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イルミVSレオン 決着

 レオンの発動した【テンペスト】によって吹き荒れる強風は木々を揺らし、バサバサと二人の制服を鳴らす。


 今までレオンが使っていた【シル・フィード】に比べて荒々しいその技は、より力強さを感じ今までの器用なレオンの戦い方とは正反対な雰囲気を醸し出している。


 ただ【シル・フィード】を使っている時のような余裕はなく、特に激しい動きをしていないにも関わらず、レオンは肩で息をしている。


「辛そうだね」


「うっせぇ、黙ってろ」


 いつもの勢いがない。【テンペスト】の発動には相当体力を消費しているようであった。


「大体、人の事気にしてねえでテメェの心配しやがれ」


「そうかも、ね」


 イルミも気付いていた。この【テンペスト】の持つ圧倒的なエネルギーの量に。


「この一撃で終わらせてやる」


 レオンがつける精一杯の強がりであった。この一撃で終らせる、その言葉には、次の一撃で終らせられな

ければ逆に負けるという意味を含んでいた。


「それはどうだろうね」


 イルミは剣を構える。


「正直、君が本気で相手してくれるとは思ってなかったよ」


「別に、テメェを完膚なきまでに叩き潰したい、ただそれだけだ」


「……初めに短剣を使っていた事は謝るよ。俺なりにフェアを心掛けたつもりだったんだけど」


「チッ、どうでもいいんだよ、テメェの事情なんざ」


「ごめん、そうだよね。必要のない言い訳だった」


 イルミの謝罪を最後に二人は黙る。そして――レオンが動く。


「ぶっ飛びやがれ!!【ラフィーユ・テンペスト】!!」


 荒れ狂っていた暴風がレオンの持つ剣を中心とした竜巻となり、その剣をイルミに向けて振り下ろした。


 触れるもの全て巻き込みボロボロに切り裂き吹き飛ばす竜巻がイルミに向かって襲い掛かる。


 迫る脅威に対してイルミが取った行動はその脅威に自ら突っ込んでいく事であった。


――エレイス・シェイド


 そうイルミが唱えると、持っていた剣が真っ黒に染まる。そしてその真っ黒になった剣をレオンの放った竜巻に向けて振り下ろす。


 すると、剣の軌跡をなぞる様に真っ黒な壁が形成される。


 その壁にレオンが放った【ラフィーユ・テンペスト】が直撃する、が、そこには衝突音も何も起こる事がなかった。その真っ暗な壁に吸収されているかのように音もなく消えていく。


 自分の最大の技が意図も簡単に受け止められている様子を唖然と見ながら呟く。


「おい、闇属性なんて聞いてねえぞ……」


 闇属性は素精霊を打ち消す力を持っている。そのため、素精霊が力の源となっている魔法や属性付与の攻撃は全て無効にする事が出来る。ただ他の属性とは違い、素精霊を打ち消す事しか出来ないため、攻撃に転じる事は出来ないという欠点はあった。


 ただ。必殺の一撃であった【ラフィーユ・テンペスト】をいとも簡単に止められたレオンのメンタルをおるのには十分過ぎる効果であった。


 完全に受けきったイルミはすかさず攻撃へと移行する。自分の武器に闇属性を付与したために、魔法で形成した氷の刃は消え去り、元の短剣に戻っていた。


 しかし、それが功をそうしており、【短剣】の技能による【速】の上昇により、レオンまでの距離をあっという間に詰めた。


 そして、心が折れ茫然とするレオンの急所を目掛けて短剣を振るう。


――ガッ  


 しかし、剣先が届く前にイルミの短剣とレオンの首元の間に腕が差し込まれる。寸での所でレオンはイルミの短剣をガードしたのだった。


「まだ……まだ俺は負けてねえ!」


 腕の直接ガードであったためHPは削られるレオン。しかし、削られながらもイルミに攻撃を振るう。しかし、その苦し紛れな攻撃を後ろに飛ぶ事で避けるイルミ。


 そしてまだ闘志が残っているレオンを見て、イルミは再び魔法で氷の剣を生成する。


 真っ向から打ち合う両者。


 互いの片手剣が交差する。


 属性付与も何もない純粋な一騎打ち。


 しかし、これは既に結果が見えているようなものであった。


 【シル・フィード】を使用していた時でさえ、イルミの方が一枚も二枚も上手であり、それに加え、【テンペスト】の使用による体力の消耗。


 レオンがここから勝てる通りはどこにもなかった。


 打ち合うほどに、一方的にレオンのHPが削られていく。


 同時に憧れの存在の背中が遠のいていくようであった。


――シャミア……。


 打ち上げられ手元から離れる剣。更に鳩尾へとトドメの突きが炸裂し背中から倒れるレオン。頭上にあるHPゲージがゼロになるのを目の端に捉えたのだった。


 ドシャっと音を立てて倒れるレオン。もう起き上がる体力は霞ほども残っていなかった。


「畜生が……」


 息を切らせながらも悪態を吐くレオン。


 イルミはそんなレオンに何も声を掛けずにその場を立ち去ろうとする。じかし、そんなイルミをレオンが呼び止める。


「なぁ、お前なんでシャミアに自分の【属性付与】が闇属性だって事を秘密にしてんだ?」


「え? どうしてそれを……?」


 図星であるようであった。不思議そうな顔をしているイルミ。しかし、レオンに取っては簡単な推理であった。単純な話だ。自分が知らなかったという事はシャミアも知らない情報である事に他ならないからであった。何でもかんでもイルミの情報を離してくれるシャミアがイルミの【属性付与】の情報を知ってて漏らさない訳がないからであった。


 もし知っていればなんて、負けの言い訳をするつもりではないが、それを教えて貰わなければどうも釈然としなかった。


「闇属性ってなんか英雄っぽくないでしょ?」


 そんな理由で、と内心思うレオンだったが、これ以上何を言っても無様を晒すだけなのを理解しているので口を閉ざしたレオン。ただ再び疑問が浮かび上がったため思わず口にしてしまう。


「それなら俺に見せても良かったのかよ?」


 あの状況を安全に切り抜けたいのなら 使うのは一番だっただろうが、それでもイルミにはまだ余裕があったようにレオンには見えた。わざわざ【属性付与】を使わずとも切り抜けられたのではとレオンは思う。


 だとすると、比較的シャミアと話すことが多い自分に見せても良かったのか、とレオンは考えた。


「俺が短剣を使ってた理由にも通じるんだけど。皆、俺を【Lv.1】だって舐めて掛かってくるだろうから、そんな人に【片手剣】を使うのはズルだと思ったんだ。でもレオン。君は最初から本気だった。それなら俺も出し惜しみ無しで答えないとって思っただけだよ」


「チッ、舐めやがって……」


「だから舐めてな――」


――ドッガーンッ‼


 話の途中に大地を揺らすほどの爆発音が森全土に響き渡った。


「おい、この音って……」


「シャミア! リア!」


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