1章第6話 道へ
翌朝、俺はいつもより早く目が覚めた。
店に出ると、セラはもう起きていた。
棚の前に立ち、昨日と同じように、古道具を見ている。
「早いわね」
「はい」
俺は、棚の隅に置かれた剣を見る。
昨日、拾われ、値段もつかず、行き場を失った剣。
刃は欠けている。
柄も少し歪んでいる。
新品として売ることは、できない。
「これ、直せますか」
セラは、すぐには答えなかった。
剣を見るでもなく、俺を見るでもなく、棚の奥を見たまま言う。
「売り物にはならないわ」
「はい」
それは分かっていた。
「直しても、勇者が使うような物にはならない」
「それでもいいです」
自分でも驚くほど、はっきりした声だった。
セラが、ようやくこちらを見た。
「どうして?」
少しだけ、考える。
「捨てるには……早い気がして」
セラは、剣に近づき、軽く持ち上げた。
重さを確かめるように、手の中で揺らす。
「直すって言っても、簡単じゃないわよ」
「分かってます」
「鍛冶屋に持っていっても、断られる」
「それでも」
言い切ったあとで、胸の奥が少し熱くなる。
「……やってみたいんです」
セラは、しばらく黙っていた。
その沈黙は、拒否ではなかった。
「昔ね、この街に、変な鍛冶師がいたの。新品を作らない人。
勇者の装備も請け負わない。壊れた武器ばかり集めてた。」
俺は、自然と剣を見る。
「直す、というより……使い道を変える人だったわ。評判は良くなかった。国からも、街からも」
俺の中で希望が芽生える。
「その人は今どこに?」
「もういない」
短い答えだった。
店の中に、静けさが戻る。
俺は、剣を見下ろしたまま、言った。
「俺、鍛冶を学びたいです」
セラの眉が、ほんの少し動く。
「本気?」
「はい」
理由は、うまく言葉にならなかった。
でも、胸の奥でははっきりしている。
使えないと判断されたもの。
値段がつかないもの。
役に立たないとされたもの。
それらが、ここに集まっている。
「この店で……何かできるなら」
セラは、しばらく俺を見ていた。
値踏みではない。
試す目でもない。
「……鍛治は力仕事よ」
「構いません」
「暑いし、汚れる」
「平気です」
「時間もかかる。
すぐに結果は出ない」
「分かってます」
セラは、小さく笑った。
「そう。ついてなさい。」
俺はセラに言われるがままついていった。
店の奥を進むと、小さな地下通路があった。
セラはランタンの火をつけて進む。
少し長い階段だ。
「この店は、私のひいおじいちゃんの代から続いている店なの。そして、2代目の店主が、さっき話した鍛治師。」
階段を下り終えると、そこには扉があった。
扉を開けると、鍛冶場があった。
古い鍛冶場だ。
「好きに使いなさい。鍛治に関する知識に関しては、棚にあるメモに色々書いてるはずだから。」
そう言ってセラは店へと戻って行った。




