男だからと言いにくかったかもしれない。
「いいよ、私でよければ」
出来るだけ何ともないような、普通のテンションで腕を広げる。
恥ずかしそうな、嬉しそうな表情をして控えめに抱き着く愛斗をやんわり抱きしめて背を撫でた。
知らない男に暴行を受けるなんて、とてつもない恐怖だったと思う。
好きな格好をしているだけなのに批判されたり揶揄されたりするのは許せない。
誤解されやすいこの子の味方でありたいと思ってしまう。
「マナは何にも悪くないよ、だからもう忘れなね」
「……はい」
脱力するように体を預け、私の首筋に顔を埋める愛斗が小さく返事をする。
かかる息がくすぐったくて身じろぎするが、構わずに体重をかけてくる後輩。
「重たいですよマナくん」
「ふふ…先輩大好きです」
「後輩にそんなこと言われたら先輩冥利に尽きるね」
「…こんなに優しいの先輩だけですから」
少しだけ胸が痛くなった。私の知らないところで傷つくこともあるのかもしれない。
肩まで伸びたさらさらの髪を梳いて撫でる。
「先輩は味方でいるから、安心していいよ」
「ほんと…先輩、だあいすき」
そういうと愛斗はくすくすと含み笑いをして、撫でる手に猫のようにすり寄った。
伊折 責任感の強い頼れる先輩
愛斗 気の弱い、女装癖のある可愛い後輩
社会人か学生かはまだ考え中です。書いていくうちに決めていこうかな。




