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シャミアの焦り

第27話です!

「聞いたか? シャミアがカマリナの森で、一日の最大討伐数を更新したらしいぞ」


 イルミが課外授業から帰り教室に戻った時、教室内でそんな話をしているのをイルミは聞いた。


「レオンが振り回されてたらしい」


「目を血走らせて魔物に突撃してたらしいぞ」


 カマリナの森は【Lv.20】以上になった生徒が行く事が出来る場所で、魔物の質も量もイルミがいた草原とは比べ物にならない程、高く多い。あくまでピースゾーンに区分されるイルミの居た学校近くの草原と比較しての話ではあるが。一般の人であれば十分に危険であり、生徒達にとっても油断は出来ない場所であった。


「目についた魔物は一撃で殴り殺していたって」


「人の獲物でも関係なく倒して、文句を言おうにも迫力凄すぎて黙るしかなかったらしい」


 聞いている限りではかなりの無茶をしているようでイルミは少しそわそわする。


「おい! シャミア! 無理し過ぎだぞ!」


「あーもう、さっきかからうるさいわね! いいじゃない別に!」


「組まされる俺の身にもなれよ!」


「別に付いてこなくてもいいわよ。私の邪魔しないで!」


 教室の外で騒がしく怒鳴り合っている声が聞こえてきた。


「邪魔って……お前、そんなボロボロでよく言えるな」


 思わずイルミの視線は声のする方へと向いてしまう。そこには、顔や手足、至る所に傷があるシャミアの姿があった。魔物と戦闘をしているのだから怪我をする事なんて日常茶飯事であるが、学外授業でいける場所は、【Lv】に比べ、かなり安全な場所が設定されている。


 そのため、シャミアがここまで傷だらけになっている姿というのはイルミも入学以来初めて見る姿であった。


 ついつい、イルミがシャミアの姿をマジマジと見ているとシャミアが視線に気づき、イルミと目が合ってしまった。今の状況をイルミに見られたシャミアはバツが悪そうに眼を逸らす。


「……巻き込んだのは悪かったわよレオン。でも、時間がないのよ。私はイベントまでに一つでもレベルを上げたいの」


「レベル一つ上げるのにどれだけ時間が掛かると思ってんだよ? イベントまであと一週間程しかねぇんだぞ? それに次またあんな無茶してテメェが壊れてちゃ元も子もないだろ?」


 口調は少し荒いがレオンなりにシャミアを心配している様子である。それはシャミアも十分に理解している。


「分かってる、分かってるけど……」


 シャミアの内側で色々な感情がグチャグチャに混ざり合う。必死に何かを抑えているようにも思えた。


「私は負ける訳にはいかないの――もう、止められない」


 「ごめん、先に帰る」と授業終わりの終礼を待たずにシャミアは教室を出ていく。


「チッ、なんだよアイツ……」


 と、悪態つくも出て行ったシャミアの影を追うよう見ているレオン。その顔は複雑な感情を表しているようで、怒っているのか悲しんでいるのか困惑しているのか難しい顔をしていた。


「おい! 見てんじゃねぇぞ!」


 二人の様子を自分の席から窺っていたイルミの視線に気づき、レオンは声を荒げる。


 怒鳴られたイルミはフッと視線を外し、窓の外を見る。しかし、すぐにその目線は今日はもう埋まる事がなくなった隣の席に目が映る。


 ほんの数日しか経っていないのに、隣の席でうるさく離し掛けてくる幼馴染の姿が懐かしく感じるイルミであった。





 自分の寮部屋にいち早く帰ったシャミアは息を荒げていた。


「はぁはぁ、ぐ、ううぅ……」


 ドレッサーの上に手を付き必死に何かを耐えようといているようであった。


 シャミアの目の色が感情の高まりによって変わろうとしているのだった。


――感情が、抑えられない……!


 顔を上げて自分の顔を確認するシャミア。今までも何度か感情が抑えられず目をほんのりと赤くする時はあったが、今回はほとんど真っ赤に近い色をしていた。


――まずい、かも


 ここまで赤くなったのは入学以来初めてだとシャミアは思う。魔物との戦闘で感情を高ぶらせ過ぎた、と。


 ずっとレオンが自分を止めようとしている声は聞こえていた。しかし、シャミアは止まらなかった。もう既に自分を止める事が出来なくなっていた。


 イルミとコーデリアがコンビを組んだ事によって生まれた焦りと焦燥、それに駆られ高ぶった感情を晴らすために魔物をぶん殴り、ぶん殴った事により感情が更に高ぶってしまうという悪循環にシャミアは陥ってしまっていたのだった。


 目についた魔物を力の限りに殴り殺していく姿はまさに暴力の権化である【暴君】のようであった。


 シャミアもそれは理解していたが、破壊の衝動が抑えられないでいた。


 戦闘中、感情が飲み込まれ、自我が遠ざかっていくのを感じていたのだった。


 自分の感情を抑えてくれていた精神安定剤のような存在が今は近くにいない。ここが限界。これ以上は自分でもどうなるか分からないとシャミアは思う。しかし


――負けられないのよ


 諦めきれない。真っすぐに自分の夢を追う幼馴染に、置いて行かれないためにも。


 示す必要がある。証明する価値がある。分からせる義理がある。


 シャミアはコーデリアを倒さなければいけなかった。


 大切な彼の隣をこれからも一緒に歩んで行くために。


「くうぅ……」


 その日、シャミアの呻き声が止むことはなかった。

読んで頂きありがとうございます!毎日21時に投稿しているのでブックマークを押して頂けると嬉しいです!またYouTube『熱き漢たかの熱唱熱遊ch』にてゲーム実況をしていますので興味があれば遊びに来てください!

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