終わりの後
「……ようやく、収まったかしら?」
イルミとシャミアが倒れ、静寂が訪れる中、気絶した二人の元に一人の女生徒が近づいてきた。
「全く、こんな奴がいたなんてね……」
二人の戦いを陰から息を潜めて監視していたミーシャが現れる。
「主、どうする? コイツ死にかけてる」
その後を付いて来るようにルーフが臭いを嗅ぐようイルミに顔を近づけて報告する。
「地面にクレーター作ったり、紙を破くみたいに木を折るほど破壊力のあるパンチをまともに受けて生きてる方が奇跡よ……ウチのヒーラーで何とかなるかしら……」
ぶつぶつと喋る横でルーフが何かに気付く。
「――! 主、教師達が近づいて来てる。コイツ連れていくのか?」
「……そうね、連れて行きましょう。こんなチャンス滅多にないでしょうし」
「わかった」
主の意見を聞き了承したルーフは人間の姿から、立派な毛並みが生えた四足歩行の大きな獣へと変身した。その姿は明らかに魔物である『ヴォルフ』であった。
「よし、さっさと行くわよ」
「グフ」
と、獣らしく返事をしたルーフは気絶しているイルミを咥えようとする――が
「――ガっ⁉」
突然、魔物となったルーフの横腹に何かが高速で突っ込み吹き飛ばす。
「ルーフ⁉」
何が起こったのか戸惑うミーシャ。ルーフは勢いよく吹っ飛ばされ体を地面に擦りようやく止まるとすぐに立ち上がり体当たりをしてきた相手へと牙を向く
「ガゥ?」
しかし、そこにいた相手に戸惑いの鳴き声をあげるルーフ。
高速でルーフにタックルをし、彼らの前に立ち塞がったのは一匹のチースタル、イルミがテイムした魔物ベルであった。
「なんでこんな所にチースタルが……というか、なによこの力⁉」
その小柄な肉体で自分よりもずっと大きな魔物吹き飛ばした事に驚くミーシャ。
イルミを背後にし庇うようにするベル。
「まさかコイツの魔物? 待って! アナタ達と争う気はない、私はアナタのマスターの味方よ。危害加えないわ」
敵意剝き出しのベルを説得しようとするミーシャだが、ベルの後ろ足にはいつでも飛び掛かれるように力が込められている。
「バゥ?」
自分の主であるミーシャに判断を促すように振り向く。
まさかの事態に動揺を見せるミーシャは判断が追い付かない。明らかに説得しても応じてくれそうにないベルに対して悩みを見せる。
膠着状態の中、ヴォルフの姿となったルーフは鼻を「スン」と鳴らすと周囲を見回す。
「主、教師達がすぐそこまで来てる。どうする?」
するりと人間の姿に戻ったリーフがミーシャに伝える。
「……止むを得ないかしら。脱落した生徒のフリをして戻りましょう。アナタも早く逃げなさい? 教師がきたら討伐されちゃうわ」
ベルの事を気遣う言葉をかけ、ミーシャとルーフはその場を後にする。
その後、姿が見えなくなったのを確認したベルは緊張状態を解き、後ろ足に込められていた力を抜いた。
「キュウ……」
イルミの方を向き心配そうに顔を舐めるベル。
ピクッとベルの耳が動く。ルーフのようにベルも教師達が近づいている事を耳で感じ取っていた。
もう一度、キスをするかのようにイルミの口元を舐めるとベルは、その横で抱き合うように一緒に倒れているシャミアの手を退ける様に軽く蹴飛ばしてベルもそこから逃げるのであった。




