1章第5話 残された物
店に戻ったあと、しばらく誰も口を開かなかった。
ランプの火が揺れている。
外で起きたことは、言葉にしなくても分かっていた。
少しすると、通りが騒がしくなった。
戸の外から、複数の足音が聞こえる。
「国の人ね。彼らは回収係。勇者の遺体を運ぶための者たち。」
白い布。
担架。
無言の動き。
誰も名前を呼ばない。
確認も、祈りもない。
勇者は、戦って、死ぬ。
それだけの存在として扱われている。
店の戸を閉めたあと、客が一人来た。
顔色の悪い男だった。
剣を一本、カウンターに置く。
刃が欠けている。
「さっきの勇者のだ。運良く拾ったんだ。買い取れるか?」
セラは剣を見ただけで、首を振った。
「値段はつけられない」
「そうか」
男はそれ以上何も言わず剣を置き、店を出た。
剣だけが残った。
セラは剣を棚の隅に置いた。
値札はつけなかった。
昼になっても、通りは静かだった。
人はいるが、声が少ない。
俺はいつの間にか剣を拭いていた。
血は落ちた。
だけど、刃こぼれはそのままだ。
俺は剣を棚の角に置いた。
夜、店を閉める。
静かになる。
俺は、少し迷ってから聞いた。
「勇者って、魔物がきたら毎回来るんですか」
「来るわ」
その言葉は、淡々としていた。
「じゃあ……また、死ぬ人が」
「そうね」
否定はしなかった。
棚の剣を見る。
値札のない古道具たち。
それをみていると、咄嗟に声が漏れてしまった。
「……これも、同じですか」
「え?」
「役に立たなくなったら、捨てられる」
セラは少し考えてから言った。
「役に立たなくなったから、捨てるんじゃない。役に立つって理由しか、存在を許されてないの」
それ以上は言わなかった。
俺は横になり、目を閉じた。




