孤独のマリア?
第32話です!すみません!ゲームの大会がありそちらに集中するため投稿をサボっていました……また21時から投稿を始めるのでよろしくお願いします!
花火が上がり、地図に描かれた①の円が禁止エリアとなった事が出場選手に伝えられる。
コーデリアが持っているポーションの色が一つ変わっており、あのバカップルが失格になった事を表していた。
イルミの持つポーションの色が変わらない所を見ると、片方は予想通りではあるが失格扱いとなったようであった。
「ん、リア」
静かにコーデリアにイルミは声を掛ける。近くに誰かがいる事をイルミは教えているのであった。
緊張が奔るが、次の時には「あれ?」と、イルミは不思議そうに首を傾げる。
「どんどん遠ざかってる?」
どうやらイルミが感じていた気配は、一目散にイルミがいる場所とは別に走り出したようであった。
「追う?」
「いや、逃げるって言うなら無理に追うのは辞めよう。罠の可能性もあるし」
存在に気付いた事を気取られたつもりはなかったとイルミは思う。が、やはり再び戻ってくる様子はなさそうであり、完全に気配が無くなってしまった。
一番の可能性はコーデリアを見て一目散に逃げたという事だとイルミは思う。
最初に相対したコンビが特別だっただけで、普通はコーデリアと何の準備もハンデもなく戦わないものかもしれないと考え直す。
例え相方が【Lv.1】だとしても、相手は現・学校最強の生徒だ。準備し過ぎる事なんてなかった。
実際、無策で立ち向かってきたあのカップルは何もする事が出来ずに倒されてしまったのだから。
となれば、コーデリアがいる限り、しばらく戦闘はないかもしれないと思い始めるイルミ。しかし、イルミの耳が誰かがこちらへと近づいて来る音を拾う。しかし、その音に違和感を覚えるイルミ、なぜなら
「……一人?」
タッグマッチであるはずなのに、イルミの耳に聞こえる音は一人だけであった。しかも、躊躇する事なく全力でこちらへと向かってくる。
「ちょっ、リア! 誰かこっちに来てる! 構えて!」
片方がやられて、焦って逃げた結果、こちらに気付かないのか単純に攻撃をしかけに向かっているのか判断がつかないため、戦闘を準備の指示を出すイルミ。
ガサガサと草木をかき分け音を立てながら、存在をわざと示しているかのように目立ったその人物はイルミ達の前に飛び出した。
「あ! お待ちくださいませ! シンドレア君、サスフィールさん!」
現れた少女はフワフワしたピンクの髪をあわあわと揺らしながら慌てて攻撃を止める様に言う。
「え、マリアさん?」
意外な人物の登場に目を丸くするイルミ。
「誰、イルミ?」
「えっと、俺のクラスメイトなんだけど、え、何で一人?」
血気盛んな生徒が多いこの学校において、イルミにとってマリアは唯一と言っていい程、人畜無害な知り合いであったため、警戒を解く。
何故、彼女が一人で居るかの方が気になったからであった。
ネリルの情報ではザイツはシャミアやレオンと並ぶ実力者だと聞いていたイルミ。更に、マリアと組んだ時にはコーデリアすら凌ぐと言われている程であった。
「ザイツ様は……今……」
と、暗い顔をするマリア。ザイツに何かあったのは確かであった。
「ザイツくんは今どこに居るの?」
イベント中であるのにも関わらず、イルミはクラスメイトの事をつい気に掛けてしまう。
「ザイツ様がどうしているか言う前に私はシンドレア君に言わないといけない事があります」
――言わないといけない事?
と不思議に思いながら、続きを待っていると綺麗な所作で一歩下がり、頭を下げる。
「大変申し訳ありませんシンドレア君。私は貴方を――謀りました」
「っっ‼」
ゾクッと背筋が凍るような気配を背後に感じイルミは咄嗟に反応し振り返る。
――ガッ、
と武器同士がぶつかる音がする。イルミが背後の奇襲を防いだ音であった。
「あ?」
と、そこには眉を潜めた目つきの悪い男子生徒の姿。その生気のない無気力そうな目をイルミは覚えていた。
「ザイツくん……!」
マリアが一人で行動していたため、てっきり失格になったと思っていた相手は突如、背後から襲ってきたのであった。
「イルミ!」
反応が遅れたコーデリアがイルミを助けようとするが、もう既にそこにはザイツの姿はない。
「おいマリアぁ」
いつの間にかマリアと一緒にイルミ達から距離を取っていたザイツ。
「何でございましょうザイツ様」
――パンッと乾いた音が鳴る。ザイツがマリアの頬をぶったのだった。その影響でマリアのHPバーが少し減少する。
「何じゃねえよ、お前が余計な事するせいで気取られじゃねえか。満足にデコイにもなれねえのか、お前は」
パン、パンと続けて頬叩くザイツに「申し訳ありません」と言い何の抵抗もしないマリア。少しずつだが、HPバーが減少していっている。
急な出来事に思考が追い付かないイルミだったが、目の前でクラスメイトが暴力を振るわれているのを黙って見ていられる人間ではない。
「おい、その辺にしとけよ。マリアさんが何したっていうんだよ」
「あ? あー悪かったよ放っておいて、えっと……お前は確かシンドレアだったか? スマン、スマン、名前を覚えるのはどうも苦手でな。それで、こいつが何したかって? そりゃお前、囮としての役目を果たさないだけじゃなく、ネタバラシまでされちゃ主としてしつけるしかないだろうよ、なぁマリア?」
「も、申し訳ありません。ザイツ様が完全に背後をとっていらしたので油断しました……」
「今後に及んで言い訳か? マリア? ……まぁその点に置いては俺も同意だ。なぁ、シンドレア、もしかしてお前、俺と同じスキルを持ってるだろ?」
「同じスキル?」
「【探知】だよ【探知】。じゃねえと俺の攻撃が防がれた通りに合わねえよ。そこの学校最強ですら反応できなかったんだからよ。ただ俺の【隠密】スキルの熟練度の方が高かったみたいだけどな」
コーデリアはザイツが何を言ってるか分からなかったがイルミにはハッキリ理解できた。【探知】も【隠密】も両方とも【盗賊】の使う事が出来るスキルであり、イルミも両方使う事が出来る。しかし、その両方ともがザイツの熟練度よりも遥かに下回っていたため、真後ろまで接近されるまで存在に気付けなかったのだった。
「はぁ……相方が【Lv.1】だって聞いてたからサクッと不意を突いて終わらせようと思ったのによ、結構やるんじゃねえか……はぁ、でもやっぱめんどくせえよ、お前」
「さっきから面倒くさいばっか言いやがってお前こそ何なんだよ?」
「あースマン、俺の悪い癖だな。いや、ちょっと戦う必要があるんだよ、家の事情って奴で。そこの学校最強さんとな」
学校最強、つまり、コーデリア・サスフィールの事を指している。
「だから、えーと、なんだっけ。あーシンドレアか、ちょっと黙って見ててくれない? タイマン勝負じゃないと納得して貰えないらしいんだよ。まぁこっちはこいつのサポートありだから、実質2対1なんだけど……なぁ、どうよ?後ろから襲った事は謝ってやるからよ」
「どうもこうも、良い訳ないだろうが」
良い訳がない。それにイルミは怒っていた。自分を騙すように動いていたとは言え数少ない自分の友達に対して平気で暴力を振るわれていた事に。
「リアと戦いたいって? そんなに戦いたいなら先に俺を倒していけよ?」
明確な敵意をもってイルミはザイツに挑戦を叩きつける。
「はぁ、お前は本当に――めんどくせえよ」
そういうザイツの顔は少し楽しそうな表情をしているのだった。
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