ザイツの実力
第33話です!
「イルミ……」
流れを見守っていたコーデリアだったが、イルミとザイツが対決しそうな様子を見て心配そうに声を掛ける。
「ごめんリア、ここは俺に任せて」
先程のバカップルとの戦いを自分に任せて欲しいと言った手前、了承せざるをえないコーデリアは黙って見守る事にする。
「ザイツ様、魔法はどうされます?」
「あん? 【Lv.1】相手なんかにいらねえよ。 サスフィールとの対決まで温存しておけ」
「しかし……」
「いらねえって言ったらいらねえんだよ。三度目は言わねえぞ」
ぴしゃりと、マリアのサポートを拒否するザイツ。
「本当にマリアさんのサポート受けなくていいの?」
「はぁ……三度目はないって言ったんだけどな。聞いてなかったのかよ」
「最終確認だよ。あんまり俺を舐ないほうがいいよ?」
ザイツは不敵な笑みを浮かべる。
「くっく、大丈夫だシンドレア。俺はお前の事を一切舐めちゃいない。だから安心して――潰れてくれや」
言うのと同時に、小さな動作でクナイを投擲するザイツ。
「――ッ」
不意を突かれたが、飛んでくるクナイに反応し持っている短剣で叩き落とす。が、注意がクナイにそれた次の瞬間にはザイツは元居た場所から移動し、消えていた。
手品のように消えたザイツを探すイルミ。
「良い反応するじゃねえかよシンドレア」
と、背中の方からザイツの声が聞こえ急いで振り向く、が、振り向いた先には誰もおらず、全く別の方向から再びクナイが飛んでくる。
「ぐっ」
今度は反応が間に合わず少し体にかすめてしまい、HPバーを少し削る事になる。
「ちょっと早すぎじゃないか?」
ザイツの気配はイルミの周囲をかく乱するように動いており、森にある木から木の間を高速で動いているようであった。単純なステータスの高さもあるのだろうが、不安定な足場の上でも素早く身動きの取れるザイツの身のこなしにイルミは翻弄される。
そして、その意識の隙を手玉に取るかのようにザイツのクナイがイルミに何度も襲い掛かる。
「【暗器】なんてルディ兄でも使っている所を見た事ないぞ……」
武器の技術ステータスに分類される【暗器】は少し他の武器技能とは違い、暗器とされる小道具全てを指し、 ステータス熟練度以前に、多くの武具を使いこなす必要がある技能である。
使いこなせる人間が少ないという事もあり、イルミですらお目にかかった事がない武器をザイツは使いこなしていた。
「職業が【盗賊】で武器が【暗器】って、どんな家で育ったんだよ?」
「特殊な家系なのは俺も認める所だ。ま、知りたかったら全部終わった後にマリアにでも聞いてくれ」
と動き回りながらも余裕そうにイルミに対して答えるザイツ。
技術ステータスのマニアとも言えるイルミにとって、割と真面目に【暗器】を使える人間がいる家というのに興味があったが、今はそれどころではない。
高速移動に遠距離攻撃、短剣を使い追う術がないイルミはなす術がなく防戦を一方的に押し付けられているように思えたが、ザイツの速さに慣れてきたイルミはひっそりと狙いをすませ、予測し、そして照準を合わせた。
「【ウィンド・ショット】」
魔法であった。漂う空気を圧縮し空気砲のように放ったのであった。
「な、」
高速で動くザイツを正確に射貫くように、イルミの放った風の弾丸は想定外であったザイツを射抜く。
「ザイツ様!?」
イルミの攻撃が直撃し、木から落ちるザイツを見たマリアの悲鳴が響く。
「あーくそっ、嫌になるぜ……ったく」
と、あまりダメージが無さそうに平然とイルミの前に姿を現すザイツ。しかし、魔法はきっちり直撃しているようで、HPバーは少し減少していた。
「お前こそ何者だよ。【Lv.1】のくせにその動き。おまけに【盗賊】のスキルに魔法まで使えるだ? 聞いた事ねえよそんな冒険者」
「あいにく、英雄様で学園長様であらせられるクソ親父の息子でしてね。オマケに生まれた時からレベルが上がらない特異な体質だったもんで、普通の冒険者になる訳にはいかなかったんだよ」
ザイツの生い立ちも余程特殊そうであったが、特殊性で言えばイルミも負けていない。そんな事で勝っても仕方ない、というか勝ちたくもないと思うイルミ。
「俺の不意の一撃を躱したのもまぐれじゃないって訳か……。なるほどな」
何か自分の中で納得したようで、ザイツはうんうんと頷くと、
「おい、マリア」
と、ザイツはマリアを近くに呼び寄せた。
――本気で来るか?
イルミの実力を再評価したザイツは、遂にマリアの強化魔法を使用してくるとイルミは考える。あのスピードから更に他のステータスと一緒に大幅な上昇をする。イルミにとって、あまり考えたくない事であった。
しかし、逃げる訳にはいかないイルミ。次の戦闘に備えて短剣を構える。
「帰るぞ、今回は棄権だ。また今度仕切り直す」
「……はい?」
棄権するという予想外のセリフに間の抜けた声が出るイルミ。
「俺の目的はサスフィールとのタイマン。それも万全の状態でだ。このイベントの優勝にも興味もねえ。お前が【Lv.1】だって聞いたからさっさと倒して、一対一に持ち込もうと思ったんだが、ホント、面倒だよお前」
「悪かったな面倒で」
「いや、初めの一撃を受け止められた時に俺も気付くべきだった。舐めてないと言いつつ、お前の実力を甘く見てたらしい。スキルの有無じゃそもそも受けきれないって事に思い至るべきだった。俺の方こそ悪かったな、面倒事に巻き込んじまって――じゃ、お前らは最後まで頑張れよ」
と、本当に背中を向けてこの場を離れようとするザイツとマリア。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「あ? なんだよ?」
「俺との決着はつけなくていいのか?」
不完全燃焼なイルミ、しかしザイツはもうイルミには興味がないらしく
「言ってんだろ、俺はサスフィールと喧嘩しに来てたんだよ。お前に用はねぇよ。それとも、何か? お前の事を騙していたマリアが俺に叩かれたからお冠ってか? はっ、何だよそれ?」
嘲笑うかのようにザイツはイルミの事を見る。
「いいかシンドレア? コイツのクラスメイトか知らねえけど、俺とマリアからしたらお前なんて圧倒的に部外者だ。そんな奴が俺達の関係に口出そうとするんじゃねえよ、英雄気取り――じゃあな」
イルミ達に有無を言わさずその場を去っていくザイツ。その後ろをイルミとコーデリアに深くお辞儀をしたマリアが付いて行くのであった。
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