情報屋ネリル
第22話です!
「え、シャミアとレオンがコンビを?」
「そない驚く事でもないやろ。あの子ら、レベルと実力も近いのも合って、学外授業じゃようコンビを組んで魔物を討伐しとるしな。イルミ君がシャミアちゃんと組まへんのやったらそれも必然やない?」
犬猿の仲のように見えるシャミアとレオンだが、二人が喧嘩をしている原因は主にイルミにある。実力自体は認めあっているためお互いライバル的な存在であると認識しているようであった。
イルミもそれを知らない訳ではなかったが、そもそもタッグマッチにシャミアが出るという事にイルミは驚いていた。
「タッグマッチは俺と出られないなら出ないってずっと言ってたのに」
「いやいや、イルミ君。先に浮気しといて、相手が別の人と組んだ事にとやかく思うんは流石にクズやで」
「浮気って……いや、別にシャミアが誰と組もうとアイツの勝手だしいいんだけど、意外だなって」
「はぁー」と、溜息をつき、やれやれと首を横に振るネリル。
「ホンマにアホやなイルミ君は。女心をなんもわかっとらんよ。そんなん復讐に決まってるやん。ずっと約束してた相手に裏切られたんやから、一発どでかい一撃食らわしたらな腹の虫もおさまらんやろ」
「女心なのかそれって?」
「女心や! もうシャミアちゃんの頭の中はイルミ君を見返す事しか頭にないはずやし、腹も煮えまくりよ。まぁ、その怒りがどっちに向くかって話ではあるやろうけど」
と、ネリルはコーデリアの方を向く。「私?」とコーデリアは首を傾げる。
「それが一番手っ取り早いからな。イルミくんを見返すためには、リアちゃんを倒す事が。今度の対抗戦、バトルロワイヤル式の模擬戦タッグマッチやろ? 絶対狙ってくるやろな自分らの事を」
「大丈夫、誰が来ても私がいる。イルミは私が守る」
「えらい頼もしいなぁリアちゃんは。でも狙われるのはリアちゃんかもなんやで?」
「それでも私は勝つだけ」
本当に頼もしい相棒であった。傲りでもなんでもない、彼女の実力に裏打ちされた真実の言葉。
「まぁ、気ぃつけえよ。二人が強い事は知ってるけど、今回の大会は一波乱あってもおかしくない様子やからな。シャミア・レオンコンビだけやなさそうやで、手強そうなのは」
流石学校一の情報通は、ある程度の出場メンバーを知っているようであった。
「仲のええイルミ君とリアちゃんには特別にちょっとだけ情報教えてやるわ。友情料金ちゅう事で」
「気前がいいな」
「元々そのために君ら待ってたんやん。今回は負けられへんのやろイルミ君? 大方の事情は察してるで。ま、これから大物になるやろう、イルミ君の信用を勝ち取る先行投資や」
あれだけイルミとコーデリアの関係を弄っていたネリルだが、ある程度の想像はついているらしかった。それ事態にはイルミもネリルなら本当に正しく状況を把握していそうだと思う、が、分かっていながら色々言ってきた事には少しムカっとする。
「ネリルは何でイルミが強いって知ってるの?」
他の生徒はイルミが【Lv.1】である事だけで弱者であると判断する。実際にそれは冒険者を目指すものの感覚としては正しい。しかし、ネリルはそんな表面上だけで判断せずイルミの事を強者であると評価している。しかも、かなりの期待をもって。
「そんなもん人となりをよく観察してたら分かるもんよ。強い人間にはそれなりに周りとは違うオーラっちゅうもんが見えるんよ。商人の審美眼舐めたらあかんで」
「何がオーラだよ。最初、俺に近付いてきたの学長の息子だからって理由だったろうが」
「実際に会って実力を見抜いてんねんから間違ってへんやろ。はい論破!」
「うざっ」とイルミは溢す。結局、何故イルミの強さを見抜けたのかはコーデリアには分からなかったが、優秀な商人の能力なのだろうという事にして落ち着いた。
「それで、情報くれるんじゃないのかよ?」
「なんやその態度。それが教えて貰う方の態度か? あーあー教えたろうと思ったけどやる気なくしたぁ」
「じゃあ、いいよ別に」
素っ気なくイルミはネリルを置いてその場を離れようとする。
「あー! 嘘、嘘、嘘! 冗談ですやんイルミ君! ウチ自分らに賭けようと思ってるんやからちゃんと聞いてってぇな!」
結局、自分の利益を優先しているネリルであった。
「さっきの話だとシャミア達の優勝が一番有力とか言ってなかったか?」
「オッズがイルミ君達の方が高なる予想やからな。学校最強のリアちゃんがおるとは言え【Lv.1】のお荷物抱えてるってなったら、シャミアちゃん達に票が偏るやろうからな。大穴とまでは言わへんけど期待値としては自分らが勝つことに賭けるんが一番いいんよ。やから、話聞いてえな」
相変わらずなネリルに呆れるが負けられないという意味ではその通りだったので大人しくイルミも彼女の話に耳を傾ける気になる。
「まぁさっきから言ってるシャミアちゃんとレオン君のコンビは優勝候補筆頭やし、その実力はイルミ君も知ってるやろうから割愛するけど、他に強敵って言ったらやっぱり、ザイツ君とマリアちゃんのコンビかな」
その名前はイルミも聞いた事があった。
「ザイツ君が貴族の息子でマリアちゃんがその従者なんやけど、ザイツ君が前衛のマリアちゃんが後衛でサポートするコンビやな。マリアちゃんはザイツ君の従者やからか、主人にバフを掛ける事に特化した子で、個人をサポートする事だけ考えれば彼女が学校一やろね。ほんで、ザイツ君はシャミアちゃん達と肩並べるくらいには優秀な生徒や。二人がコンビ組んだ時は、リアちゃんに勝るとも劣らん実力やって言われてるな」
「リア以上の実力か……」
その話だけで強者たらしめる。逆にコーデリアの実力がどれだけ評価されているのかという話ではあるが。
「あんまりこんなイベント事には興味ない感じやったけどどういう訳か今回出場するらしくてな、まぁ賭ける票が割れるんはウチにとっても願ったり叶ったりやけど」
金にしか目がないようである。
「まぁ、基本的に優勝候補かなって思ってるんは自分ら、シャミア・レオン、ザイツ・マリアの三チームやと思ってねんけど、他に実力者上げるなら、ダリル君って平民出の生徒達のリーダー的な存在の子かな、組む相手があんまり話に上がる子じゃないから自分らの敵じゃないとは思うんやけど」
ネリルから見たイルミ達への強さの評価であった。
「あとは、うーん……」
と、ここで珍しく話に詰まるネリル。
「なにかあるのか?」
「いや、出場するって聞いた生徒の中にほとんど情報がない生徒がおるんよ」
「え、お前が知らない生徒とかいるのか?」
学校の事を全て掌握していると言っても過言じゃないネリルに情報が入ってこない生徒がいるというのはイルミにとっても意外な事であった。
「ミーシャちゃんとルーフ君ってコンビやねんけどな、強いって噂も聞かへんし、今まで目立った成績もないし、いやまぁそんな生徒はいっぱいおるんやけど。なんか意図的に目立とうとしてへんような気がするんよな。そんな子らが急にイベントに参加するっちゅうからどんな風の吹き回しかなって」
なんだかんだ言いつつイルミもネリルの情報収集能力とそれらから導く分析能力は信用している。本人は勘のように言っているが実際に怪しいのは間違えないのだろうとイルミは思う。
「卒業も近いから記念に出たいっちゅうだけの事かもしらんから、今のはあんま気にせんといて」
と、取り消すように言うネリルだったがイルミは一応気にしておこうと心に留める。
「タダで教えられるのはここまでやな。こっからは有料、もしお金払うてくれるっちゅうなら、その生徒と対峙した時に脅しに使える情報を教えたるけど?」
情報屋らしい交渉だった。もし、イベントに出ていたら、その情報で強請っていたのかと思うと本当に出場していなくてよかったとイルミは思う。
「いやいいよ。ありがとなネリル」
「なんや残念。ま、応援してるでイルミ君。頑張って優勝してな」
「お前が儲かる為にだろ?」
「何を言うてんねん――」
と、ネリルは細い目を笑うように吊り上げて言う。
「そんなん当たり前やろ?」
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