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第5話:あかりのパン包囲網、そして逃亡

〇二人の新居・リビング (重苦しく湿った空気。加湿器が何台も稼働し、シューシューと蒸気を吹き出している。あかりが彼の体に、霧吹きでシュッシュと水をかけている)


あかり:「……いいわ、彼。今日のあなたの湿度、最高に整ってる。まさに『一次発酵』のピークね。さあ、今朝の聖体パンを食べて。私の愛と酵母が詰まった、特製ブリオッシュよ」


彼:「(生気のない声)……あかり……。もう、パンを食べるのはいい。それより、なんで部屋の温度が35度に設定されてるんだ? それに、この霧吹きは何なんだよ……」


あかり:「(微笑みながら)何って、あなたのメンテナンスよ。あなたは私の『器』。……いい? パンはね、放置されると乾燥して死んでしまうの。私がこうして湿度を管理して、パンを与え続けてあげないと、あなたは立派な『パン』になれないでしょ?」


彼:「(震え声)……『パンになれない』って……。俺は人間だぞ。パンを食べてるだけで、パンになるわけ……」


あかり:(急に動きを止め、彼の顔を至近距離で覗き込む) 「……まだそんなことを言っているの? あなたの体内の水分はもう小麦の香りに満ちている。心臓の鼓動は、酵母がガスを生み出すリズムと同じ……。あなたはもう、ただの『生地』なのよ」


彼:「(恐怖で息が詰まる)……あ、あかり……さん……」


あかり:「(耳元で優しく、冷酷に)ねえ。明日は『ベンチタイム』よ。一日中、この暗い寝室でじっと動かずに休んでね。そうすれば、あなたの雑念(米への未練)は消えて、もっと滑らかで、甘い存在に生まれ変われる……。……ふふ。楽しみね。仕上げにあなたを焼き上げる日が」


彼(M):……狂ってる。この女は、俺を人間として愛してなんかいない。自分好みの『最高傑作のパン』に加工しようとしているんだ……! 焼き上げられる? 殺されるってことか!?……逃げなきゃ、今すぐ!!


彼:「(立ち上がり、あかりを突き飛ばす)……うわあああ! もう嫌だぁぁぁーーー!!」


あかり:「あら? ダメよ彼、まだ発酵の途中なのに!」


彼:「うるさい! 俺は生地じゃない! 米を愛する人間だ!!」


(窓を突き破る音、あるいは玄関を蹴り破る激しい音)


彼:「さらば、パン屋敷! 俺は……俺は自由だ! 納豆ご飯をお腹いっぱい食べてやるんだぁーーー!!」


(夜の街へ、転がるように駆け出していく彼の足音)


あかり:「(暗い部屋で一人、開いたままの出口を見つめて)……ふふ。逃げても無駄よ。あなたの核(イースト菌)は、もう目覚めているんだから。……黄金の夜明けで、また会いましょう」

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