第2話:お詫びと洗脳のデート
〇街中のカフェ・テラス席 (昼下がりの雑踏。食器の触れ合う音)
あかり:「……ごめんなさいね。喉、まだ痛むでしょう? 無理に喋らなくていいわ。はい、これ。お詫びに私が焼いてきた『超軟質・低反発蒸しパン』よ。これを傷口に当てておくと、イースト菌が細胞を活性化させてくれるの」
彼:「(首を固定され、掠れ声で)……ふ、ふざけるな……。お詫びデートだって言うから来たのに……なんでパン屋のハシゴなんだよ……」
あかり:「あら、元気ね。でも見て、この黄金色の景色。右を向いてもクロワッサン、左を向いてもデニッシュ……まるで、小麦の海に抱かれているようだと思わない?」
彼:「……地獄だ……。米が……米が食べたい……。せめてお粥を……」
あかり:(急にトーンを落とし、無表情で彼を見つめる) 「……お粥? あの、水でふやけた米の死骸を食べるっていうの? ……ダメよ。あなたはあの時、私のパンと一体化したの。あなたの喉を貫いたあの衝撃は、聖なる洗礼だったのよ」
彼:「(恐怖で引きつった声)……ただの事故だろ……。俺、死にかけたんだぞ……」
あかり:「(うっとりと)いいえ。あれは発酵の合図。ねえ、パンの何が素晴らしいか教えてあげる。パンはね、焼かれることで完成するの。熱いオーブンの中で苦しみに耐え、膨らみ、そして誰かを幸せにする黄金の衣を纏う……」
彼:「……あかりさん……?」
あかり:「今のあなたも同じ。私のパンに貫かれ、苦しみ、今まさに内側から膨らもうとしているわ。……ねえ、見て? このバゲットの断面。この気泡の並び、まるで宇宙の真理が刻まれているみたい……素敵でしょ?」
彼:「(恐怖で言葉を失う)……(この女……本気だ……。目が、笑ってない……!)」
あかり:「(彼の耳元で、湿り気を帯びた声で囁く)大丈夫。無理に好きにならなくていいわ。私が、あなたの全身をパンの香りで塗り替えてあげるから。……まずは、このライ麦パンを完食しましょうか。一口ごとに、お米の記憶を消していってね?」
彼:「(もがく音)……んぐっ、んんーー!!」
あかり:「いい食べっぷり! さあ、次のパン屋へ行きましょう! 私たちの『発酵』は、まだ始まったばかりよ!」
彼(M):……助けてくれ。この女、可愛らしい顔をして……中身はとんでもない「パンの怪物」だ……!




