2章第4話 主人
気がつくと、硬い床の上で寝転んでいた。
傷口には、血でいっぱいのボロボロの布切れが巻いてあり、横を見ると、ノンが俺にのこたわって寝ていた。
ノンの片腕の袖がなく、無理やりちぎったような跡があった。
おそらく、服のそでをちぎって、俺の傷口に巻いてくれたんだろう。
近くには俺が使ったのは別で水が入ったバケツがあり、火を起こした形跡もある。
ちゃんと熱湯消毒した布を使ってくれたんだろう。
俺が起き上がろうとすると、ノンが目を覚ました。
慎重に動いたつもりなんだけどな、起こして悪かったか。
「すまない。起こしてしまったな。」
「...え,」
ノンが跳ねるように顔を上げ、寝ぼけ眼を一瞬で見開き、瞳が急激にうるみだした。
「……ぁ、あ……おぎだ……。おぎだぁ……っ」
しゃくり上げるたびに、彼女の肩が激しく揺れる。 鼻は真っ赤になり、涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃだ。 呂律は完全に溶け、濁った音が震える唇から溢れ出す。
「え、その、あれ?俺、そんなに寝込んでたの?」
「ぜんぜん、おぎ、なぐで……。冷だくなって、……このまま、しん、じゃうって、おもっ……おもっ、てぇ……っ!!」
ノンは俺の胸元に顔を埋めるようにして、子供のように大声で泣きじゃくった。
細い指先は俺の服をぎゅっと掴み、離す気配はない。
しばらく、このままでいることにしよう。
ノンが落ち着くまで、俺は黙って背中をさすり続けた。
しばらくして、彼女が泣き止むと、俺達は今後の方針について話し合った。
結論として、俺達が目指すルートは、森へ行き、その後大書庫へ行くというルートだ。
理由を挙げていこう。
残念ながら、セラのバックに入っている素材は、今回のでほとんどそこを尽きた。
残っているのは二人分の5日分くらいの食料だ。
そして、俺達が図書館に行く最大の目的としては、今回使った素材に関して情報を得るためだ。
どこで取れるものなのか、どのような特性を持っているものなのか。
それを調べれば、素材を入手し、大量生産も可能になるかもしれない。
それに早く調べないと、実は知らない副作用があったりして、ノンに危害が加わったらいけないからな。
素材に関する情報を集めたら、できることなら素材の到達、できないようなら代用物を探す。ってところだ。
大体、つくまでの時間が5日。
食料はギリギリ持つくらいだ。しかし、ここで懸念点がある。
俺もノンも無一文だということ。
つまりは、収入源が必要だ。
ということで、一回森に入る。森に入って狩りをすれば、取り合えずある程度の収入源は確保できるだろう。
森に行くまでにかかる時間は1日半と行ったところだ。
昨日は夕焼けがなかったらしいから、近い内に雨が降ることも相まって、水の確保も容易だろう。
ということで、俺達は早速森へ向かった。
俺とノンが歩いていると、ノンがある話題を振った。
「そういえば、呼び名を決めてなかった。なんて呼べばいいかわからない。」
「確かにそうだな。普通に名前で読んでもらえ…」
「そうだ。御主人様って呼ぼう。」
「嫌だ。」
「えぇ...わざわざ首輪にして作るくらいだから、そういうのが趣味なのかと思った...」
「全く持って違う!!それに、俺にはちゃんとミナトっていう名前があるんだ。」
そう、俺には名前があるのだ。セラから授かった大切な名前だ。
そしてこの名前には、セラ自身の生き方と価値観も込められているのだ。
「ん〜。だけど、ミナトっていうのはしっくりこないし、どっちにしろ、私は御主人様って呼びたいな。」
「なんでそこまでその呼び名にこだわるんだ。それに、御主人様って言ってるのに敬語じゃないってなんか違和感あるぞ。」
「別にそれはいいの。私が敬語使うのは、なんか性に合わないから。こだわってる理由としては、やっぱり、私は御主人様と私の関係に"意味"を持たせたいからかな。」
「え。」
何気なく聞いた質問だった。
もちろん、ノンも何気なく言った言葉だろう。
「意味」その言葉が俺に与える重みをしらないのだから。
「てことで、これからは御主人様、って呼ぶね!」
俺の中の何かが、かつて捨てたはずの何かが、大きく揺らいだ気がした。




