裏切りの誘い
第26話です!
イルミとコーデリアが共に生活するようになり数日が経ち、再び学外授業の日となった。
結局、シャミアに取り合って貰うことが出来ず、二人の仲直りが叶う事はなく、イルミもイベントまではと、半ば諦める姿勢をとっていた。
前回の学外授業ではイルミに付いてきていたコーデリアだったが、今回は別行動をしていた。
出発の直前までコーデリアは付いて行くと駄々をこねていたが、ちゃんと自分の特訓もするべきだとイルミに諭され、考え直す。
前回の事を思えばイルミが向かう場所は危険もなく、何より自分自身がイルミの成長の阻害をしかねないと判断したコーデリアは素直に付いて行くのを諦めるのだった。
という訳で一人になったイルミ。とは言っても前回とやる事はほとんど変わらず、今回も野草の採取から始めるイルミ。
前回採取した所とはまた別の場所で採取を始めるイルミ。いくつか最終のポイントを決めて採集をしているようであった。
しかし、イルミはすぐに採集を始めなかった。先程から誰かがずっと後ろから付いてきているのだ。
初めはコーデリアが一緒に行くのを諦めきれずに付いてきていると思っていたイルミだったが、確かにコーデリアは馬に乗り、先生達と出発して行くのを確認していたイルミ。
では、今、自分の背後に付いてきているのは誰なのだろうか。
コーデリアの他にも、シャミア、レオン、レイヴァン、誘拐犯、など色々な可能性を考えたがどれも合致しないように思える。
いっその事、(巻いてしまうか?)と考えるイルミ。幸いここはイルミにとって庭のような場所である。草原であり、遮蔽物がほとんど何もないとは言え、逃げると言う一点においては自信があるイルミであった。
だが、巻いてしまうと付いてきている人物も目的もハッキリしないままになってしまう。逃げる事に自信があるのであれば、と、寧ろ接触してしまおうと考えるイルミ。
足を止めて、採集を始め相手が近づくのを待つイルミ。そして待っている間にある事に気付く。
後ろから付いてきてはいるが特別自分を尾行している訳ではない、という事だった。
気配を消す気が全く感じないのであった。
そもそも、遮蔽物がないせいで巻くのも難しいという話だったが、当然、尾行するのも難しくなるのだが、そうだとしても、尾行と言うには堂々としたものだとイルミは思う。
となると、自分に気付かれてもいいという事だと考えるイルミは、警戒を解いて今、気付いたかのように後ろから付いて来ている人物の方を向く。
すると、やっと気づいてくれたと言わんばかりにその相手はイルミに向かって大きく手を振るのだった。
あまりに友好的な態度にイルミも首を傾げながらも思わず胸のあたりで小さく手を振り返してしまう。
「シンドレアー!」
とイルミの家名を呼び走ってイルミの元へ向かう男はイルミと同じシンドレア学院の制服を着ている。
「えっと……」
言葉に詰まるイルミ。何故なら走ってくる人物に見覚えがなかったからであった。普段から人との付き合いが少ないため、自分と交流がある生徒であるなら覚えているイルミだが今、向ってきている男子生徒には一切見覚えがないのであった。
「はぁはぁ、ごめん、ごめん驚かせちゃって」
と、急いで走ってきたため少し息を切らしている男子生徒。
「本当は学校出てすぐに話かけようと思ったんだけど、君がこの何もない草原で何をしているか気になって、僕に気付くまで待ってたんだ。今、足を止めてたけど何をしていたの?」
「あの、少し薬草採集を……あの失礼なんですけど、どなたです?」
「あーすまない、というか、僕の事は分からないか。一応同じ学年なんだが、同じ学年でも100人以上はいるだろうから知られてなくても当然か……それに、サスフィールとかハ―ネットみたいに強さで目立ててないからな」
と、コーデリアやレオンの名前を持ち出す男子生徒。
「僕はダリル・エンドリス。ダリルでもエンドリスでも好きに読んでくれていいよー」
にこやか自己紹介をするダリル。人懐っこい笑顔をしているようにイルミは思う。学校生活で関わった事はないが確かにこんな人物をたまに見かけた気がするイルミ。
「……ダリル?」
どこかで聞いた名前な気がしたイルミは、すぐに誰から聞いた名前かを思い出す。
「お、いきなり名前呼びかシンドレア。もっと非社交的なのかと思ってたけど」
「あ、いやごめん、ダリルくん。ちょっと考え事をしてて」
「そうか? 別に呼び捨てにしてもいいんだぞ? 俺も呼び捨てなんだからさ」
しかも家名の方で。イルミの事を非社交的だと思っていたと言っているが、ダリルは逆にかなり社交的な人間であった。イルミもコーデリアからはコミュニケーション能力が高いと評価されていたが、ダリルはイルミとは別の方向でコミュニケーション能力が高いと言えた。
「それで、ダリル君は、わざわざどうしたの?」
これ以上向こうに話のペースを合わせていたら、本題に入れなさそうに感じたイルミは、自分からダリルに要件を聞く。
「あーそうそう。シンドレア。僕はお前に協力して欲しくてお願いをしにきたんだ」
「……お願い?」
わざわざイルミが一人になった所を狙って来ている所をみると、あまり人聞きの良い話ではなさそうだった。
「そうお願い。なぁシンドレア、今度イベント、サスフィールと組んでるだろ? ちょっと――裏切って欲しいんだ」
「は?」と思わず声に出るイルミ。裏切って欲しいとダリルは確かにそう言った。
「ごめん、唐突だったね。いやね、僕はさ、貴族とか騎士とか良い家柄に生まれた奴が大嫌いなんだよ」
大嫌いと、負の感情を吐く時もダリルは笑顔を崩さない。それがイルミには逆に不気味に感じた。
「なんでシンドレアがサスフィールなんかとコンビを組んだか知らないけど、僕らの為にも裏切ってくれないかな。家柄と偶々授かった【女神の加護】だけで強くなった奴に僕らは一泡吹かしてやりたいんだ、どうだ?」
「……断らせて貰うよダリルくん」
ダリルに対して少しイラつきを見せるイルミ。
「何でだよシンドレア。今まで関係が無かったサスフィールと急にコンビを組んだのは、どうせ貴族とか上からの圧力で無理矢理組まされたんだろ? そのせいで仲良くしていたグランデと喧嘩したって聞いてるぜ?」
ダリルの言っている事は8割型合っているが、負けたら意味のないイルミに取って裏切るメリットはどこにもなかった。
「シンドレアはムカツかないのか? このレベルの差が。良いとこの坊ちゃん嬢ちゃんってだけで。生まれが違う時点で差が付いてるなんて不公平だと思わないか?」
ダリルの言う通り、貴族や騎士階級で生まれた人間は環境が平民とは明らかに違う。指導者も違えば魔物と戦える機会も違う。実際、コーデリアはサスフィール家に来た依頼に付いて行くという事もしており、祖母も【聖騎士】という【騎士】系列の中で最上位の指導者がいる。
コーデリアの場合は上流階級の中でも恵まれている方ではあるが、それでも平民との環境は冒険職を目指すうえで不公平であるのは確かであった。
「それで言うなら俺も上流階級の側じゃないのか? 英雄様の息子だぞ?」
「本来ならそうだけど、シンドレアも生まれながら不公平を味わってきた側だろ? 【Lv.1】から上がらないなんて誰よりも不公平を背負って、そんなお前なら分かるだろ? 生まれながらの理不尽を打ち破って、勝ってみたいと思わないか?」
ずっと笑顔。変わらない笑顔。人に好かれそうなその笑みのままイルミを引き入れようとする。
「確かにそれはずっと思ってる」
イルミはダリルの事を肯定する。
「そうだろ? だから――」
「でも、断るよ」
その言葉にダリルの笑顔がフッと消える。
「どうしてだい?」
次の言葉を発する時には笑顔に戻っているダリル。
「別に俺はこの理不尽も悪くないって思ってるし」
「強がるなよ。僕もお前程ではないけど、レベル差の圧倒的な理不尽さは知っている。そんな理不尽に抗ってサスフィールに一泡吹かせられるんだぞ? 【Lv.30】の学校最強を相手に」
「どうやって、俺に何をさせて、リアに勝とうとしてるか分からないけど、裏切ったり騙したりして勝つなんてそんなの英雄っぽくないでしょ?」
どんな理由を付けようとイルミは今回のイベントで負ける訳には行かないため、ダリルの提案は拒んでいただろうが、それとは別の意思を感じさせた。そしてイルミは今のセリフに「それに――」と付け加ええる。
「俺が倒してやる。お前が言うレベル差の理不尽を。見せてやるよ【Lv.1】が学校最強に勝つところを」
そもそもイルミはコーデリアに勝てる所を示す必要がある。それをダリルの前で宣言した。
「ふ、ふふっ。あっはっはっは!!」
と、ダリルは腹を抱えて笑う。その顔は張り付けられたような人の良い笑顔ではなく、本気で顔をクシャクシャにした笑顔であった。
「お前バカだろ。【Lv.1】のお前は一人でサスフィールを倒す? 親のコネで入学した奴が偉そうな口をたたくなよシンドレア。やっぱり、英雄の息子ともなれば、こんな頭の悪い幻想を抱いちゃうのかよ」
もう、ダリルの顔は心底イルミを馬鹿にし、見下すような笑みに変わっていた。
「初めて坊ちゃまと分かり合えると思ったんだが、やっぱり無理みたいだ」
「俺もダリルくんとは分かり合う事はないかな」
もう二人の間に愛想笑いも笑顔もない。静かに二人睨み合っていた。
「シンドレア、お前が協力するか関係なく僕らはサスフィールを狙う。だから、パートナーのお前も容赦なく叩き潰してやるよ」
そう言うと「じゃあな」と言ってダリルはイルミの元を後にする。イルミはその背中を見送る事なく、再び薬草の採集に取り掛かるのだった。
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