イルミVSレオン ③
少し離れた場所で轟音が鳴り響く。
それがシャミアとコーデリアが激突したものだと二人は理解する。
理解するだけで、その方向に見向きもせずにイルミとレオンは武器を振るう。
「そんなもんかよ!! 攻めて来いよ!」
剣のリーチと【シル・フィード】の風の刃を活かして攻めるレオンに攻め手がないイルミ。上手く躱して
はいるが、ジリ貧であるといった様子。
「……短剣じゃ勝てないかな」
そう言うとイルミは素早くレオンから距離を取る。
「なっ」
一瞬で距離を取られたレオンは少し驚いた表情でイルミを見る。離すつもりがなかったレオンは反応出来なかった事に驚いたようであった。逃げるという行為に対して、イルミの【調教師】としてのスキル【脱兎の如く】が発動したようであった。
謎に速度が上がったイルミをみてレオンは動揺を少し見せるが直ぐに
「はっ、逃げ足だけは一丁前みてぇだな」
と、余裕そうなセリフを吐く。
「それで? 距離を取ってその後どうすんだよ? そのまましっぽ巻いて逃げちまうか?」
「そんな事はしないよ。ちょっと、戦い方を変えようと思って」
「あ?」
怪訝そうな表情を浮かべるレオンを気にする事なく、イルミは自分の手に持っている短剣に集中する。
すると、持った短剣の先から、その刀身を伸ばすかのように氷が生成されていく。そして次第にはレオンが持つ片手剣と同じくらいの長さになる。
「なんだそれ? お前の【属性付与】かよ?」
氷を纏う短剣を見て、レオンはそれがイルミのスキルだと考える。
「いや、これはそんな良いものじゃない。そもそも俺はまだ短剣で【属性付与】を使えない」
「あ? じゃあ、その氷はなんなんだよ」
「名前も付かないくらい、基本的な氷の魔法だよ。ただ氷を生成して短剣のリーチを伸ばしただけ。俺の魔法知識と魔力じゃこの程度が限界なんだよね」
イルミは自分の師であるリディアの魔法と比べているようであった。凍らせて相手の動きを止めたり、攻撃に使ったりと、そういう使い方に憧れるイルミだが、まだ未熟のようであった。
ただ、レオンにとっては魔法の媒体になる杖や魔導書を持たずに魔法を発動している事自体が驚きであり、シャミアから魔法が使えると話は聞いていたとは言え実際に目に見るのでは全く違う感情となった。
「つうか、それは片手剣なのか? 短剣なのか?」
「さぁ、どっちだと思う?」
イルミはレオンの問いに答えることなく、レオンに向かって行く。
「ぐっ」
イルミの氷の武器を受け止めるレオンは先程よりも力強い攻撃に怯む。
明らかに【力】が上がっている。
その事実に一瞬怯むレオンであったが驚きはなかった。
それはシャミアから聞いて知っていたからであった。
イルミの得意武器が、【短剣】でも何でもなく【片手剣】である事を。
つまり、今までは熟練度を上げる為に練習するかのように短剣を使いイルミは将来の掛かったこのイベントに挑んでいたという事であった。
レオンの本気を相手にして、イルミは遂に本腰を入れたという事であった。
――本当に癪に障る奴だよ、テメェはよ!
持っている武器が短剣であるのを見た時から苛立っていた。
自分がどれだけの思いでこれから戦おうとしているとしているかと、初めから本気を出すつもりのないイルミに憤っていた。
しかし、遂に本気をだしたイルミにレオンは嬉々として立ち向かっていく。ようやく白黒つける事が出来ると。本気を出したイルミを倒せば彼女も認めてくれるだろうと。しかし――
「なっ」
届かない。同じ片手剣同士の一騎打ち。レオンの技量はイルミに全く届いていなかった。
打ち合っていたはずが次第に打たれる側に、防御に回っている事に気付かされる。
――なんで俺が押されている!?
イルミの剣速は【シル・フィード】を使用したレオンの剣よりも速く鋭い。風の刃も呆気なく躱されていく。
――これが……【勇者】と【武神】譲りの剣か!
英雄であるレイヴァンも武神であるルディアも最も扱っていた武器は【片手剣】であった。
その二人と毎日のように特訓していた事がどれ程のものなのかレオンは、イルミと剣を交えて初めて理解する。
指導者の熟練度が高ければ高い程、教えられる側の熟練度も上がりやすくなる。超一級冒険者の指導を幼い頃から受けているイルミの【片手剣】の実力はレオンの想像を超えていた。
だが、レオンもそれを認める訳にはいかない。勝って否定する事が彼の目的なのだから。意地でも認める訳にはいかなかった。
「舐めんじゃねぇぞ【Lv.1】が!!」
精一杯の咆哮。普段通りにイルミに食って掛かるレオンの表情は覚悟を決めた目をしている。
「【テンペスト】!!」
レオンの周囲に纏わりついていた風がより一層強く吹き荒れる。彼の周囲だけ嵐が訪れたかのような様子。
「――っ!」
急激な変化に思わず距離を取るイルミ。
「はっ、ビビったかよ」
と、余裕そうに話すレオンだったが、息が荒れ、言葉ほどの余裕はないようであった。
「さぁ、本番はこっからだぜクソ野郎!!」
全てを吹き飛ばさんとする風の中でレオンは笑うのであった。




