第6話:米の咆哮
〇深夜の公園 (遠くで走る車の音。寒々しい風が吹き抜ける音。彼はベンチに座り、激しく肩で息をしている)
彼:「はぁ……はぁ……。ここまで来れば、あかりも追ってこれないはずだ。……クソッ、全身からまだ小麦の匂いがしやがる。あの女、本当に俺を『パン』に作り変えるつもりだったんだ……」
(カサカサと、コンビニのおにぎりのフィルムを剥く音)
彼:「……これだ。これを待ってたんだ。……いただきます」
(ガツッ、と大きく一口頬張り、必死に咀嚼する音)
彼:「(涙ぐみながら)……うまい。うますぎる。……あかりは狂ってる。パンは救いだ? 全人類をパンにする? ふざけるな。……いいか、パンは所詮、形を変えただけの虚像だ。でも、米は違う。炊き立ての一粒一粒が、それぞれ独立した『命』として、この口の中で力強く主張してくるんだ」
(飲み込んで、深く息を吐く)
彼:「……ああ、噛み締めるたびに、俺の魂が洗われていく。あかりに捏ねられ、溶かされそうになった俺の『個』が、この米の粒立ちによって再構築されていく……。あんな、ふわふわしただけの、境界線のない世界なんて真っ平ごめんだ」
(残りの半分を口に放り込む)
彼:「……あかり。あんたは最高に可愛くて、最高に魅力的な教祖だったよ。でもな、俺は気づいたんだ。俺の血管を流れているのは、イースト菌混じりの小麦液じゃない。瑞々しい田園を駆け抜ける、純白の稲穂の血なんだ!」
(立ち上がり、夜空に向かって吐き捨てるように)
彼:「俺は米派だ。誰が何と言おうと、米派だ! ……見てろあかり。あんたのパン教が世界を塗り替える前に、俺がその野望を粉砕してやる。……いや、精米してやるよ!」
(力強く歩き出す足音)
彼(M):この時、俺は決意した。あかりを止めるには、内側から壊すしかない。……待ってろ、あかり。俺は、最凶のスパイとしてあんたの元へ戻ってやる。




