【脱兎の如く】
第20話です!
「いつ魔物の【調教師】に?」
落ち着いたのか、イルミの膝の上で丸まっているチースタルはとても弱い魔物の種族とはいえ、人間と敵対し恐れられている魔物とは思えない程、愛らしい姿をしている。
「昔、レベルが上がらないって知った時に嫌になって家から飛び出したことがあったんだ。親父達との特訓の場として、この辺りの草原によく来ていたんだけど、もう夜も遅くて、まだ方向感覚もマトモになかったせいで迷ったんだよね。その時にコイツーーベルに会ったんだ」
ベルと呼んだチースタルの頭をサワサワと撫でる。
「道に迷って一人で途方に暮れていた時に、急に現れて寄り添ってんだ。最初は戸惑ったんだけど敵意も無いし、俺も心細かったから一緒に夜を明かしたんだよね、こうやって一緒にお菓子食べながら」
イルミは再び何もない所からお菓子を作り出してベルの口元にやると、ポリポリと音を立てて食べる。
「夜を明かした後はどうなったの?」
「明るくなったら何となくの方向もわかったから自力で帰れたよ。その帰った時に確か心配したシャミアに諦めるなって説教されたんだっけ。ベルとは人の見つからようない所で別れたんだけど、その日からこの辺りで一人で特訓してたら近寄って来るようになって、気付いたら【調教師】になっちゃって、これだけは絶対に秘密にしろって親父に言われたんだけどな……何で出て来ちゃったんだお前?」
イルミの気も知らないで膝の上で心地よさそうにお腹が膨れたベルは眠っている。
あまりに無防備に寝ているのでコーデリアもそっとベルに触れようとするとーー
「シャァッ!!」
と全く可愛くない声を発してコーデリアの指を噛もうとするベル。
「おい辞めろベル!」
コーデリアを襲おうとするベルをイルミは焦って止める。すると拗ねたようにコーデリアからソッポを向くようにまた丸まって眠る。
「こ、この子、人を襲ったりする事ないの?」
「多分ないと思う。人間に勝てるチースタルなんて居たら絶対に噂になってると思うし……」
最弱の種族であるチースタル種の中でも一番ランクが低いチースタルが人間を襲うなんて事があればイルミの耳にも届いているはずである。
「魔物はそもそも人に懐く生物じゃないから、リアに触られるのが嫌だったんだろうけど。俺の他に人がいる時は近付かないように言いつけてるんだけどな」
「主人の命令は絶対じゃないの?」
「俺とベルは主従関係とはちょっと違うかな。どっちかと言うと友達かな、イッテ!?」
イルミは悲鳴を上げる。
「おいベル、お前、何で噛むんだよ!?」
どうやら太ももを噛まれたらしく、犯人はツンとした様子でイルミから顔を背ける。
「主従関係ではないみたいね」
「ま、まぁ、そう言う事。というか、【調教師】が本当はどういうものか知らないんだよな。魔物との大戦の時に【魔王】含めて数人の【調教師】が居たらしいけど、情報が少な過ぎて親父ですらちゃんと理解してないらしいし」
大戦の最前線で戦っていたレイヴァンが知らないのであれば、多分、自分の祖母も同じだろうとコーデリアは思う。そもそも、人に馴れるハズがない魔物がどうして人に懐くかも謎である。本来は成ることが不可能のはずである【調教師】の謎は深かった。
「ベルが異様に強いのも【調教師】のおかげ?」
「んー多分……」
いまいち、頷ききらないイルミ。何か引っ掛かる事があるようであった。
「他の職業は熟練度ボーナスのスキルとして現れるんだけど、特に魔物を強くするってスキルがないんだよな。というか、そもそも【調教師】には熟練度って概念がないみたい」
「熟練度がない……?」
本来どの職業にも熟練度は存在しており、その熟練度を上げてスキルやステータスを得る事ができる。しかし、その熟練度が【調教師】にはないとイルミは言う。
「見せた方が早いかも」
「見せる?」
「ベルごめん」と言って、寝ていたベルを膝の上から降ろし、立ち上がるイルミ。
「ちょっとだけ、模擬戦をしようかリア」
「模擬戦をするの? いいけど」
「模擬戦って言ってもちょっと手合わせしてくれるだけでいいから。HPゲージ とか出さなくてもいいし」
頭に「?」を浮かべながらもコーデリアも立ち上がり、ピースゾーンではあるが念のために持って来ていたコーデリアの得意な武器である大剣を手に持つ。
「本当に大丈夫?」
学校で使っていた訓練用の武器とは違い対魔物ようの武器。当たれば当然、傷が出来、当たり所が悪ければ致命傷である。
「大丈夫、そんなガチガチにやる訳じゃないし、一瞬で終わるから」
軽い感じに答えるイルミは自分の鞄の中から短刀を取り出すと、鞘から抜いた。
「じゃあ、行くよリア」
そう言ってイルミは腰を落として戦闘の構えを取る。
「分かった」
これから何が起こるのかは分からないが、とりあえず怪我がないようにしなければとコーデリアは思う。
「それじゃあ」
と、コーデリアが構えたのを見てイルミは一直線に突っ込んでいく。
――速い
【短刀】熟練度ボーナスの初期に得られるスキルには短刀を装備している時に『速』を上げるパッシブスキルがあり、その影響で普段よりも早いスピードで突っ込むイルミ。
しかし、相手は学校最強と謳われるコーデリア。それ以上のスピードの魔物とも何度も対峙しており、何ともないようにイルミを払い除けようと大剣を振りかざすーーが
「えーー」
攻撃を振った一瞬の間、イルミはコーデリアの視界から消えた。見失ったイルミを探し、近くを見渡すがいない。
「ここ、ここ」
とイルミの声が聞こえる。その声の方を見ると始まる前に居た元の位置にイルミは居た。
「いつの間にそんなところに?」
「急いで逃げて来たんだよ、ここまで」
逃げて来たという言い方が少し引っ掛かるコーデリア。今の一瞬の出来事に【調教師】の何が関わっているのかと思う。
「今のが【脱兎の如く(ラビットフット)】ってスキルで、相手から逃げる時だけ『速』のステータスが大幅に上がるってスキルなんだ。このスキル、ベルをテイムした時に得られたから、きっと【調教師】って魔物をテイムした時に、その魔物によったスキルが手に入るんだと思う」
「【脱兎の如く】……。他の魔物のテイムはした事がないの?」
消えたように錯覚する程、飛躍的に上がった速さを見たコーデリアはかなり強力なスキルだと感じた。もし、他の魔物もテイム出来るような事があれば、【調教師】と言うのはどの職業よりも強く可能性のある職業になってしまう。
「いや、そもそもどうすればテイムが出来るかも分からないし、テイムを試みる事も親父に禁止されてるんだ。方法も分からないのに危険過ぎるって理由と、そんな事がバレたら今度こそ俺の冒険者人生が終わるって事で」
【調教師】は悪党職の中でも更に恐れられ嫌われた職業。偶然なってしまったとは言え、そんな言い訳が通じる程、世間は甘くないだろう。
イルミの元に再び駆け寄ってきたベルを抱き上げるイルミ。
反抗期のイルミは否定するだろうが、何だかんだ言っても父親でありレイヴァンの言う事を聞いてるイルミ。ただ、【魔王】になる事を躊躇しないと言った彼をコーデリアは少し心配そうに見つめるのであった。
読んで頂きありがとうございます!毎日21時に投稿しているのでブックマークを押して頂けると嬉しいです!またYouTube『熱き漢たかの熱唱熱遊ch』にてゲーム実況をしていますので良ければ遊びに来てください!




