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食堂

第二話です!

 三十年前、5年もの間、続いた魔物と人間達との戦争。長年の抗争の先、多くの犠牲を出しながらも遂に人類は魔物側を統率していた「魔王」の元まで辿り着く。そして悲願であった魔王の打倒を果たす事で人類対魔物の戦争は集結となった。その立役者となったのが人類の希望であり英雄であった【勇者】――レイヴァン・シンドレア。


 彼はその功績を讃えられ、彼の出身国であるカンパネラ王国から褒美を賜る事になる。


 褒美の内容を伝えるための王との謁見にてレイヴァンはある打診をする。


――この王国に冒険職専門の学校を設立したい。


 レイヴァン曰く、再び同じ事が繰り返された場合、犠牲を抑える為にも備が必要であると、先の戦争で考え、人類全体の軍事力強化を計りたいと訴えたのであった。


 国王はこれを快く受け入れ、英雄であるレイヴァンを学長に据え、校名を学長であり世界の英雄であるレイヴァンの名を借り、シンドレア学院とし設立されたのであった。


 そしてレイヴァンは更に、カンパネラ王国の人間だけではなく全ての国の若者に対し、この学院への入学を許可したのであった。


 すると英雄が学長である学校と言う事もあり、カンパネラ国内だけではなく、他国からも多くの人間が集い入学を希望したのであった。


 それは視察、偵察の意も込められた他国への入学ではあっただろう。軍事力の強化を計ろうとする国は他国からすれば脅威の何者でもない。魔物との戦争が終わっても、人間同士、国同士の争いの方がもっと根深く歴史に存在している。


 その懸念を払う為にワザとレイヴァンは他国に向けて大々的に受け入れたとも考えられるが。


 国内外から続々と生徒達が揃い、シンドレア学院は遂に開校をする。


 開校一番に驚かれたのが学校の教師陣の豪華さであった。レイヴァン自らが冒険で出会った数々の腕利きをスカウトしたおかげで、名だたる冒険職の人間がシンドレア学院には集っていたのであった。


 また設備もカンパネラ王国領地の一部を存分に使用し、学校を建設したため、教育設備、訓練設備、他国からの留学生向けの寮や、食堂に至るまで、充実した環境を整えてあった。


 ここまで大掛かりな作業をたった一人の男の言葉で実現している事実が、英雄という存在がどれだけ影響が強いかを表していた。


 有望な冒険者を育てる目的で開かれたシンドレア学院の成果はすぐに世に出る事になる。


 質の良い環境で育った冒険者達がもたらしたのは、国の軍事力の強化に加え、領地の開拓であった。魔素が濃く強力な魔物が徘徊し立ち入る事が出来なかった危険な場所に入れるようになった事による新たな発見や領地の開拓は目に見えて世の中を変えていった。


 こうして、シンドレア学院の影響力は鰻登りで増してゆき、周辺の国々だけではなく、もっと遠方から生徒として入学をさせる国も現れ始めた。


そしてレイヴァンの思惑どおりに人類全体の軍事力が強化される結果となった。そして30年間、世代を入れ替えながら、シンドレア学院は歴史を紡いできたのであった。


 開校して30年、再び魔王が現れる事なく、今に至る。


 シンドレア学院内は現在、午前の授業が終わり、昼休みーー昼食の時間となっていた。

学校のある日の午前は基本的に座学であり、これは戦うことに一辺倒な人間が多かった事を反省した、レイヴァンが文武両道を目指すべきと授業のカテゴリーに取り入れたのであった。


 開校したての頃は戦う人間にこんな知識を詰め込む事に意味があるのかと、もっと戦いの技術を教えるべきではという疑問や反発もあったが、教養、知識を持った冒険職の人間がどれ程役立つのかを卒業生達が各国で示していった結果、今では当たり前のように座学を受け入れ、生徒達は取り組んでいる。


 座学を受ける上で生徒達は学年と教室が割り振られており、学年は入学して卒業まで6年制のシンドレア学院では入学してから三年目までは「スプラウト」と呼び、4年目から卒業するまでを「ブルーム」と呼ばれ、スプラウトの一年、二年、三年、ブルームの一年、二年、三年といったように学年が振り分けられている。


 その学年の人数によって教室の数も変わるが、大体一つの教室に30人程の生徒達がクラスメイトとして学校生活を共にしている。


 数え年で13歳からの入学を許可しているシンドレア学院では、一部例外はあるが、ブルーム一年はほとんどその13歳になる年齢の時に入学しており、歳がだいたい同じの生徒達と一緒に授業を受けていた。


 また、スプラウトとブルームでは学校棟が完全に分かれており、使用設備や寮も別の敷地に建てられていた。


 これは学年の違いで生徒が萎縮しないようにとの配慮であり、そもそも大勢の生徒を一つの場所に固めないためだとも言われている。


 そしてスプライト棟の食堂では、まだあどけなさを残した生徒達が昼食を食べて、それぞれのテーブルで賑やかに話している。


 その話題はどのグループでも同じ内容の話をしていた。その内容は先ほど担任に配られた紙の中身、【Lv】についてそして【ステータス】についてであった。


 この二人も他の生徒達と同じくその話題について話しているのであった。

「【Lv.23】で『力』が113……? その辺のプロ冒険者ならアタッカー務められるレベルの数値だな……」


 イルミは手に持った紙の内容を見て、驚きと呆れ混じれに言う。


「ふふーん、凄いっしょ?」


 とクルクルと自分の髪で遊びながらシャミアは嬉しそうに答える。

もう一度イルミはシャミアのステータス欄に目を通す。



【ステータス】

『力』113『耐』35『速』60『器』33『魔』3



 なんてバランスの悪いステータスだろうかとイルミは思う。


「『力』の数値も驚きだが、『魔』の数値もどうなってるんだ? 一桁台って半年前から変わってないんじゃないか?」


「変わってるわよ。1上がってる」


 それでも2から3の違い


「半年で1ってあり得るのか?」


「仕方ないでしょ。レベルアップでのステータス上昇は選べないんだから」


「だとしても、熟練度でもう少し上がるだろ。【学業】の熟練度ボーナスは『魔』のステータスだろ?」


「レベルアップでの『魔』の上昇量が0で、【学業】の熟練度ボーナスで1よ。今までレベルアップで『魔』が上がった事なんてないもの。お陰で私は皆に超頭の悪い子って思われてるのよ!? もう最悪よ……」


 ウッウッと泣いたフリをするシャミアに向かってイルミは


「頭が悪いのは間違ってないだろ。入学して3年目で3しか上がってないのは勉強をしてない証拠だろ?」


「うっさい! 私はアンタみたいに文武両道を目指せる優等生じゃないの! それに私と同じくらいの子は沢山いるわ。でも、私の場合は目立つのよ! 『魔』のステータスがレベルで上がらないから! こんなの呪いよ呪い……」


「呪いね……」


 そうかもしれないとイルミは思う。特に自分達の場合は。


「ま、私の場合はむしろプラスに働いている事の方が多いだろうけどねー『魔』が上がらない分、『力』が上がりやすくなっているんだから。アンタに比べたらどうってことーー」


「ない事ないだろ?」


 イルミはシャミアの言葉を遮ってしまう。


「うん……そうかも。でも、おかげで強くもなってるから、アンタに負けないように」


「俺に負けないようにって、学年でもトップクラスの実力があるくせに」


「だって、将来英雄になるんでしょ? 負けないようにで合ってわ。アンタがどれだけ凄い人になっても私は隣で肩を並べていたいの。一人で置いてかれるのは悔しいもの、幼馴染として」


「随分、期待されたもんだな……」


 イルミはシャミアから受けた言葉に少し照れているのか口元が緩み微笑んでいる。


「ま、英雄になるっていうなら学年で一番強いくらいにはなって欲しいものだけど」


「学年で一番ね……」


 イルミは一番と聞いて真っ先にある人物を思い浮かべていた。それはシャミアも同じであり、誰が思い浮かべても同じ人物に行き着くだろう。それだけ圧倒的な実力を持った生徒がイルミ達と同じ学年にはいた。


「それはコーデリアさんに俺が勝てっ事か?」


「怖気づくの? まぁ、さっき他のクラスの子にコーデリアさんのレベル聞いたけど『Lv.30』って言ってたわ」


「ついにプロに成れるレベルかよ……俺達と同じ歳だよな?」


 冒険職の世界では『Lv.30』を超えると冒険者のライセンスが取れるようになっており、シンドレア学院ではブルームを卒業するまでの目標にこの『Lv.30』を超える事が一つあった。そ目標をコーデリアと言う人物はスプライトの3年でありながら達成していると言う事であった。


「あの子実家が騎士の家系でしょ? 国から依頼された討伐任務に加わってるって話よ」


「恵まれた環境にありながら、【女神の加護】までを持ってる。『生まれながらの天才』『約束された最強』『銀嶺の女神』色んな異名に恥じない訳だ」


「そんな天才って呼ばれているあの子に勝つ自信はある?」


 シャミアがイルミを見る眼差しには意志がこもっていた。イルミを試すような。信用しているような。そんな視線を向ける。


「……俺はーー」


「おいおい、まだここに居たのかよ? レベル1の雑魚が」


 イルミの言葉を遮ったのは、今度はイルミではなくギラついた目付きが特徴的な金髪の男の子。その周りには彼の取り巻きが数人立っている。


「なぁいい加減諦めろよ? レベル1でプロの冒険者になれる訳ないだろ? 大人しく別の職業見つけた方がお前の為だって、これは親切言ってるんだぜ俺は?」


 挑発的な笑みを浮かべ、悪意のある言葉を投げかけている。その少年の取り巻きはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。


ーーミシ


 シャミアが手を置いている机の上から軋む音がする。


「ねぇ、アンタこそいい加減にしろって私、言ったわよね? レオン?」


 金髪の少年はレオン。先ほどの授業中の教室でもイルミに対して不穏な態度をとっていた彼であった。


「チッ、お前は黙ってろよシャミア。いつも割り込んでくるんじゃねえよ」


 イラつきを隠さず一旦の矛をシャミアに向けるレオン。


――ビキビキ


 と遂には食堂の机にヒビが入り始める。


 それに気付いたイルミはそっと昼食として食べていた自分の弁当とシャミアの皿を持ち上げる。


「私とイルミが話ている時に、割り込んできたのはアンタでしょうが。邪魔しないでくれる?」


「はっ、なんでそんな奴と一緒にいるのか分からねえな。親の七光で入学した才能のない雑魚ーー」


――バンッ!!


 と、無惨にも机は真っ二つに折れ崩れてしまう。


 「あーあ」といったイルミの顔、急な大きな音に食堂中が鎮まりかえり、全員の注目がイルミ達の元に集まる。


「アンタ、あんまり好き勝手な事言うようならまた泣かすわよ?」


 目が本気である。完全にキレている様子である。


「あ? やってみろよ、ゴリラ女」


 机が壊れた事に全く同じる事なく、レオンもシャミアにメンチをきる。


「おい、シャミア、落ち着け?」


 イルミがなだめるように言うと。


「大丈夫よイルミ、落ち着いてる。落ち着いているから」


 とてもそんな様子には見えないシャミア、その目はうっすら赤く充血しているようである。それを見てイルミは


「一旦、昼食取ろう。な、それからにしたらどうだ?」


 イルミの手元には、無事にとっておいた二人の昼食が残っている。


「おい、テメェふざけてんのか?」


 再びイルミに怒りが向くが


「ふぅ、そうね」


 と、イルミの提案にシャミアは肯定の意志を示す。


「は?」


 と、疑問を浮かべているウチにシャミアはイルミの手から自分の昼食を取り上げ一気に掻き込み平らげる。


「あ、それ俺の分……」


 と、その勢いでイルミが食べていた弁当も全て食べてしまったシャミア。カラになった弁当箱をイルミに返すシャミアの目は充血が治っていた。


「ごちそうさまでした。美味しかったわよ、イルミ」


「そりゃどうも」


 自分の弁当を食べられてしまったが、弁当を美味しいと言われて満更でもない様子をイルミは見せる。


「なんなんだ、お前らは? チッ、冷めたわ。行くぞお前ら」


「あら、喧嘩売ってきたくせに逃げ出すんだ? 情けない男ね」


 取り巻きを連れてその場を去ろうとするレオンに向かってシャミアはこれみよがしに挑発をする。


「あ?」


 と、振り返りシャミアを睨みつけるレオン。


「おい、シャミア」


「大丈夫落ち着いてるから、それにぶん殴ってやらないと気が済まないわ」


 さっきの表情とは違い、シャミアの顔は少し微笑みが見える。


「はぁ……程々にしろよ……」


 元は自分が売られた喧嘩のはずだがイルミは既に他人事のように言い、席を立ってその場を離れる。


「おいおい、自分が売られた喧嘩を女に任せて逃げるのか?」


「イルミはアンタみたいな小悪党は相手にしないってさ。それより、やっぱり逃げた方がいいんじゃない? またベソと恥をかく事になるわよ、レオン?」


「減らねぇ口がベラベラと。乗ってやるよその挑発。そこまで言われて黙っていられるかよ」


 「おい!」とレオンが取り巻き言うと、木製の剣をレオンに渡すと、ブンッと一振りする。


「模擬戦だ!」


 そうレオンが叫ぶと


――わぁっ!


 と、固唾を飲んで様子を見守っていた食堂の生徒達が一堂に盛り上がりを見せる。

 

読んで頂きありがとうございます!毎日21時に投稿しているのでよければブックマークを押して頂ければ嬉しいです!

またYouTubeにて『熱き漢たかの熱唱熱遊Ch』にてゲーム配信をしているので良ければ遊びに来てください!

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