コーデリアとの対話
リディアが言っていた通り、いつもよりも早く閉店となった『双児宮』はすぐにイルミ達のお祝いをするための準備が行われた。
イルミ達も手伝おうとしたが学生たちは待っててと言われて座らされ、イルミ、シャミア、コーデリアの三人が机を囲む事になった。
「…………」
「…………」
「…………」
誰も喋る様子がない。いつも無口で無表情なコーデリアはともかく、イルミとシャミアは明らかに気まずそうな様子を見せている。
それもそのはずで、各々で会話はした事があっても、この三人で一緒になって話したことなどなかったからだ。
その上、これまでの事件や仕打ち、自分達がどういう関係なのか未だに定まっていないこの状況は少なくとも二人にとってはかなりやりきれない状態にあるのであった。
「わ、私よく考えたら、優勝もしてないし! やっぱり悪いから手伝ってくる!」
と、耐え切れなくなったシャミアが逃げ出した。キッチンの方でリディアと「いいから、いいから」と遠慮し合っているのが聞こえてくる。
「――イルミ」
シャミアがいなくなって話始めたのは意外にも気にしていなさそうであったコーデリアだった。
「ごめん、私、貴方を守れなかった……騎士として失格だわ」
今日はよく謝られる日だとイルミは思う。
「騎士として命を懸けて守るって誓ったのに、守られたのは私の方だった。私は――それが悔しくてならない」
噛締めた思い。どれほど大きな悔恨なのかイルミにも伝わってくる。
「お婆様もきっと私に呆れていると思う。ようやく任せた貴方一人すらも守れない出来の悪い孫だって、騎士を名乗るに値しない実力だって」
コーデリア程の人物の出来が悪ければシンドレア学院の生徒は全員出来が悪い事になり、実力がないとなれば騎士に成れる人間なんてそれこそ英雄と同等の人間しか名乗る事が出来なくなってしまう。
それを踏まえて。それで踏まえた上で敢えてイルミは言う。
「そうだね」
コーデリアの言う事を素直に肯定する。
「リアも俺もまだ実力が足りない。目指す場所はもっと高く遠い。俺は『英雄』にリアは【聖騎士】に。目指す所からみたら俺達はあまりに未熟だと思う」
高みを目指すどうし、お互いを尊重しているからこそ言える事。
「未熟だから失敗もするし上手くいかないのも当たり前なんだよ」
「それでも守る相手に守られた私に騎士を目指す権利はあるのかと考えてしまう」
騎士道を重んじるコーデリアだからこそ、その事実は重く彼女に圧し掛かっているようであった。
「ねぇリア、そもそもが間違っているんだよ。リアが言ったんだよ、俺とリアはパートナーだって」
『パートナー』その言葉にコーデリアも反応する。
「確かに最初は【Lv.1】の俺を守るつもりで来たんだろうけど、お互いを知って変わっていったはずでしょ? イベント中だって、俺の実力を信じて勝負を任せてくれたりもしたし、逆に俺だってリアを信じて無茶な作戦をお願いしたよね?」
ザイツとの戦闘ではイルミとのタイマンを許し、ダリル達との戦闘では圧倒的な人数差をコーデリア一人に任せる事もあった。
「守ったり守られたりするのがパートナーだろ? 信じあうのがパートナーだろ? どちらか一方的な関係じゃない。イベント中、確かに俺達はパートナーだった。きっとリアのお婆さんもそういう事を学んで欲しいから俺と組むように親父に頼んだんだと思う――だから俺がリアを助けた事はなにも騎士として恥じる事じゃない。それは当然の事なんだから。恥じるべきは俺達の実力が足りなかった事に対してだけ。俺も結局は捨て身にならないと何も出来なかったんだから……」
自分の命を危険に晒した事でどれだけの人が心配し苦しむのか今回の件でイルミは痛いほど身に染みた。コーデリアもシャミアも本質的な意味では救えてないとイルミは感じているのだった。
「……そうだとしても、私はこのことを忘れない」
「でも」とコーデリアは付け足す。
「うん、私達はパートナーか。ただのイベント中に組まされただけの関係じゃない。お互いを信頼したパートナー」
何かを噛締める様にパートナーと言う言葉を使うコーデリア。
「そう……そうかも」
自分の中で何かに納得した様子のコーデリアは続けて言う。
「今回はイルミに守られたけど、次こそは私が守る。今度こそ騎士の誇りにかけて」
それはイルミの話を全く無視した発言のようにも思えたが、彼女の中で揺らいでいた騎士道の精神には芯が打ち付けられた言葉でもあるように思えた。
「親父に言われてるんだ。陰で守られてる漢になるなって。だから俺だって負けないよリア」
と、強気に返してくるイルミにコーデリアは黙ってコクリと頷き返すのであった。




