シャミアVSコーデリア ①
――ブレイズ・ナックル
シャミアが勢いよく自分の拳と拳を突き合わせると火花が散り、その次の瞬間には両方の拳から炎が燃え上がる。
「いくよ、コーデリアさん」
「うん、大丈夫」
大剣を背中から引き抜いてコーデリアは構える。
「ふぅ」
と軽く深呼吸を入れたシャミアは、トントンと軽くステップを何度か踏む。すると、もう待ちきれないとばかりに、地面が抉れるほど強く蹴り上げ、コーデリアの事を真正面からぶん殴りにいくのであった。
シャミアの拳に対して、コーデリアも大剣を振るい受け止めると衝撃で破裂音が鳴り響き、辺り一帯の木々を揺らす。
力と力がぶつかり合った結果、力負けして後退ったのはコーデリアであった。
――力では負ける訳にはいかない!
学校最強と呼ばれるコーデリアとシャミアのレベル差は7。魔法関連の冒険職でない限り、このレベル差があれば、力で勝る事はまずない。
しかし、シャミアにそんな常識は通用しない。異常なほど力に特化したステータスはそんなレベルの差を覆す。
さらにシャミアの使用する【ブレイズ・ナックル】はレオンの使う【シル・フィード】のような器用さがない代わりに、自身の力を爆発的に伸ばすスキルである。
まさに神に選ばれた力の権化、暴力の化身であった。
力ならば勝てると分かったシャミアは更に追い打ちをかける。
彼女の戦い方は一つしかない。とにかく相手を力の限り殴る。ただそれだけ。
炎の拳がコーデリアを追い詰めていく。大剣を使ってガードをするが、シャミアの力に押される一方であった。
「おらぁ!!」
「うっ」
と、シャミアの攻撃がついにコーデリアのガードに綻びを生む。
――もらった!
生まれた隙に間髪入れる事なく容赦のないボディブローを食らわせるシャミア。
確かな手応え。しかし、次の瞬間には冷や汗が一滴垂れる。
シャミアの一撃を食らったコーデリアは何一つ動じていない。先日食堂であったレオンとの模擬戦、あの時程の溜めはないにせよ、【ブレイズ・ナックル】を使う事もなくガード越しで実力者とされるレオンが吹っ飛んでいた。それなのに
目の前の彼女は動じる事無くそこに立つ。
「あっ」
攻撃をくらったコーデリアの顔を見た瞬間シャミアに寒気が奔る。
シャミアの攻撃を食らっても尚、コーデリアの顔色は一つも変わらない。いつも通りの無表情のまま。そして、その無表情のまま攻撃を当て隙が出来たシャミアに大剣を薙いだ。
「ぐぅ」
腕でガードしたもの、衝撃は受け流す事が出来ずに吹き飛ばされる。【Lv.30】の力から繰り出される攻撃はシャミア程の威力はないとは言え、学生の中では十分規格外な破壊力を見せつける。
吹っ飛ばされたシャミアは何とか受け身を取って体勢を立て直す。シャミアのHPは腕でガードしたものの三割程減っていた。そして
「は?」
シャミアはコーデリアのHPを見て唖然とする。確かな手応え、シャミアが受けた攻撃とは違い、ガードなしの直接的なボディーへの一撃で減らせたコーデリアのHPはシャミアのHPと同じく三割程しか減っていない。
最強の矛と最強の盾。
学校の中で一番の攻撃力を持つシャミアと一番の防御力を持つコーデリア。
どちらの方が強いかという事象に矛盾なんてものはなく、最強の防御力を持ちながらも最強に近い攻撃力を有するコーデリアの方が当然強いという、あまりにも当たり前な結論。
――分かっていた。覚悟はしていた。だけど――
最強の防御力を持つコーデリアをたった一発殴っただけで三割ものHPを持って行くシャミアの攻撃力は誰から見ても目を見張るものがある。だが、コーデリアの強さはそれ以上をいく。
対峙して分かる圧倒的な差。誰もが彼女の事を形容したくなるその言葉。
「化け物……」
ダリルもその仲間もシャミアでさえも、コーデリアと相対した人間は彼女の事をそう呼ぶ。
強いは恐ろしい。これだけ実力がありながら、学校の中でコーデリアが孤高に過ごしていたのも分かるというもの。圧倒的な強さは彼女から人間を遠ざけたのであった。
飛ばされた衝撃で炎が消えてしまったシャミアの両手。その手の平で両頬を叩いた。パンッという音と共に微かにシャミアのHPが減る。
――ビビッてんじゃないわよ、私。
メラっと拳から小さな炎が上がる。
――負ける訳にいかないのよ!
ボンっとシャミアの気持ちに呼応するかのように勢いよく炎が燃え上がった。
そして再びコーデリアに真正面からシャミアは向かっていく。
猪突猛進。
彼女にはそれしかない。それしか出来ない。ただただ相手をぶん殴るだけ。
「ぶっ飛ばす!」
再び彼女たちがぶつかり合った瞬間、先程よりも更に大きな爆発音を周囲に響かせるのであった。




