加護の暴走
爆発音を聞き駆け付けたイルミが見たのは赤い炎に包まれシャミアの姿。そして、彼女に見降ろされ倒れているコーデリアの姿。
そして、動かなくなったコーデリアにシャミアは再び拳を振り上げる。
「シャミアッ‼」
倒れたコーデリアを助けようと走り出す。しかし、自分の位置から間に合わない事を悟るイルミ。
走りながら右手をピストルのように構えた。
――【ウィンド・ショット】!
ザイツと戦った時に使用した風の弾を高速で打ち出す魔法をシャミアに目掛けて指先から撃ち放つ。
空中を切り裂く風の弾丸は何の警戒もしていないシャミアの頭に綺麗にヒットする。
「――ッ⁉」
いきなりの衝撃に体がグラつくシャミア。
その隙にコーデリアを回収し暴走するシャミアから離れるイルミ。
ぐったりとして動かないコーデリアだったが、息はしており死んではいないようであった。
このままコーデリアを担いで逃げ出したい気持ちがイルミの中によぎる。が、その選択は一瞬で消える。
――これは俺の役目だもんな……。
シャミアから距離を取り安全と判断したイルミは腕の中に担いでいたコーデリアを優しく木に寝かせる。
後ろでは少し離れた場所であるにもかかわらず、ズシン、ズシンと地面を揺らす程の力で暴れている音が聞こえる。
幼い頃とは比べ物にならない程の力で暴れる幼馴染。
ただ、成長をしているのはイルミも同じ。
「さて、久しぶりの喧嘩だ」
イルミは無理矢理に笑顔を作り自分を奮い立たせたイルミは、幼馴染の元へと戻る。
木々は折れ、地面の至る所には穴が空いている。何も知らない人が見れば大型の魔物が暴れたのかと勘違いする程酷い荒れ様であった。
しかし、それはたった一人の少女によるもの。
シャミアを取り巻く炎は彼女の怒りを表しているかのように猛々しく燃え上がっている。
「ようシャミア、喧嘩しにきたよ」
そうイルミはシャミアに声を掛ける。
声の方向に反応したイルミを赤黒く染まった目の中に捉えると、
「イ、ルミ……?」
暴れる手を止めるシャミア。ゆったりと体をイルミの方へと向ける。
「アンタがアンタがアンタがアンタがアンタがアンタがアンタがアンタがアンタがアンタがあんたがぁ!」
目の前の相手がイルミである事は認識しているようで、何か言いたげな様子だが怒りで我を忘れたシャミアは次の言葉がでない。
イルミも鈍感ではない。何に怒っているかは分かっている。
ずっと二人でやって来たのだ。誰とでもない二人で一緒に。それをイルミは仕方がないとはいえ裏切った形になった。
シャミアがどれだけこの機会を待っていたのか、想像出来ないイルミではない。
イルミが【Lv.1】という事で正当な評価を得られない事に対して、自分の事のように憤怒していたのはシャミアだ。
今回の大会をきっかけにイルミの評価を一変させられると、しかもタッグマッチ。自分も隣でサポート出来る理想的な条件である。イベント告知の掲載物を見たシャミアがどれほど歓喜した事か。
その期待を裏切った代償を、怒っているシャミアに弁明しなかった報いを、今、イルミは受けていた。
「ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく」
「ムカつくなんてそんな可愛い表現のキレ方じゃねえだろ……」
シャミア本来の物言いなのだろうが、全身から噴き出す炎に鋭くイルミを睨みつける赤黒い目の姿にミスマッチであった。
「――ぶっ殺す!」
「可愛くないな!」
言葉の表現が姿に追いついたシャミアは、感情の更なる高ぶりと共にイルミに殴りかかる。
それをいち早く察知したイルミは逃げの動作を切っ掛けに発動する【脱兎の如く】の恩恵を受けながら、俊敏に拳を躱す。
――動きは昔と変わらず単調……‼
拳を避けながら、イルミは昔のシャミアと比べていた。激怒し【暴君の加護】の影響で暴走したシャミアは力が強くなっているとは言え動きは直線的、幼い頃ならいざ知らず、成長したイルミには当たらない――ただ
――ドゴンッ‼
地面が潰れる。拳を避けたにもかかわらずその衝撃はイルミまで届きその体を軽く吹き飛ばす。
成長しているのはイルミだけではない。当たり前だが、それはシャミアも同じ。激情して動きが単調になったとは言え、幼い頃から尖らせ続けてきたシャミアの「力」は凶悪さを増していた。
一度、距離を取ったイルミの頬から冷や汗が流れ出る。
暴れ回った形跡からある程度、シャミアの力を想像していたものの、実際間近で見るのでは恐怖心の揺さぶられ方が大きく違う。
――ガードしても掠っても死ぬかも……
何が起こったのか分からないがコーデリアが気絶していた事実がジワジワとイルミの恐怖を煽ってくる。
実際に気絶した現場を見た訳ではないが、防御に特化しているコーデリアが気絶するほどの威力。それもきっと一撃で。
イルミがシャミアとコーデリアの元にたどり着くまでに聞こえた衝撃音はレオンを倒してすぐに聞いた一度きりであった事からイルミはそう予測していた。
コーデリアでも気絶する一撃であれば間違いなく自分も受ける事が出来ないと踏んだイルミ。
「まぁ、それは今も昔も変わらないか」
一発くらえば負け。それは変わらない。あとは死にかけるか死ぬかの違い。
――それならやる事も変わらない。
決意したイルミは幼馴染に向かう。昔から何一つ変わらない姿と信念で。




