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暴走の止め方

 イルミは剣を構えた。それは氷の刃ではなく訓練用の片手剣。


 破裂音を聞きつけた時にイルミはレオンの武器を受け取っていたのだった。


 構えた剣に漆黒の闇が纏わりつく。純度100%の闇は空間に剣型の穴が開いたと錯覚するほどであった。


「ぁぁぁぁぁ!」


 叫びながら殴りかかってくるシャミアが振るう拳の力を利用し闇を纏った剣で拳を滑らせてしまい、後ろへと力を逃がしていく。


 勢いをそのままに力を逸らされたシャミアはイルミの後方へと飛んでいく。その際、剣が触れた部分の炎が闇に飲み込まれたかのように消え去ったのであった。


 イルミの持つ闇属性の特性である素精霊を打ち消す能力によってシャミアに纏わりつく炎を消しさったのだった。


 しかし、すぐに消えた部分を補うように周りから炎が集まって元に戻ってしまう。


 そして再びシャミアはイルミに飛び掛かるが、またもイルミの剣にそらされ、当たった部分の炎が消失していった。


 イルミの狙いはこの炎を消す事であった。


 シャミアが暴走する原因は現在シャミアの全身を纏っている炎にあった。


 拳にのみ炎を纏う事で「力」が強くなるスキルが【ブレイズ・ナックル】であり、感情の高ぶりによって制御できなく全身を包み込み、炎の影響で上がった「力」を自分自身でも制御できなくなる状態が現在のシャミアであった。


 本来ならば、そこまでの「力」を引き出すことは不可能なのだが、それを可能にしてしまうのが、シャミアの持つ【暴君の加護】なのであった。


 本来暴走してしまえばその力を使い果たすまで暴れ続けるのだが、それ以外の対処方法がイルミの持つ闇属性のスキルであり、炎を消す事でシャミアが制御出来るところまで炎を抑える事で暴走を止められるのだった。


 ただこの方法は当然だが大きな危険を伴う。


 木を薙ぎ倒し、地面にクレーターを開ける程の力を持つ人間が見境なく暴れ回っている所に飛び込み炎を少しずつ消していく行為は自ら死地に飛び込んでいくようなものであった。


 それでもイルミは幼い頃から何度もそこへ飛び込んで行くのだった。シャミアが暴走する度に、自分を顧みずに。


――全然、収まらない……。


 冷や汗が流れるイルミ。軽く受け流しているように見えるが、一撃一撃が「死」に繋がりかねない攻撃。張り詰めていて当然の状況であった。更に、手に痺れを感じるイルミ。綺麗に力を逸らしてはいるが、それでも全てではなく、少しずつイルミに痺れと疲労を蓄積しているようであった。


 幼い頃よりもずっと強い「力」を持ち、出力の大きな「炎」を身に纏うシャミア。


――ほんとによく成長したよ。


 傍で一緒にいたイルミはシャミアの成長具合をよく分かっている。その力が暴走した現在、その成長をより一層実感するイルミであった。


 痺れ始めている手を気にしながらもイルミは気を緩めずにシャミアへと向かう。


 一切、イルミから攻撃はしない。全て受けるだけ。けして倒す事が目的ではなく、救う事が目的であるからであった。


「がっ!」


 と、叫びながら振り回していた拳がついに止まりシャミアは動かなくなる。


 止まったとは言え暴走が収まった訳ではなさそうな様子。


 シャミアの全身を纏う炎は未だ轟々と燃え続け、その目もまだ赤黒く濁っている。しかし、その顔は怒りと一緒に苦悶の表情を浮かべていた。


――体に限界が来てる……急がないと。


 そう、イルミには急ぐ必要があり、理由があるのだった。


 それは、何故そもそも炎を弱らせる必要があるのかという事だ。


 【暴君の加護】の暴走は時間が経っても勝手に力を使い果たせば収まる。それならば、好きなだけ暴れさせれば少なくとも人的被害はない。しかもこんな森の奥でなら尚更。


 しかし、その手段を取る事はイルミには出来なかった。


 暴走による体への負担があまりにも大きいからであった。


 普段人間は体が壊れないように100%の力がでないように制御しているが、【暴君の加護】の暴走は炎の力も加え120%以上、つまり限界以上の力を無理矢理引き出すため、一発殴るたびにシャミアの体は悲鳴を上げているのであった。


 そんな状態で力尽きるまで暴れされば最悪死に至りかねない。そんな危険な状態にシャミアはいた。


 だからイルミの元にシャミアは連れて来られ、イルミがシャミアの暴走を止める役割を担っているのであった。


 つまりイルミ・シンドレアはたった一人の少女を幼い頃から命がけで救ってきたのである。


 イルミの初めて行った英雄行為。


 誰かを助けるという心。


 その根付いた思いが今も変わらずイルミに宿っている。


 しかし――そんな心意気など関係なく無情な時は訪れる。


――バキッ


 シャミアの成長した攻撃に訓練用の武器では耐え切れず折れたのだった。


 武器を闇で包んでしまった事が災いし、武器の耐久が限界に近い事をイルミは感じ取れる事が出来なかった。


 逸らしきれない力はそのままイルミへと向かい


「ぐぅッ!?」


 イルミの腹部へと直撃するのであった。

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